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第3部 第4話

次の水曜日。

俺は4限と5限の授業がないのをいいことに、

離業して昼前に学校を出た。


向かった先は大和商事。


廣野を合コンに誘いに・・・では、もちろんなく、

土曜のことの礼を言いに来たのだ。



受付で廣野の呼び出しを頼み、

ロビーのソファーに腰を降ろす。



都内の一等地に、これほど大きなガラス張りのビル。

ロビーは3階くらいまで吹き抜けになっている。

凄い。

さすがは大和商事だ。


出入りしている人も、ちゃんとしたスーツを着た「いかにもエリート」という感じの人ばかり。

普段、のほほんと職員室でお茶を飲んでる俺とは雲泥の差だ。


あいつ、本当にこんなところで働いてるのか?



だけど5分ほどすると、当の廣野がエレベーターから降りてきた。

いや・・・本当にあいつか?


背格好は間違いなく廣野なのだが、

顔つきが土曜とは全然違う。

キリッとして、でも、落ち着いていて涼しげな目をしている。


おお。エリート商社マンっぽいぞ。



でも俺を見るや否や、廣野はあの時と同じ、人を食ったような表情になった。

なんだ。やっぱりあいつじゃないか。


「誰かと思ったらテメーか」

「悪かったな、仕事中に」

「そんなことどうでもいい。それより後3分で昼休みだ。

昼飯を邪魔する方がよっぽど『悪い』ぞ」

「・・・奢るよ」

「よし。じゃあ料亭だ。いや、フランス料理の方が・・・」

「牛丼でどうだ?」

「ふざけんな」


だけど落ち着いて話をするためには、

サラリーマンやOLでごった返すような店という訳にもいかない。


仕方なく俺は、廣野に連れられ近くのレストランに入った。



「俺は、ウニソースのカルボナーラ。サラダ・ドリンク・デザートセット。2600円」

「・・・遠慮ってもんを知らないのか」

「奢ってもらうのに、なんで遠慮しないといけないんだ」


奢ってもらうから遠慮するんだろ。


俺は無難にぺペロンチーノとサラダ・ドリンクセットにした。


注文を終えてから、

俺は廣野に向き直って言った。


「えーっと、廣野さん?土曜はありがとうございました」

「・・・お前、バカにしてんのか?」

「してないだろ。ちゃんと礼を言いに来たんだよ」

「散々無礼なこと言っといて、何を今更」


やっぱり?

でも、本当に感謝はしてるんだぞ。


「そんなことより」

「・・・」

「俺もちょうどお前に会いたかったんだ」

「え?」

「お前、あのガキの兄貴だろ?」


あのガキ?


「幸太のことか?」

「そうそう、コータだ」

「ああ。俺の弟だ」

「だったらなんとかしろ。コータの奴、あれ以来俺に付きまとってきやがる」

「ええ!?」


これにはさすがに驚いた。

なんで幸太のやつ、廣野に付きまとってるんだ!?


「ホテル出てからずっと俺の後ついてくるからさ、

デパートに入ったり、トイレに隠れたりなんとか撒こうとしたんだが、

コータのやつ、ことごとく俺を見つけやがった」


かくれんぼみたいだな。


「土曜は結局俺の家の前までついてきて、そこでようやく追い返したんだ」

「・・・悪い」

「甘い」

「え?」

「次の日はさすがに来なかったけどな。月曜日、嫌な予感がして、R公園に行ってみたんだ。

そしたらあいつ、当たり前のようにベンチに座っていやがった」

「・・・」

「女だったらぶん殴ってるところだ」


女だったら殴るのか。


「・・・申し訳ない」

「まだ甘い」

「え?」

「で、コータのやつ、腹へったとか抜かしやがって、結局飯奢らされた」

「・・・面目ない」

「まだ甘い」


まだ!?


「火曜も待ってるとか言うから、ふざけんなっつったんだけど、

全然こたえてなくて、ニコニコしてやがった」

「・・・」

「で、結局昨日も飯奢らされた」

「・・・すみません」

「俺、言葉で謝られるより、物がいい」

「何が欲しいんだよ?」


廣野はメニューを広げて言った。


「この『半熟プリン』って注文していいか?」

「どれ?うわ、プリンのクセに500円!?高!!

てゆーか、さっきセットでデザート頼んだだろ!

しかも・・・『本日のデザート クリームブリュレ』って書いてあるぞ。

プリンと一緒じゃねーか」

「全然違う」


そう言うと廣野はさっさとプリンまで注文しやがった。


それと同時にちょうどパスタが来たので、

俺達はしばらく会話を中断し、食うのに専念した。


半分くらい食ったところで、

廣野が再び話し始めた。


「それで、だ。あいつ、家出して俺んちに来るとか言い出しやがった」

「はあ!?」

「まあ、俺がうっかりうちのこと話したのが悪いんだが」

「うちのこと、って・・・何だよ?」

「俺んち、ヤクザなんだよ」


・・・ほお、ヤクザ。


「はあ!?ヤクザ!?」

「バカ!!静かにしろ!!」


廣野が俺を睨む。

だけど俺は目を白黒させながら、尚も続けた。


「なんだよ、ヤクザって!?」

「知らねーのか?」

「知ってる!!家がヤクザってどういうことなんだよ!?」

「俺の親父が組長やってるんだ。で、家にも30人くらい組の連中が住んでる。

コータも一緒に住みたいって言い出したんだ」

「・・・」


ヤクザ・・・

廣野・・・


そういえば「廣野組」って、ニュースとか聞いたことがある。

結構大きな組織だった気がするぞ。


こいつ、そんなところの坊ちゃんなのか。


「って、なんで商社マンやってんだよ?」

「社会勉強。いずれ辞めて組を継ぐけどな」

「・・・そこにコータが住むって言うことは・・・」

「ヤクザになるってことだ」


俺は思わず立ち上がった。


「ダ、ダメだ!!」

「だろ?俺も、さすがにまだ中学生だからダメだって言ったんだけどさ。

高校生くらいならともかく、なあ?」

「なあ、って!そーゆー問題じゃない!!高校生でもダメだ!!!」


何考えてんだ、幸太!?

ヤクザになるなんて、本気で言ってんのか!?


「おい、廣野!幸太を絶対組に入れんなよ!!」

「廣野って呼ぶな。苗字で俺のこと呼ぶのは会社の奴らくらいだ。

それ以外で『廣野』っつったら、親父の・・・『組長』のことだ。統矢でいい」

「じゃあ、統矢、」

「お前も遠慮しらねーな。『さん』くらい付けろ」

「自分で『統矢でいい』って言ったんだろ」

「うるさい。お前はなんて言うんだ?」


そう言えば名乗ってなかったな。


「本城真弥」

「真弥、ね。俺と似てるな。だからコータがつきまとってきやがるのか?単純な奴だな」

「似てるって、『ヤ』が一緒なだけだろ」


幸太もそこまで単純じゃあるまい。

でも確かに、この統矢は面白い奴だ。

もうちょっと普通に出会ってれば仲良くなれたかもしれない。


「・・・で、何の話してたっけ?」

「・・・さあ?」


俺達は首を傾げながら再び食い始めた。

全部食い終わって満足したところで、ようやく思い出した。


「そうだ、コータだ」

「そうそう、幸太だ」

「真弥。ちゃんと説得しとけよ。ヤクザになってもいい事なんかないぞ?」

「・・・お前が言うのか、それを」



よし。早速今夜、実家に帰って幸太と話そう。

でも・・・嫌な予感がする。




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