第3部 第10話
藍原、B+
飯島、C+
三浦、A-
月島、A-
「遠藤は・・・」
D-
き、厳しい。
3年生は夏休みに入っても補習がある。
偏差値が足りない奴は必須、
足りてる奴は自由参加だが、夏休み初日と最終日に行われる全国模試は全員参加だ。
で、初日に行われたテストの結果がお盆直前に事務局から戻ってきた。
判定がC+以上なら、まあ志望校は大丈夫だろうが、
遠藤はD-。
「絶対無理!」と言うレベルではないものの、厳しいことには変わりない。
藍原の偏差値をわけてやりたい。
俺はため息をつきながら、成績表を片付けた。
今日から10日間は補習もなく、生徒達は学校に来ていない。
これを渡すのはお盆明けだな。
早く渡したほうがいいんだけど。
俺は月島の成績表と答案用紙を鞄に入れると、学校を出た。
翌日。
俺は、フロントガラスから眩しい朝日が差し込む車の中で、
成績表と答案用紙を月島に渡した。
月島は受け取るとすぐ、そのまま鞄にしまった。
「見ないのか?」
「見たいですけど・・・せっかくのお出掛けだから、今日は勉強のことは忘れます」
「でも、顔に、すごく気になる!って書いてるぞ」
「・・・」
「着くまで2時間くらいあるから、見といていいよ。
はい、問題用紙も一部持ってきた」
「・・・ありがとうございます」
月島は成績表と答案用紙を鞄から取り出すと、
早速成績表を開いた。
「A-・・・よかった」
月島は心底ホッとしたような表情をした。
「でも、H大模試ではB-だったから、まだまだですね」
「そうだな。リスニングがもうちょっと取れるとだいぶ変わるんだけどな」
「先生、頑張ってください」
「・・・今日も?」
「はい。私も頑張ります」
つまり、会話は英語でやれってことだな。
という訳で、以降の会話は英語で行われた。
(作者の英語能力の関係で、文字は日本語のままみたいだけど)
月島も極力英語で返す。
「でも、月島、たまに間違ってすげー面白い英語言うからな」
「・・・仕方ないじゃないですか」
「はいはい」
お盆初日のため、高速は渋滞が酷くて、2時間の予定が3時間以上かかってしまったけど、
到着と同時に月島のテスト復習もちょうど終わり、月島はスッキリした顔をしていた。
今日の行き先は海。
と言っても、泳ぐわけじゃない。
ただ海岸を散歩するだけだ。
だから賑やかな大きな海水浴場ではなく、小さな海岸を選んだ。
釣りをしてる人や俺達みたいに散歩してる人、写真を撮ったりしてる人が、ちらほらいるくらいだ。
「今日は描かないのか?」
「はい。せっかくですから先生と歩きます」
「うん」
クリスマスに鎌倉に行った時のように、俺達は手を繋いでブラブラ歩いた。
昼に海が見える丘にある小さなレストランでのんびり食事をし、
また歩いたり、地元の物が売ってる店に入ったり・・・
次にこんなことができるのはいつだろう?
もう受験が終わるまで無理かもしれない。
3年生は3学期の授業がない。
補習や自習の為に、みんな学校には来るけど、
俺が接する時間は極端に減る。
実質、俺が生徒の為に何かしてやれるのは、2学期が最後だ。
そして、3学期が、受験が終われば卒業式。
今までは、月島とのことがあるから、とにかく卒業式が待ち遠しかった。
だけど最近、妙に寂しくなる。
来年の4月からは、月島はもちろん、藍原も遠藤もみんないなくなる。
俺はおそらく、新1年生の担任になるんだろう。
寂しくもあり、楽しみでもある。
「先生?」
「ん?」
「どうかしました?」
急に黙りこくった俺を、月島が心配そうに見上げる。
「いや、なんでもない。そろそろ帰ろうか」
俺はオレンジ色に染まる海を見ながら言った。
「・・・はい」
月島はちょっと残念そうに頷く。
今日も月島はうちに泊まる。
だからもっと遅くなってもいいんだけど、
明日からの勉強に響かせたくない。
今日はもう帰って、一緒にゆっくり寝よう。
月島母には、本当に感謝だ。
お陰で俺も月島も、変なストレスを抱え込まないでいられる。
車が動き始めると、5分も経たないうちに月島はウトウトし始めた。
相変わらず車の揺れが心地よいらしい。
ウトウトして、
でも急にハッとして、頭を振って目を覚まそうとするが、
またすぐにウトウトする。
ぷぷぷ。
これも相変わらず。
遠慮せずに寝ればいいのに。
こんなことで遠慮してるうちは、まだまだだなあ。
乗った瞬間に「じゃ、おやすみ」とか言って堂々と寝れるくらい、
俺に慣れてくれよな。
でも、俺も自分で思ってるより、だいぶ疲れていたらしい。
家につくといつの間にか、二人してベッドで眠りこんでしまった。
目が覚めたのは、夜の11時だった。
「・・・うわー・・・中途半端な時間・・・」
結構寝たから目が覚めてしまい、また寝れそうにはない。
でもここで完全に起きてしまうと、
昼夜が逆転してしまいそうだ。
まあ、俺は別にそれでもいい。でも月島は・・・
と、思った瞬間、俺の気配で月島も目を覚ましてしまった。
「・・・あれ・・・今、何時ですか?」
「11時。夜の」
「・・・中途半端ですね・・・」
やっぱり?
「どうする?起きる?もう一度寝る?」
「・・・お腹がすきました」
「・・・確かに」
そういえば昼飯食ってから何も食べてない。
それに気づくとますます腹が減ってきた。
俺達は、ボーっとする頭のままコンビニに向かった。
「これと、これと・・・後、これと、これ」
俺は次々に、月島が持つカゴに弁当やらパンやらを放り込んだ。
「こんなに食べるんですか?」
「朝飯も」
「あ、そうか。じゃあ私も」
まだ頭が正常に働いていないのか、
月島は、「サンドイッチと、食パンと、サンドイッチと・・・あれ?」とかとぼけながら、
なんとか目当てのものをカゴに入れた。
支払いを済ませ、買い物袋を手に、自動ドアを出た、
いや、出ようとしたところで、月島が足を止めた。
「どうした?」
「・・・」
月島がポカーンとして、何かを見ている。
・・・なんだ。
何故かすげー嫌な予感がする。
前にもこんなことが、あったような・・・
俺も、月島の視線の先に、恐る恐る目を向けた。
「・・・こんばんは」
「・・・こんばんは」
「・・・こんばんは」
「・・・おつかれさまです」
そこには、俺達に負けず劣らずポカーンとした、
篠原先生と門脇先生がいた。




