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第3部 第7話

幸太がその後どうしたのか気になったが、

ああやって突き放した以上、

俺にはどうしてやることもできない。


気が重いまま月曜を迎えた。

だけど、3年5組の教室に入ると、

いつもの明るい面々がそんな憂鬱も吹き飛ばしてくれた。


「せんせー!中間テスト頑張ったご褒美に遊びに連れて行って!」


藍原ともう1人、飯島と言う女子生徒が俺のところへ走ってきた。


「・・・吹き飛ばしすぎだ。お前ら受験生だろ」

「だから、よ」

「え?」


藍原がチラリと振り返った。

そこには机に座って英単語の勉強をしている遠藤が。


「最近遠藤、頑張りすぎてるから。ちょっと息抜きした方がいいかな、と思って」


確かに最近、遠藤は物凄く頑張っている。

昼休みのバスケの回数もかなり減らして、勉強しているくらいだ。

そろそろ「遠藤58」から「遠藤60」くらいに進化してるかも。

ちょっとくらい息抜きしないと、来年までもたないかもしれない。


「って、俺を誘うな。二人でどっか行けよ。飯島も」


俺は飯島を見た。

3年になり、藍原は2年の時仲の良かった浜口・谷田とクラスがわかれた。

それで今、このクラスで仲良くしているのが飯島だ。


飯島は藍原とも月島とも違うタイプの女子生徒で、

成績も見た目も至って平均的。

性格的にも特に明るいという訳でもない。

藍原と何故こんなに仲が良いのかわからない。


ただ、この飯島。

1年の時から付き合っている彼氏がいて、

今では「ラブラブ」を通り越して「おしどり夫婦」の域だ。

3年のクラス分けの際にも、教師の間で「このカップルは同じクラスでしょ」と意見が一致し、

彼氏の方も5組にいる。


それが、廊下側の席に座っている三浦と言う男子生徒。

三浦は、これまた(申し訳ないが)「何故、飯島と!?」と思わず言ってしまいたくなるイケメン。

成績もよく医学部志望だが、堅苦しくなく、気さくな性格。

となれば、女子生徒の間でも大人気だ。

遊ぼうと思えばいくらでも遊べるだろうに、

何故か飯島一筋。


でもそんなところがまたカッコイイと、三浦人気に一役かっている。

高校時代の俺に見習わせたいゾ。


そういえば、三浦と遠藤って仲が良かったな。

こいつら繋がりで、藍原と飯島も仲良くなったのかもしれない。


「とゆーことは、遠藤・藍原・三浦・飯島を、俺がどこかに連れて行け、と?」

「うんうん」

「なんで教師が生徒の息抜きに付き合わないといけないんだよ。

しかも、お前らだけなんてエコヒイキできない」

「だって、遠藤って先生と一緒だと楽しそうだし」


お友達レベルだなー。

いい加減「教師」にレベルアップさせてくれ。


突然飯島が、そうだ!と手を打った。


「先生。今度の日曜の10時にS町のアオイボールにいてください」

「え?」

「一人でボーリング、しててくださいね。『偶然』私達もそこに行きますから」


なんだ、その偶然。

第一、一人でボーリングって、どんだけ寂しいんだ。


「それいい!じゃね!」


俺が何か言う前に、藍原は飯島の手を引いて席に戻ってしまった。

藍原の奴・・・

敢えて俺の返事を聞かなかったな?

こうすれば俺が行かざるを得ないのをよくわかってやがる・・・。


でも、分かっていながらまんまと罠にはまってしまうんだろうな、俺。

なんていい奴なんだ。


俺が自画自賛していると、また一人生徒が教壇のところに来た。

相楽さがらという女子生徒だ。

2年の時は、確か森田先生のクラスだった。


「先生。これ、提出が遅れてすみませんでした」


そう言って相楽が俺に差し出したのは、

保護者向けのアンケート。

提出期限はもう1週間も前だ。


「ああ。いいよ、ありがとう」


俺が受け取ると、相楽は軽く礼をして、席に戻った。


もういい加減暑くて、制服も夏服に変わったというのに、

相楽はいつも長袖のブラウスを着ている。

色白だから、焼けると痛いのかもしれない。


そういえば、相楽も遠藤・藍原と同じくY大志望だけど、

まだ偏差値は足りていない。

遠藤同様、頑張ってはいるんだけどな・・・。


今年はY大にうなされそうだ。





「コン坊、今度の日曜暇?デートしない?」

「無理」


職員室でコン坊を誘ったが、あっさり振られてしまった。

大方、宏と約束でもあるんだろう。


コン坊の隣の門脇先生が机から目だけ上げて、俺を見る。

「仕事中にそんなこと話すな」とその目は言っている。


・・・なんだよ、いいじゃん、ちょっとくらい。


でももちろん門脇先生の方が正しいので、

俺は今度は小声で森田先生に話しかけた。


「今度の日曜、歩預かりましょうか?」

「え?いいの?」


森田先生が間髪要れず嬉しそうな声を出した。


森田先生はやはり子供好きで、毎日歩とゲームをしたり公園で遊んだりしてるようだが、

やっぱり新婚さんなのだから、麻里さんと二人きりの時間も欲しいのだろう。


「土曜から預かってくれてもいいよ」

「いいですよ・・・いや、ダメです!土曜は預かれないんです!」

「あはは、冗談だよ。じゃあ日曜、お願いするね」

「はい。9時頃、迎えにいきます」


よし。

とりあえずこれで「一人ボーリング」は免れた。

って、別にゲームせずに藍原達を待ってりゃいいんだけどさ。


月島にはメールで言っておこう。

・・怒るかなー?

受験生の彼女を置いて、

他の受験生達と遊ぶんだもんなー・・・


いや、月島はそんな子供じゃないぞ。

分かってくれるはずだ、うん。



俺が一人勝手に納得していると、

ポケットの中の携帯が震えた。


この震え方は、別世界の人間からの電話だな。


俺はロッカールームへ急いだ。



「俺、まだ昼飯食ってないんだけど」

「・・・また奢れと?」

「弟の面倒見てやってるんだ。恩に着れ」

「お前は恩着せが増しすぎるんだ」


どちらにしろ今日は無理だ。


「じゃあ、今度、夕飯でいいや」

「オムライスなんかどうだ」

「おお。いいな」


・・・冗談の通じない奴だ。

てゆーか、本気で嬉しそうだし。

どんだけ卵好きなんだ。


「それはともかく。お前の実家は子供にどれだけ金を持たせてるんだ」

「は?」

「コータの奴、きっちり百万持ってきやがった」




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