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第2部 第14話

「と、ゆー訳で、今年1年よろしくな」


俺が簡単に挨拶を終えると、

早速ブーイングが来た。


「もう本城見飽きた」

「それはこっちのセリフだぞ、遠藤」


俺は目の前の遠藤を教壇の上から睨んだ。

ご丁寧に遠藤の奴、去年と同じ席に座ってやがる。

つまり俺の目の前だ。


貰ってやった恩を忘れやがって。

やっぱりお前なんか藍原と離れて森田先生のクラスへ行ってしまえ。


「早く席替しよーぜ」

「俺が全員の名前覚えてからな」

「また!?てゆーか、1年たったんだから、いい加減学年全員の名前覚えてるだろ?」

「ココロザシは高く、だ。今度はフルネームで覚える」

「覚えてくれなくていいから」

「うるさい。遠藤周作」


遠藤の親はよっぽどの文学ファンか、

それともよっぽどのお茶目キャラか・・・


3者面談の遠藤母の印象からして間違いなく後者だ。

サザエさんみたいな人だったぞ。

タラちゃんはどうした。




せっかく新学年・新学期が始まり、気持ちも新たに頑張ろうと思ってたのに、

遠藤に出鼻をくじかれてしまった。


まあ確かに、教室を見渡せばちらほらと「また本城かよ」って顔してる奴がいるけどな。


おっと。一番そんな顔してる奴を、最後列に発見!

これはこれは、月島さんじゃありませんか。






卒業式の後、いつものように俺の家で月島に会った。

早速、坂本先生と杉崎のことを話すと、さすがに驚いていたが、

いいなあ、と言っていた。


それは俺へのプレッシャーか?


・・・俺はいいけどさ。

せめてさっさと卒業してくれよ。



まあ、それはとにかく。

それから教師と付き合っている特権(?)ということで、

一足早く新しいクラスの顔ぶれを教えてやった。


が!!!

月島は、自分が俺のクラスだと知ると、あからさまに嫌な顔をした。


「・・・なんだよ。俺のクラスじゃ不満か?」

「飽きました」

「飽きましたか」

「冗談ですよ」


月島の冗談は冗談に聞こえないぞ。


「だって、先生とはこうやっていくらでも学校の外で会えるから。

どうせなら他の先生のクラスになってみたかったです」


なるほどな。

うんうん、俺とはいっぱい会えるもんな。


俺も単純で、月島にそう言われると思わずヘラヘラして納得してしまった。


「そっかー。本当は月島は坂本先生のクラスだったんだ。そのままにしとけばよかったな」

「え!?坂本先生ってまた3年の担任なんですか?・・・坂本先生のクラスがよかったなあ。

あの先生、面白そうだから」


それは俺が保証する。

折り紙つきだ。


「でも、西田と同じクラスだぞ」

「穂波と?それは嬉しいです。一緒に受験頑張りたいし」

「西田もH大だったな」

「はい。彼氏さんも」


西田と彼氏を敢えて別々のクラスにしたことは黙っておこう。


生徒の月島に、どこまで教師間のはないちもんめを暴露するか、

一人悩んでると、月島が黙ってジーッと俺を見つめてきた。


「何?」

「いえ・・・先生のスーツ姿なんて初めて見たな、と思って」


俺は自分を見下ろした。

卒業式だったから、かなりカチッとした感じのスーツだ。

首には白に近いシルバーのタイ。


確かに結婚式でもなけりゃ、こんなもんは着ない。


「去年の4月の始業式もスーツだったぞ?」

「そうでしたっけ?」

「覚えてないのかよ」

「はい」

「・・・」


そりゃそうだろうけど、相変わらずバッサリ切るやつだ。

ちょっと仕返ししてやろう。


「似合う?かっこいい?」

「・・・」


月島はちょっと赤くなってムッと俺を睨んだ。


ふふん。

月島って、なんでも平気に口に出すくせに、

俺を褒めるのは、照れくさいのか苦手らしい。

だから、こうやって俺を褒めざるを得ない状況に持っていくと、

照れて怒る。


そして・・・


「似合いません」


月島はそっぽを向いて、興味なさそうに言う。


ほらな。

こうやって天邪鬼になって逃げるのだ。


もっとも、相変わらず顔には本心がありありと出てるんだけど。

本当は俺の珍しいスーツ姿をもうちょっとマジマジ見ていたいようだ。


「そ?じゃあもう脱ぐから、あっち向いてて。こっち向いててもいいけど」


月島はますます赤くなって、三角座りで俺にクルッと背を向けた。


あー、面白い。

こういうとこ、坂本先生と通ずるよな。


「ごめん、ごめん。ほら、見ていいよ」

「脱ぐとこなんて見たくありません」

「違うって。まだ脱がないから」


それでも月島はこっちを向かない。

俺は座ったまま月島を後ろから抱きしめた。



そうそう。

月島が苦手なことがもう一つ。

俺に素直に甘えることだ。


「よしよし」

「私、子供じゃありません」

「はいはい」


俺は後ろから月島の頭をなでながら、月島の心のガードが解けるのを待った。


しばらくすると、月島の肩から力が抜けた。

もういいかな?


俺は月島を俺の方へ向かせて顔中に軽くキスをした。


「や、やめてください」


月島は手で俺のキスを払いのけようとする。


「嬉しいくせに」

「嬉しいくありません!」


でも月島の抵抗をもろともせずに、俺がキスを続けていると、

ようやく月島も諦めたのか、俺になされるままになって・・・


で、ようやく甘えてくるのだ。


やれやれ。

手のかかるお姫様だ。






「おい、本城。何、ニヤニヤしてるんだよ、気持ち悪い」

「みんな喜べ。学級委員は遠藤がやってくれるそうだ」


教室から、おおー、と言う声が上がる。


「な、なんでだよ!?」

「藍原。女子はまたお前がやってくれるか?」

「ヤダ」

「だってさ、遠藤。残念でした。一人で頑張れ」

「学級委員は男女一人ずつだろ!?」

「だから女子は藍原。でも仕事したくないらしいから実質お前一人で頑張れ」

「なんで俺が!?」


俺が答える前に、

藍原から声が飛んできた。


「2年の時は全部私がやってたんだから、今度は遠藤がやってよね」

「えー!?」


おお。遠藤。尻にしかれてるな。

予想はしていたが。


しかし何故だ。

何故か遠藤に同情したくなるんだが。



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