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第3部 第20話

うん、やっぱりやめよう。

山下教頭と森田先生には、「ちゃんと訪問しました」と適当に報告することにして、

もうこのまま家に帰ろう。



でも、

教師としての義務感と、

ほんの少しの好奇心が、

俺の右足にブレーキを踏ませた。



車が止まったのは、とてつなくデカイ黒い門の前。

その前には、イカツイ顔をした門番らしき男達が5人。


運転席の窓を開けると、今時どこでやってもらうのかパンチパーマの男が

すごみながら声をかけてきた。


「誰だ、テメー?」

「教師の本城と申します」

「きょーしぃ?なんだ、そりゃ」


・・・統矢のやろー・・・

今日、家に行くってちゃんと伝えておいたのに、

門番に言うのを忘れたのか?


いや・・・あいつのことだ。

わざと黙ってて、俺がここをどう突破するか高みの見物してやがるな!?




今日は、相楽がお世話になっている廣野家へ家庭訪問に来た。

俺はそんなのは不要だと思っていたが、

あんなことのあった相楽だ。

校長も教頭も心配して、俺に家庭訪問するように言った。


そういう訳で、ここ廣野家にやってきたのだが、

なんだこの家のデカさは?

入り口が分からず、塀に沿って車をずっと走らせ、ようやく門に辿りついた・・・

と思ったら、この始末だ。


統矢め!



ムカついて、思わず門番にすごみ返してしまった。


「ちゃんと約束してあるんだよ!統矢を出せ!」


もちろんヤクザでもないし、世間一般的に見ても「教師」という真面目な職業の俺だ。

すごんでみたところで、見た目に限界がある(と、俺は思っている)。


だけど、何故か門番の勢いは急に失速した。


「・・・お前、統矢さんのなんなんだ?」


ははぁ・・・

こいつの親分である「統矢さん」を呼び捨てにしてる俺が何者か、

不審に思ってるんだな?

もしかしたら、すげー大物かもしれないもんな。


まあ、大物でもなんでもない俺だが、

「統矢の何か」と聞かれると答えに困る。


俺って統矢のなんなんだろう?

うーん、敢えて言うなら・・・


「オトモダチ?」

「・・・と、統矢さんのご友人?」


ご友人なんて大したもんじゃありませんが、

と言い掛けたが聞いてもらえなかった。


門番は慌てて門を開けようとした。


「おい!ちょっと待てよ。そんな簡単に俺の言うこと信じていいのかよ?お前、門番だろ?」

「え?」

「もしかしたら、俺が嘘ついてて、実は統矢の命を狙ってる敵組の人間かもしれないだろ?」

「そ、そうだな。よし、やっぱり入れない」

「いや、それは困る。入れてくれ」

「なんなんだ、お前は」

「俺は朝日ヶ丘高校の教師だ」

「あさひがおかこうこう?聞いたことねーな。やっぱり嘘ついてんな?」

「・・・朝日ヶ丘だぞ。すげー有名な私立だぞ?なんで知らないんだ。さすがヤクザだな」

「ああ!?なめてんのか!?」



そんなこんなで、30分近く門の前で押し問答していたが、

異変に気づいたのか、ようやく統矢が出てきた。


「門番に説教してるフザケタ奴がいる、って聞いたが・・・お前か、真弥。さすが教師だな」




バカでっかい広間に通され、俺はキョロキョロとあたりを見回した。

塀の長さから想像はしていたが、

やっぱり文句なしに広い家だ。


庭もちょっとした公園くらいはある日本庭園。


堀西の同級生の中にもデカイ家に住んでいる奴はいたけど、

ここまで広い家はみたことがない。


「この広間、何畳あるんだ?」

「さあ。数えたことない」

「ちょっと数えてみていいか?」

「・・・お前、何しに来たんだよ」

「家庭訪問」

「って、何するんだ?」

「さあ?」

「・・・」


だって!

家庭訪問なんてしたことないんだ。

仕方ないだろ。


「まあ、相楽が世話になってる家がどんなとこか見に来ただけだ。あと、保護者への挨拶」

「保護者?俺だろ」

「違う。統矢なんか俺と変わらないくらい若いし、親のすねかじってるただのボンボンだろ。

相楽の保護者は統矢の親だ」

「な、なんだと!?」


統矢が赤くなって叫んだ。

とゆーことは、そういう自覚があるんだな。


広間の入り口にいる、見張りらしき数人の男達も、

一斉に噴出す・・・のをかろうじて堪えた。

が、一人、やたらデカイ男だけが遠慮なくゲラゲラと笑った。


「あはは、面白い男ですね」

「大輔!笑うな!!」

「誰なんですか?統矢さん」


大輔と呼ばれた男は、愉快そうに俺を眺めた。

こいつ、歳は俺や統矢と変わらないぐらいだが、とにかくデカイ。

190センチくらいあるんじゃないか?


「コータの兄貴だ」

「コータの?」


大輔という男が目を見開いた。


「かつ、小雪の学校の担任」

「コータの兄貴で、小雪の担任で・・・統矢さんの友人?」


男が俺を哀れむような目で見た。


「苦労してるんだな、あんた」


わかってくれますか。




それからほどなくして、広間に一人の男が入ってきた。

統矢と顔はあまり似ていないが、一見して「組長」と分かる。


いや、見た目はちょっと渋くてかっこいい50代の男だ。

だけど・・・なんというか、風格がある。

トップに立つ者の風格。


俺は無意識のうちに、姿勢を正した。


「相楽小雪の担任の本城と申します」

「廣野大吾だ」


組長はゆっくりと腰を降ろした。

別に周りを威圧してるわけではないのだが、

部屋中の空気が少し張り詰める。

統矢や見張り達の態度も変わる。


さっきまでのオチャラケた雰囲気なんて一瞬にして吹っ飛んだ。


「相楽がお世話になっています。それに弟の幸太も。申し訳ありません」

「いや、小雪はよく働いてくれている。たまに間抜けたこともするがな」


刺身事件だな。

相楽の奴、この組長によくあんなことできたもんだ・・・


「コータはもちろんまだ組の仕事はできないが、中々骨のある奴だ。

将来が楽しみだ」


そう言って組長はニヤリと笑った。

いずれ幸太を組の為に使うつもりなんだろう。


「・・・ありがとうございます」


まあ・・・この組長の下で働くのなら悪くない。

下手な会社社長なんかより、よっぽど出来た人物だ。



組長は、それから少し相楽の家での様子などを話し、

自室へ引き上げていった。


組長が広間から出て行った瞬間、俺は思わず大きくため息をついた。

なんか・・・変な汗かいた。

いや、冷や汗か。


「統矢」

「なんだ?」


俺は広間の入り口付近に立っている統矢に声をかけた。


「お前、頑張れよ」

「・・・何を?」

「あの組長の跡を継ぐんだろ?大丈夫かよ、お前で」

「うるさい!!!!」


今度こそ、見張りの男達全員が噴出した。




そのままいつものノリで統矢とグダグダ話していたら、

食材の買出しに行っていたらしい相楽が帰って来た。


相楽は「明日は日曜で学校お休みですよね!?」と、

しきりに俺に夕飯を食っていくように薦めた。

統矢は「えー!?」と、嫌そうな顔をしたけど、

何故か他の男達も相楽と一緒になって引き止めてくれたので、

俺は遠慮なくご馳走になることにした。


「ほんと、遠慮のない奴だな」

「お前の子分達が薦めてくれたんだろ」

「そーだけどさー・・・あいつらめ・・・」

「そうだ。薦めるで思い出したんだけど、」


俺は刺身をつまみながら、ビールが入ったコップに手を伸ばした。


「ちょっと待て、真弥。お前、車で来たんだろ。飲んでいいのかよ」

「統矢でもそんなこと気にするんだな」

「くだんねーことで、警察の目に止まりたくないんだよ。それを足がかりに、

家に入ってこられちゃたまんねーからな」


なるほど。


「大丈夫。車置いて帰るから。明日取りに来る」

「・・・どこまで遠慮のない奴なんだ」

「それはそうと、統矢って『小悪魔的お天気お姉さん』って好きか?」

「好き」

「やっぱり。でもちょっと遅かったなー」

「なんの話だ?」


俺が篠原先生の話をすると、統矢が目を輝かせた。


「いいな!その女!連れて来い!」

「だから、もう婚約したんだって。しかもどこぞの政治家の息子らしいぞ」


篠原先生が俺に声をかけたのは、やっぱり俺が堀西出身と知ってのことか。


「そんなことどーでもいい」


よくない!!!


「それにどうせまた、一晩だけなんだろ」

「まーな」

「・・・じゃあ、ますます紹介できない」

「お前、その女に痛い目にあわされてるんだろ?こんなところで遠慮するな。元々無遠慮なくせに」

「・・・」

「で、そのお前の彼女の話、聞かせろ」

「なんでそんなに食いつくんだ」

「お前の関係者を二人もここに置いてやってるんだ。それくらい話せ」


俺は仕方なく、

料理を運んでいる相楽と、

いつの間にか学校から帰って来て飯の席に加わった幸太に聞こえないように、

月島のことを話した。


それにしても、統矢。

あくまで俺の直感だが、篠原先生みたいなのが好きと言いつつ、

本当は、相楽のように普通な感じの女の方が好きなんじゃないだろうか?


実はタイプではない篠原先生みたいな女としかつるまないから、

一晩専門になってるだけじゃないのか?


・・・気をつけてくれよ、相楽。



「へー。じゃあ、半年も禁欲生活なんだな」

「そーゆー意味じゃ、半年どころの騒ぎじゃないけどな」

「え?」

「高校生のうちはしたくないんだとさ」

「・・・1年くらい前から付き合ってるんだよな?てことは、この1年も、これからの半年も、無しなのか?」

「そうだな」

「おい、真弥、大丈夫か?お前、どっか身体悪いんじゃないのか?」


なんてことを言うんだ!!!!


「・・・まあ、俺も最初そう言われた時は、無理!って思ったけど、なんとかなるもんだ」

「えー・・・。誰か紹介してやろうか?面白いの、結構いるぞ?」


へー。

いや。いかんいかん。


「ダメ。後5ヶ月くらいの我慢だ」

「意外と一途なんだな。コータにバカにされるぞ」

「おい。幸太に変なこと仕込むなって」

「コータもだけどさ。小雪にも仕込もうと思って」

「何を!?」

「運転」

「は?」

「免許取らせて、食材の買出しとかの時に車を運転させようと思うんだが、どうだ?」

「運転?相楽が?」

「・・・やめといた方がいいか?」

「・・・・・・」




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