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第3部 第19話

軽く、娘を嫁に出す父親の心境だ。



「相楽・・・お前、本当に統矢の家に行く気かよ?」


翌日、俺はでっかい鞄を抱えて登校してきた相楽を捕まえて聞いた。


「はい!森田先生にも、説明してお礼を言ってきました」

「説明って・・・」

「あ、ヤクザのお家に行くとは言ってませんよ?

本城先生の知り合いのお家で働くことになりました、って言っておきました」

「・・・」


いいのか・・・

本当に、これでいいのか・・・


「相楽。廣野組ってかなり大きなヤクザだぞ。何か危険なこととかあるかもしれないぞ?」

「へー、廣野組って言うんですね」

「・・・」

「でも、先生の弟さんもいらっしゃるんですよね?」

「・・・」

「じゃあ、きっと大丈夫です」


どこが「じゃあ」なんだ!!

森田先生も言ってたけど、相楽、結構抜けてるな・・・

そーゆー意味でも大丈夫かよ・・・


可愛らしい顔で無邪気に笑う相楽を見て、

俺は、昨日相楽が帰った後の統矢との会話を思い出した。





「おい、統矢。本気かよ?」

「何か問題でも?」

「・・・」

「安定している、住み込みで働ける、給料ももらえる、人間関係も構築できる。

真弥の理想通りだろ」

「人間関係って・・・ヤクザとそんなもん構築してどうする」

「お前もコータもしてるだろ」


確かに。


「それに!安定してるのか!?」

「少なくとも俺が死ぬまで組を潰すようなことはない。

まあ、どうせアイツもそんな長くはうちで働かないだろうし」

「え?そうなのか?」

「たいていの女中は組員と結婚して仕事辞めるんだ」

「・・・相楽がヤクザの嫁になると?」

「結構可愛らしい顔してたじゃないか。すぐ誰かの目に止まるだろ」

「おい!絶対に危険な目にあわせるなよ!」

「それは親父や俺が目を光らせてるから、大丈夫。たぶん」

「たぶん、じゃダメだ!!!」

「わかったよ、うるせーなぁ」



あああ、心配だ。

幸太の時の何倍も心配だ!

なんだかんだ言っても、幸太は男だし、なんとかなるだろうと思ってた。

でも相楽は女だし、抜けてるし・・・うわあ、マジで心配だ・・・


だけど、正直今は他に手段がないのも事実。

しばらくは統矢のところに預けるしかないのかもしれない。


でも、そうこうしてるうちに、相楽がヤクザの嫁になってしまうかも・・・

相楽が幸せなら、それはそれでいいのか?


・・・なんか、何がいいのかわからなくなってきたゾ。




「うー・・・」

「先生?」

「相楽・・・本当に大丈夫か?危険だったらすぐに逃げ出せよ?」

「統矢さんて、先生のお友達なんですよね?いい人そうだったじゃないですか。大丈夫ですよ」

「お友達じゃない!いい人じゃない!」

「え?仲良しだったじゃないですか」


仲良しじゃなーい!!!!!!



変な先生、と笑いながら教室に入って行った相楽の後ろで、

俺は一人苦悶した。




だけど、事態は俺が危惧したほど悪くなかった。

統矢や幸太の話では、相楽は「小雪、小雪」と呼ばれて廣野組の連中にかわいがられているらしい。


「抜けてるけどな」

「・・・なんかやらかしたのか?」

「晩飯の刺身に、醤油と間違ってソースを添えて出しやがった。しかも親父の膳に」

「統矢の親父って・・・」

「組長」


相楽!!大丈夫か!?本当に大丈夫か!?


「親父、一口食べて、目を白黒させてやがった。小雪のやつ、案外大物になるかもな」


俺の心配をよそに、統矢はいとも楽しそうだ。


そして、当の相楽本人も廣野家での生活を結構楽しんでいるようだ。

その証拠に、相楽の奴、ここのところなんだか明るくなった。

学年で唯一1人だけ受験しないということもあり、

積極的に雑用をこなしてくれる。

体育祭の準備も3年の担当分はほとんど相楽がやってくれた。


教師も生徒も相楽の変わり様に驚くばかりだ。


月島からも久々に「相楽さん、どうかしたんですか?」とメールが来た。

詳しく説明すると長くなるので、「統矢の家に住みだした」とだけ返事したが、

月島はそれでじゅうぶん納得したようだ。


そして、もう一つ。相楽が毎日、自ら進んでやってくれていることがある。

それは・・・





「はい、先生」

「おー、いつも悪いな。ありがとう」

「いいえ。今日はハンバーグに挑戦してみました!」


昼休みの職員室。

相楽が俺に弁当箱を渡すのを見て、

門脇先生が、「愛妻弁当ですか・・・いいなあ」と呟いた。


良いこととは言えないが、

教師はみんな、相楽が俺の知り合いの家で働きだした事情を知ってるので、

(さすがにヤクザの家ということは隠してるけど)

相楽の俺への感謝の気持ちだということで、卒業まで大目に見てくれている。


もっとも、俺が何かしてやった訳じゃないんだけど・・・

まあ、せっかくの相楽の好意だからありがたく頂くことにした。


え?ラッキー、とか思ってるんじゃないかって?

いえいえ、そんなこと・・・


「愛妻じゃないけどな」


門脇先生は、相楽が職員室を出て行ったのを目で確認してから言った。


「そうでしたね。本命は別でしたね」

「・・・。篠原先生に作ってもらえよ」

「あー・・・篠原先生とは別れました」

「賢明かもな」

「でも、生徒とは言え、別の女が作った弁当を彼氏が食べてたら、気分良くないんじゃないですか?

本命さんは」

「そんな心の狭い奴じゃないぞ。多分違うぞ。きっと違うぞ・・・うん・・・」

「一言、了解取っといた方がいいですよ?」

「・・・そうする」


そうか。篠原先生と門脇先生は別れたのか。

でもって、きっと篠原先生は来年の新人にまた手をだすのだろう。

大したお天気お姉さんだ。


篠原先生か・・・

小悪魔的お天気お姉さん。

なんか、統矢とお似合いな気がしないか?


俺や門脇先生みたいに普通の男じゃ、篠原先生は手に余るけど、

統矢なら上手く扱えそうだ。


いっちょ紹介してみるか。

でもこじれたら面倒だな。



そんなことを考えながら、

かつ、

このハンバーグについてるのは本当にケチャップだろうな、

とかビクビクしながら弁当を食ってると、

校長がいきなり「みなさん、聞いてください!」と声を上げた。


「朝礼で時間がなかったのでご報告が遅れたのですが、」


なんだ、なんだ?

こんな風に昼休みに校長が話をするなんて初めてのことなので、

みんな興味津々と言った表情だ。


「篠原先生が、ご結婚されることになりました」


・・・・・・

俺と門脇先生は、こっそり目を合わせてため息をついた。




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