第2部 第11話
「じゃあ、森田先生、再婚するんですね!?」
「・・・みたいだなー・・・」
「森田先生って確か、36歳ですよね?麻里さんは、32歳でしたっけ?
ちょうどいい感じにお似合いですね」
「・・・そうですね」
「・・・大丈夫ですか?先生?」
月島が心配そうに俺を覗き込む。
元気に、おう大丈夫だ、と言いたいところだけど、
さすがに睡眠3時間じゃ、ナポレオンでもみのもんたでもない俺は辛い。
昨日は、今日1日月島と・・・じゃなかった、歩と遊ぶために、
ほとんど明け方まで家で学年末の採点をしていたのだ。
だけど、目の前では、俺の寝不足なんぞどこ吹く風の歩が、
ゲームのアトラクションにかじりついている。
ここはバーチャル遊園地と言った感じの大型ゲームセンター。
俺も高校生の頃は来たことあったけど、
すげー久しぶりだ。
ちょっと見ない間に、随分ハイテクなゲームが増えていて、オジサンの許容範囲を軽く超えている。
ああ、目がチカチカして、余計に瞼が下がる・・・
歩からのプレゼントである「旅行の時間」に森田先生と麻里さんはとても感激してくれたようだけど、
この春休み中に、結婚への準備を進めたい、と言うことで、
旅行は急遽、今日と明日の1泊2日で近場の温泉地となった。
もっとも二人きりの時間がほとんどない森田先生と麻里さんには、
旅行先なんてどこでもいいのかもしれない。
要は二人っきりでいちゃいちゃできればいーのだ。
まあ、昨日学年末が全部終わったところで、
数学はⅠⅡⅢもABCも昨日だった。
森田先生も俺に負けず劣らず寝不足になりながら採点しまくってたことだろう。
ちなみに生徒からは(月島からも)「どうしてⅠⅡⅢとABCのテストが同じ日!?」
とクレームが来たが、仕方ないだろ。
クジで決めたんだからサ。
「そーいえば、月島。お前、珍しく計算間違いなんかしてたぞ」
「え?」
「学年末テスト」
「ええ!?そうですか・・・どの問題ですか?」
月島の答案用紙は見なくても100点だろうから楽なもんだと思ってたら、
なんと計算間違いが1問。
しかも、単純な足し算の間違いだ。
「・・・最近遊び過ぎかなあ。日曜に先生と会う回数減らしてもいいですか?」
「ダメです」
「遊び過ぎ」って日曜の午後に俺と会ってるだけだろ!?
・・・まあ、4月になれば本格的に受験生だ。
寸暇を惜しんで勉強しないといけないだろう。
月島なら今まで通りやってれば、H大合格は軽いだろうけど・・・
教師の俺が、「勉強時間削って、俺と会え」って言うのってどうなのか。
やっぱり会う回数を減らそうか?
・・・うーん・・・
「真弥!あれ乗るぞ!!」
「本城先生は疲れてるので月島さんとどうぞ」
「えー!?」
「いいよ、歩君。私と行こう」
「うん!」
歩の奴、なんで月島にはあんなに素直なんだ。
そうは思いつつも姉弟のように仲良く遊ぶ月島と歩を、
なんだかほっこりした気分で眺めていた。
そう。俺も高校生の時、ここに幸太と一緒に来たんだ。
幸太の奴、大喜びして片っ端から制覇していったっけ。
元気いっぱいの歩の姿が幸太と重なる。
そういえば、正月に実家に帰ったとき、
ちょっと幸太、元気がなかったな。
春休みに入ったらまた実家に帰って遊んでやるか。
もう中学生だから、兄とゲーセンもないかな?
買い物とかの方がいいかな?
でもあいつ、小遣いたっぷり貰ってるだろうから、俺より裕福だろうし・・・
俺は辺りを見回した。
こんなとこ、さぞかし高校生で溢れかえってるだろうから、誰に出くわすかわからない、
月島と二人でなんて絶対来れない、
と思っていたら、意外とそうでもなかった。
大学生や社会人らしきカップルや、親子連れがほとんどで、
中高生の姿は余りないのだ。
意外と穴場かもな、と月島に言うと、
「ここって、入場料だけでも結構しますからね。中高生にはちょっと手が届かないんだと思います。
うちの高校はバイト禁止だから余計ですよね」
とのこと。
じゃあ、みんなどういうところでデートしてるんだろうか?
「さあ・・・わかりません」
聞く相手を間違えた。
「でも、遠藤君達は・・・」
達は?
「その・・・よくホテルに行くって言ってました」
・・・
「カラオケもあるし映画も見れるし、意外と安いし、って」
・・・
「じゃあ自分達も行こうか、って言わないでくださいね」
・・・はい。
なんで高校生カップルがそんなとこ行ってるのに、
社会人の俺が行けないんだ。
てゆーか、遠藤!!!
思い出して一人で腹をたててると、月島がフラフラしながら戻ってきた。
「気持ち悪い・・・です」
「ああ、あの立ったままやるブランコみたいなやつな。酔うよな」
藍原と違い、やはり月島はあの手の物はダメなようだ。
「歩は?」
月島が指を差す方を見ると、歩はまた一人でゲームに夢中になっていた。
「ほんと、元気ですよね。歩君。森田先生、大変だろうな」
「あはは、そうだな。これからずっと歩と一緒だもんな」
「でも・・・よかったです。森田先生、色々あったみたいだから」
「色々?」
「はい。噂ですけど。離婚の時、前の奥さんともめて、大変だったって」
さっきのホテルの話じゃないけど、
教師は普通のサラリーマン以上に人目にさらされる職業だ。
円満離婚だったしても、保護者とかからの視線が気になるのに、
もめたとなれば、尚更だろう。
麻里さんも、前の旦那さんと死別するという苦労を味わっている。
今度こそ、二人とも幸せになってほしい。
できれば宏達もそこに便乗してほしいところだ。
「先生って、意外と優しいんですね。知りませんでした」
「知りませんでしたか。なんで俺のこと好きになったんだ」
「さあ・・・」
本気で悩むところが月島らしいが、
今度ばかりは嬉しくない。
いつもだとここでキスの一つもするところだが・・・
「真弥ー!!」
来た来た。
「お母さん達、ゴールデンウィークに新婚旅行に行くんだってさ!!5泊くらい!!」
「・・・だから?」
「5日間はここに来れるな!」
「・・・」




