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第2部 第17話

チャレンジ1日目。


「大袈裟ですよ、先生」

「あのな。男はこれくらい気合入れなきゃ、一晩中手を出さないってできないんだよ」

「・・・約束守れるって言ったじゃないですか」

「言ったけどさ」


翌週の土曜日の夜8時。

月島は6時くらいに学校を出て一旦家に帰り、

夕食も風呂も済ませてから俺の家に来た。


俺も学校を7時くらいに出た。


「仕事、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃない。持って帰ってきた。月島が勉強してる間は、俺も仕事するよ」



こうして、俺達は早速机に向かった。

勉強机は月島に貸し、

俺はローテーブルでパソコンだ。


最初のうちは、少し月島が気になったけど、

勉強に没頭している月島のお陰で、

俺もいつの間にか仕事に集中できた。





「squeeze」

「・・・『絞る』?」

「squirrel」

「え?もう一回言ってください」

「squirrel」

「・・・わかりません」

「『リス』」


月島が渋い顔をする。


「月島ってリスニング苦手なんだな」

「日本人ですから」


そりゃそうだ。


「先生、発音いいですね。外人みたい」

「3年間、アメリカの現地の学校に放り込まれてたからな」

「独学で英語話せるようになったんですか!?」

「いや。独学ってゆーか、友達に教えてもらって・・・」


俺は胸の奥に痛みを感じ、言葉を切った。

でも月島はそれに気づかなかったようだ。


「じゃあペラペラですね」

「いや、もうほとんど忘れた」


でもまあ、リスニングの勉強にはじゅうぶん付き合える。

気分転換で始めたのだが、意外なことに月島はリスニングが苦手らしい。


「じゃあ次は会話文な」

「はい」

「でも、その前に」


俺は月島を思いっきり抱きしめて、キスをした。


「・・・こういうことできるから、いいですね」

「だな」


俺は胡坐をかいて、足の上に月島を座らせ、リスニングを再開した。




うん。

この土曜に一晩一緒にいるっていうの、

結構いいかもしれない。


特に会話らしい会話がある訳じゃない。

月島は勉強してるし、

俺は仕事してる。


でもちょっと顔を上げれば、月島を見ることができる。

月島も俺を見ることができる。

リスニングの勉強みたいに一緒にやれることもある。

そして二人きりだから、簡単にキスもできる。


そんなちょっとしたことで、随分と気が楽になる。

「ああ、今二人きりなんだ。一緒にいるんだ」っていう、安心感のお陰かもしれない。


ただ一緒にいる、ってだけで、こんなにも安らげるもんなのか。

いっそ毎日一緒にいたいくらいだ。


・・・そうか、だから人って結婚するんだな・・・




1時。

さすがに眠くなってきた。

月島も勉強道具を片付け始める。


「そういえば、月島。どの学部受けるか決めたか?」

「まだです・・・ダメですね。普通はしたいことがあって、それで行きたい学部が自然と絞れて・・・

どこの大学にするかはそれからなのに、先に『何となくこの大学がいい』なんて」

「まあ、それが理想だけどさ。実際はそんな風に考えられる高校生なんてそういないよ」

「そうですか・・・うーん、経済学部か法学部かなあ。でも商学部もいいなあ」


おお。本当に絞れてないな。


「ま、とにかく今日のところはもう寝ようぜ」


俺はベッドに寝転がり、ポンポンと布団を叩いた。


「・・・一緒に寝るんですか?」

「何もしなけりゃいいだろ?」

「・・・はい」

「そうだ。アメリカにいる時、英会話上達の裏技を教えてもらったんだ」

「え?そんなのあるんですか?」

「ベッドの中で、英語で会話するんだってさ」

「・・・それって・・・」

「そう。してる間とか、終わった後、全部英語で会話するんだ」


これ、本当らしい。

もっとも教えてもらった当時、俺は小学生だ。

実践のしようがない。


「・・・」

「試してみる?」

「おやすみなさい」

「はい。おやすみ」


俺はクスクス笑い、

月島と抱き合ったまま目を瞑った。


・・・眠れるかな?

うん。大丈夫。

眠れそうだ。


月島もすぐに寝息を立て始めた。

俺も安心してすぐに眠りの中に入っていった。



月島の名案と月島母の寛大さのお陰で、

俺はすっかり「月島不足」を解消できた。


これなら全然毎週じゃなくていい。

2週間に1回、

いや、1ヶ月に1回でもいい。


この日の為に頑張れる。



だけど・・・




月曜日。

俺は、坂本先生に聞いてみた。


「坂本先生。月島のことなんですが」

「あら。そんな大きな声で堂々と話しちゃっていいの?」

「・・・」


朝の職員室。

当然周りにはたくさんの教師がいる。

俺は小声で付け足した。


「教師としての話です」

「そう?じゃあどうぞ」

「月島ってリスニング苦手ですよね?」

「え?」

「僕、月島のリスニングのレベルがどんなもんかはわからないんですけど・・・どうなんでしょうか?」


土曜に俺が出したリスニングの問題は、

かなり基本的なやつだ。

それであの回答率とゆーのは・・・


「うーん」


坂本先生が気まずそうに目を逸らす。

おい。怖いんですけど?


「そうねー・・・確かに苦手よね。H大だと」

「だと?」

「通用しないわね」


・・・やっぱり土曜は毎週一緒にいよう。

リスニングの特訓だ。





この1年、

生徒の月島と恋愛関係になるという想定外の出来事はあったものの、

俺の教師生活は順調だった。



俺の周囲も順風満帆だ。


受験には一抹の不安が残るが、遠藤と藍原も上手くいっている。


宏とコン坊もようやく落ち着き、

今は束の間の恋人生活を満喫しているようだ。

ただコン坊は、今担当している2年生が再来年卒業したら、

結婚退職し、宏と海外へ行ってしまう。

俺としては寂しい限りだ。


後、森田先生と麻里さん。

二人はゴールデンウィークに海外で挙式し、無事夫婦となった。

歩は「お邪魔虫になりたくねー」と、日本にいることを主張したが、

森田先生も麻里さんも「絶対ダメ」と言って、歩を連れて行った。

歩も、ブツブツ言いながらも嬉しそうだった。

麻里さんは仕事を辞めて、これからは歩の母親業に専念するらしい。

だから俺は以前のように歩と毎日会うことはなくなったが、

たまに俺の家に押しかけて来て、そのまま泊まることもある。

歩なりに気を使っているのだろう。



とまあ、こんな感じだ。

そりゃドラマや漫画みたいに次々ととんでもない事件が起こる訳がない。


ちょっとしたトラブルや問題はあるだろうけど、

きっとこれからもこんな毎日が続いていくんだ。




でも、一度何かが狂うと、

一気に全てがおかしくなってしまうもので。



ある出来事を境に、

俺の日常は急変することとなった。




これで第2部終了となります。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。

引き続き、最終章に突入したいと思いますが、ある新キャラがめちゃくちゃに掻き回してくれる予定です・・・どうか見捨てないでついて来て下さい・・・

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