001【勇者召喚】
『異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました。』
初めての投稿になります。
楽しんでもらえたら、うれしいです。
ある日、取引先から会社に戻る道で、四人の男女高校生とすれ違ったときに、それは起こった。
オレたちの足元に魔法陣が光り輝き、オレたちを包み込んだのだ。
次の瞬間には、別の場所にいた。
石造りの薄暗い場所。窓明かりはなく、松明が赤々と燃えている。二十五メートルプールくらいの広さか。壁面には金属甲冑の騎士たちが並び、聖職者らしき者が数人おり、その向こうに王冠を戴いた男性ときらびやかな衣装の女性ふたり。3人とも金銀宝石で飾られた豪華なイスに座っていた。それで三人が、王様に王妃様に王女様とわかる。
オレの前には、一緒に召喚された高校生四人が、突然のことに驚いて、わけがわからず、キョロキョロしている。突然、景色が変わったのだから当然の反応だ。
聖職者たちが左右に分かれ、頭を垂れた。
王様が立ち上がり、声をあげた。
「異世界の勇者よ。よくぞ参られた」
「勇者?」と背の高い男子が反応する。
「もしかして、勇者召喚?」ともうひとりの男子。
女子ふたりもそれに反応している。
四人とも笑顔だ。喜んでいる、わけではなく、混乱しているのだ。“本当に?”と。
オレは彼らをつついた。
それに振り返る四人。“誰だ、このおっさん?”という顔をしている。
まぁ、おっさんではあるが、今はそれどころではない。
オレは小声で話す。
「君たちは勇者召喚がどんなものか、知ってるな?」
うなずく四人。
「これはダメなパターンだ」
よくわからない顔をする四人。
「奴らをよく見ろ。勇者召喚が成功したにもかかわらず、喜んだふうには見えない。呼べて当然という顔だ」
四人がまわりを確認する。
オレは続ける。
「おそらく何度も召喚しているんだろう。それに、困っているにしては、彼らは裕福そうじゃないか。邪魔者を排除するために勇者召喚したとしか思えない。どうだろう?」と彼らに考えさせる。
王様の演説は続いている。
そのあいだに、オレは声を出さずにステータスを呼び出す。
目の前にウィンドウが広がり、自分のステータスが表示された。
神様の前で出したときと変わらない。
良し。
「勇者たちよ」と王様。「この国を救ってはくれぬか」
四人がオレを見た。
「いくつか聞いてみる」
四人がうなずく。
オレは立ち上がり、王様に向かい、声をあげた。
「王様、発言をお許しくださいますか?」
「うむ、許す」
「私たちはもとの世界に戻れますか? もちろん、勇者一行として、敵を討ち果たしたあとですが」
「帰れる。だが、その魔法陣は敵が持っているから、討ち果たさねばならぬ」
これはウソだとわかっている。
「わかりました。我々が勇者であると、どうすれば、わかりますか?」
「ステータス・オープンと唱えよ。さすれば、自分たちの称号や能力がわかる」
オレは四人にうなずく。彼らもうなずき、みんなで唱えた。
みんなの前にステータス・ウィンドウが現れる。誰でも見れる状態だ。
「オレが勇者だ」と背の高い男子。
「オレ、賢者」
「私、大魔法使いだって」彼女は黒髪黒眼の美少女。優等生的な感じ。
「アタシが聖女?」彼女は金髪碧眼美少女。まぁ、髪はブリーチで、瞳はカラコンの見た目、外人だ。顔は日本人なので間違いないだろう。あるいはハーフかも。
四人が顔を見合わせている。そうしてオレを見た。
「オレ? オレは“勇者召喚に巻き込まれた人”」と“どうだ”と言わんばかりにふん反り返る。
「えっ? なんでドヤ顔なの?」と聖女に言われた。
「だって、笑うしかないじゃん、こんな称号」
“確かに”と笑顔でうなずく四人。
そこは否定してくれても良くない?
「では」と王様。「そなたには別室にて優遇するとしよう。巻き込んですまなかったな」全然、すまなそうではないな。
王様はひとりの騎士にうなずく。その騎士が会釈すると、オレに近付いてくる。有無を言わすつもりはなさそうだ。
オレは四人に小声で声をかける。
「逃げる。一緒に来るか?」
うなずく四人。
オレは用意しておいたスキルを発動した。
「バキューム!」
ガシャガシャと金属甲冑を鳴らして歩いていた騎士から、音が消えた。
その違和感に気付いたその騎士がおのれの姿を確認すると、唖然となる。
騎士の金属甲冑がなくなっており、腰に佩いていた剣もない。しかもアンダーウェア姿で足にはソックスだけ。
騎士はまわりの仲間たちを見回した。そこにいた騎士たちは、それに気付き、おのれの姿を確認する。彼らの装備もなくなっていた。
絶叫と喧騒で、戸惑いを示す彼ら。
次に聞こえてきたのは、女性の悲鳴。それもふたり。当然、王妃様と王女様だ。
そちらを見ると、身に着けていた装飾品の一切がなくなっていた。
そんなふたりの様子を何度も見比べているのは、真ん中の王様だ。彼も王冠をはじめとする装飾品がない。本人はそのことに気付いてもいないようだ。
城内のあちこちからも騒ぎが聞こえてきた。
「おい、勇者と賢者」
男子ふたりが、こちらを向く。
ふたりにそれぞれ、剣とメイスを渡す。
「どっから?」
「あとだ。勇者は剣技、賢者は棒術か何かが獲得できてないか?」
ふたりがステータスを確認する。
「ホントだ」「できてる」
「良し。大魔法使いはコレ」
彼女には、魔石のついた杖を渡す。
「聖女にはコレ」
彼女には、10センチほどの十字架のネックレス。
「使い方は?」
彼女たちがステータス確認。
「「わかる」」
「良し。オレはコレだ」
取り出したのは、棒の先にUの字型の金属がついたもの。そこには小さなトゲトゲもある。結構、重い。簡単な動作しかできまい。
「サスマタ?」と四人。
「以前、これを学校に売っていたんだ。で、先生方に使い方を教えてた。オレに剣は無理だしな。いいか、魔法使いは魔法でみんなを拘束する。そうしたら隊列を組んで出口から逃げる。勇者と賢者は前衛、魔法使い、聖女、最後がオレだ。行けるか?」
四人が顔を見合わせ、それからオレにうなずいた。
「良し。魔法使い、拘束」
魔法使いの詠唱がはじまった。
それに気付いたのか、騎士のひとりがこちらを見た。
「魔法の詠唱しているぞ! 構え!」
騎士全員がこちらに向かって構える。でも盾も剣もない。どうやら、だいぶ混乱しているようだ。ありがたい。
「拘束せよ!」と大魔法使いの叫び。
それとともに杖を右から左へと振る。
騎士たちがまるで波のように両手両足が縛られたように固まり立っていく。その中には、王、王妃、王女と聖職者たちも含まれた。
「良し。隊列を組め! 行こう!」
ドアに向かって隊列を組む。
オレのかけ声とともに駆け出す男子ふたり。それから女子ふたり。最後にオレ。
ドア目掛けて走る。
ドアにはドアノブはない。
「体当たり!」
男子ふたりが迷わず、ショルダータックルでドアに衝突する。
重くはなかったが、すぐに何かにぶつかった。
「おわ!」という驚きの声がふたつ聞こえた。ドア前の衛兵だろう。
勇者が外を覗く。
「衛兵みたいだ。でも丸腰だ」
「あぁ、城内は武装解除してある。心配するな。捕まらないことだけを考えろ。走れ」
勇者も賢者もうなずくと、ドアを抜けた。女子ふたりも。オレも。
ドア前には、よろけた衛兵ふたり。体勢を崩していたところを男子ふたりが蹴飛ばす。四人を先に行かせて、オレが衛兵ふたりをサスマタの柄で後頭部を叩き、気を失わせる。まぁ、すぐに気付くだろうが。
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