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第2部 第16話

俺はベッドに腰掛けて、

問題を一生懸命解いている月島を眺めた。


俺の視線に気づいたのか、月島が顔を上げた。



「・・・もうお終いにしましょうか?」

「いいよ、やってて」

「でも、先生、退屈でしょう?」

「いいって。こうやって問題解いてる月島見るの好きだから」

「・・・」


月島はちょっと赤くなって、また問題を解き始めた。




月島は2年の時からしっかりと自分の勉強スタイルを持っているから、

3年になった今も、それを継続しているだけだ。


だけど、他の生徒は今までの遅れを取り返すべく、

一気に受験モードに突入した。


放課後も教室に残り、勉強する生徒が増えた。


だから今までのように、教室の戸締りの時に月島と二人で話せることはなくなった。

それに、日曜の午後に会うのも、1週間置きにした。

それも2、3時間程度だ。


これは月島が言い出したのではない。

俺だ。


月島なら大丈夫だろうけど、後悔するようなことにはなってほしくないし、

何より教師の俺が、生徒の月島の邪魔をしたくない。


1年だけの我慢だ。


俺は自分にそう言い聞かせた。



でも・・・




月島が急に教科書を閉じた。


「やっぱりやめます」

「俺のことなら気にしなくていいって」

「そうじゃないんです。せっかく先生といられる時間まで勉強したくないんです」

「・・・ごめんな」


月島は、何がですか?と言いながら、

ベッドに座ってる俺の横に腰を下ろした。


俺は月島を抱きしめ、そのままゴロンとベッドに横になった。




なんて言うか・・・

うーん・・・


月島不足?


自分でも呆れるくらい、ここのところ調子が出ない。

今までは毎週日曜に、月島とたくさん話したり、キスしたりしてたのに、

それがほとんどできなくなった。


・・・予想以上にしんどい。


このくらい我慢できなくてどうするんだ、俺。

まだ先は長いぞ。

月島はちゃんと頑張って勉強してるじゃないか。

俺にも受験生の担任としてやるべき仕事がたくさんある。


それなのに・・・


月島は、俺のそんな症状(?)をよくわかってくれている。

だからこうやって、俺と一緒の時は勉強しないようにしてくれてるんだ。


「ごめん。情けないなあ、俺」

「何言ってるんですか。私が質問を持ってきてるのが悪いのに」

「悪くないだろ。今までだってそうしてたんだし」


月島は黙って俺にキスをした。

こうすれば俺がちょっと落ち着くのもわかってるんだ。



俺はしばらく月島を抱きしめたまま目を閉じていた。



「・・・うん。これでまた2週間もつ」

「ふふふ。充電式ですね」

「そうだな」

「・・・でも、もちなさそうですけど」

「・・・そうだな」


月島は俺の胸に顔をうずめて、何かモゾモゾと言った。


「え?なんて?」

「・・・先生、約束守れますか?」

「約束?」

「卒業まで、しない、っていう約束」

「守ってるだろ」

「・・・私と一晩中いても守れますか?」


一晩中?


以前の俺なら間違いなく守れなかっただろう。

でも今は、一緒にいられるだけで結構満足できちゃってる。


「うん。守れるけど。なんで?」

「お母さんと話したんです」

「・・・お母さんと?何を?」


いい予感はしないぞ。


「・・・2週間もたないのは、先生だけじゃなくて私もです」

「珍しく素直なこと言ってくれるじゃないか」


月島は、俺を睨み上げた。


「からかわないでください!」

「はいはい」


また顔を下げる。


「それで、お母さんにお願いしたんです」

「何を?」

「土曜の夜は、先生のところに行きたいって」

「え?」

「もちろん数学を教えてもらうのが目的です。お母さんにもそう言いました」

「・・・それで?」

「そしたら、お母さん、『いいわよ。ただし成績上げなさいね』って」


つ、月島母!!


「お父さんには、友達の家で泊り込みで勉強してるってことにします」

「・・・」

「毎週来れるかどうかはわかりませんけど。土曜の夜に来て、日曜の昼前に帰ります。

その代わり、起きてる間はほとんど勉強してると思います」

「・・・」

「ダメですか?」


ダメな訳がない。

一晩中、月島と一緒にいられるのだから。

何もするなというなら我慢くらいいくらでもする。


でも月島母は、どういうつもりなんだろう?

俺に月島を「くれる」ってことか?


いや・・・違うか。


月島母は、月島がまだ俺とそういう関係になりたくないと知ってるんだ。

そして、月島がそう思っている以上、俺は絶対手を出さないと信じている。


信じてるって言うか・・・「信じさせろ!」という無言の圧力って気もするが。


そうか。もしかしてこれって、

俺が月島を本当に大切にしているかどうか、月島母が俺を試してるのか?



一晩中一緒にいても、月島が望まない限り手を出さない。

ちゃんと勉強もさせて成績を上げる。



できるか?

ただでさえ、もう成績の上げようがないくらい頭のいい月島だ。

これ以上・・・具体的には偏差値だろうが・・・上げることができるだろうか?



「ふふん。面白い」

「え?」

「やってやろうじゃないか。月島も頑張れよ」


月島は一瞬きょとんとしたが、

すぐに俺の意図を汲み取り、

はい!と元気よく答えた。



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