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第3部 第9話

「そんなことがあったんですね!」

「月島・・・なんでそんなに目を輝かせる?」

「だって!すごいじゃないですか!!」


土曜の夜にうちにやってきた月島に、

この2週間の「ファンタジーの世界 お散歩ツアー」の話をした。


ただし、西田の事件は割愛した。

だから、統矢との出会いは「俺と幸太が不良に絡まれてるところを助けてくれた」と言っておいた。


「じゃあ、先生の弟さんの・・・幸太君?は、これからその統矢さんって人のところで住むんですか」

「そうなるな」

「すごい・・・よくそんな決断しましたね。幸太君も、先生も」

「うん」

「その統矢さん、よっぽど信頼できる人なんですね」


一晩専門だけどな。


「いつか会ってみたいなー」

「だ、だめだ!!」

「どうしてですか?」


一晩専門だから!

じゃ、なかった。


「ヤクザだから!」

「でも、悪い人じゃないんですよね?」

「・・・微妙」


あいつ、「コータの預かり賃だ」とか言って、これから月1回、俺に晩飯奢れと抜かしやがった。

いたいけな安月給の高校教師を苛めるな。


「ふーん・・・でも・・・」


月島はなにやら考え込んだ。


「先生のご実家って、どうなるんですか?」

「え?」

「先生も幸太君もいなくなっちゃって、誰が事務所を継ぐんですか?」

「さあ。でも弁護士はたくさんいるし、心配いらないと思う」

「そうかもしれませんけど・・・お父さんはがっかりされてるでしょうね」

「・・・」


息子が二人もいるのに、どちらも家を継がずに出て行ったんだ。

がっかりはしているだろう。

でもあの父さんのことだ。

きっと次の案を考えているに違いない。


「先生は、どうして教師になろうと思ったんですか?」

「それはだな。手のつけられない不良だった俺を何とか更生させようと、

熱血指導してくれた金八先生のような教師がいて、その人に憧れてだな・・・」

「先生」

「はい。冗談です」


俺は笑った。


「でも、高校時代にいい先生に恵まれたのは本当だよ。それで俺もあんな風になれたらいいな、って

思ったんだ。弁護士の仕事は子供の頃から興味なかったし」

「そうなんですか・・・」

「どうした?」

「いえ、私のしたいことって、何なんだろうって思って」

「今から考えるのもいいけど、大学行ってからゆっくり考えても遅くないと思うぞ」

「・・・そうですよね」


月島は、自分を納得させるようにうんうんと頷いて、机に向かった。


が。


「あ!言うの忘れてた!」

「え?」


月島が振り返る。


「明日さ、俺、朝から出かけるんだ」

「そうなんですか?じゃあ私も先生が家を出るとき一緒に出て、帰ります」

「悪い・・・メールしようと思って忘れてた」

「いいですよ。何か用事ですか?」

「・・・えーと・・・」

「先生?」

「・・・歩とボーリングに・・・」

「先生」


月島がムスっとして俺を見る。

俺って嘘がつけない正直者だなあ。


「・・・藍原達にボーリング誘われたんだよ。断りきれなくて」

「そうですか」

「歩も一緒ってのは本当だぞ」

「そうですか」

「・・・怒ってるのか?」

「別に」


怒ってるぞー・・・


「月島も行くか?」

「行きません」


ですよね。


「・・・ごめん、って」

「・・・」


月島は何も言わず再び机に向かった。


「怒るなよ」

「私は勉強してるのに、先生は他の女の子達と・・・しかも私と同じ受験生と遊びに行くんですね」


嫌味を言っている自分自身が嫌になったのか、月島はトーンダウンしていく。

嫌味を言うなら、いやみったらしく言い切ればいいものを、

そうできないのが月島らしい。


俺は苦笑して月島の手を引いた。


「おいで」

「・・・」


月島は椅子から立ち上がり、ベッドの俺の横に座った。


「わかった。じゃあ明日は行かない」

「・・・違うんです。いいんです。行ってください」


月島の目がウルウルと揺れる。

普段こんなことで泣く月島じゃないけど、

やっぱり受験生だからなのか、ちょっとデリケートになっている。

抱き寄せると、堪えきれなくなったのか、ポロポロと涙が零れ落ちた。


「ただ・・・私も先生とどこか行きたいの我慢してるから・・・」

「うんうん。そうだよな。ごめんな。卒業したらいっぱい出かけような」

「はい。変なこと言ってごめんさい」

「・・・夏休みになったら、また1日だけ遠出しようか」

「え?」

「月島もたまには息抜きしないとな」


月島は顔を上げると、またポロポロと泣き出した。






「遠藤58、改め、遠藤45」

「・・・なんだよ、それ?」


俺はスコア表を見てため息をついた。


歩を含め、クジで二人一組になって対戦をしたのだが・・・


「普通に考えれば、飯島・歩ペアが断然不利なはずなのに、なんで俺達がビリなんだ?遠藤45」

「俺のスコアが45だから」

「正解」


突然遠藤が、「合点!」言わんばかりに顔を輝かせた。


「そうか!遠藤58の58って、俺の偏差値か!なるほど!」

「・・・」

「でも、今は少し上がってると思うけど」

「どれくらい?」

「遠藤59」

「・・・」


偏差値59(1しか上がってねーし!!)もどうかと思うが、

ボーリングのスコア45って!!!

歩ですら、96だぞ!?


「昼飯は本城先生と遠藤の奢りだな」


三浦がニヤニヤして言う。

・・・三浦。お前、なんかその顔ワルっぽいぞ。

さては、優等生ぶってるけど実は腹黒クンだな?


「遠藤の奢りだ。俺はちゃんと頑張った」

「俺だって頑張ったぞ!ベストスコアなんだから!」


遠藤以外の5人が一斉に引いた。



俺の力説もむなしく、結局昼だというのに焼肉屋にひっぱって行かれた。

店に向かう途中、歩が小さな声で聞いてきた。


「月島さんは今日は何してるんだよ?」

「さあ。勉強してるんじゃないか」

「連れてこいよー」

「無理。そういえば、今日は森田先生達はどこか行ってるのか?」

「・・・うん」


歩が俯く。

でも落ち込んでるという風ではなく、照れくさそうだ。


「なんだよ。さては昼間っからホテルにでも行ってるんだな?」

「真弥。小学生にそんなこといっちゃダメだぞ」

「それもそうだな」

「まあ、当たらずとも遠からず、だけど」

「え?そうなのか?」

「うん。産婦人科に行ってる」

「・・・・・・」







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