第1部 第39話
日曜日。
まだ熱は下がりきらないけど、昨日よりだいぶ楽になった。
もうすぐ昼だ。
ようやく食欲も戻ってきた。
月島が買ってきてくれたゼリーとフルーツを食べよう。
月島・・・
俺はベッドに転がったまま、天井を見つめ昨日のことを思い出した。
これから、どうなるんだろう。
月島を抱きしめてしまった俺は、もう言い逃れができなかった。
もちろん覚悟して、月島を抱きしめたはずだったのに、
いざとなると言葉が出てこない。
俺ってこんなに臆病だったか?
月島もどうしていいかわからないようで、
俺に成されるがまま、ただ突っ立っていた。
多分、また俺が熱で朦朧としてるとでも思ってるんだろう。
違う、違うんだ。
今度は違うんだ。
でも、余りの気まずさに、いっそそういうことにしてしまおうか、なんて考えまで頭をよぎる。
いや、いくらなんでもそれは卑怯だろう。
どうしよう。言ってしまおうか。
せっかく今まで我慢してきたのに・・・
「はあ~。もういいや、諦めた」
「・・・何をですか?」
俺は月島を抱きしめたまま、月島の肩に顔をうずめた。
「俺さあ、月島のこと好きなんだよな」
「へ?」
俺の胸で月島の身体が強張った。
「・・・何馬鹿なこと言ってるんですか」
「馬鹿ってことはないだろ。本心だ」
「・・・」
さあ、どうする月島。
怒るか?
泣いて喜ぶか?
「・・・どうして今更急にそんなこと言うんですか」
月島はドンっと俺の胸を押して、
俺から離れようとした。
俺が月島を抱きしめる力がもう少し弱かったら、離してしまってただろう。
「離してください!」
月島は顔を上げた。
「・・・」
俺は驚いて言葉がでなかった。
月島はポロポロと涙を流しながら怒っていた。
そうきたか。
泣いて怒るのか。
最悪のミックスだな。
でも、ここまできたら俺も負けられない。
もう一度月島を抱きしめ直して言う。
「本当はずっと好きだったんだよ。月島が好きって言ってくれた時も嬉しかった。
でも、我慢してた」
「・・・」
「だけど、もう気持ちを隠すの諦めた」
「諦めないでください」
「もう遅い」
それから俺は思い切って、ずっと聞きたかったことを聞いた。
「まだ、俺のこと好きか?」
返事はなかった。
でも、すごく長く感じられた沈黙の後、
月島は小さく頷いた。
それからしばらく、俺は無言のまま月島を抱きしめていた。
月島も黙ったまま、ただ泣いていた。
「・・・先生」
俺に抱きしめられたまま、月島がようやく口を開いた。
「ん?」
「私、帰ります」
「・・・この状態で帰るのかよ」
「だって、もう時間が」
確かにもう8時だ。
でも、な。
「だめ」
「だめって・・・帰らせてください」
月島が身じろぎする。
「じゃあ、キスしてい・・・」
「ダメです」
俺が聞き終わらないうちに、月島が答えた。
「お前、今ほとんど条件反射で答えたろ」
「ちゃんと考えても、ダメです」
「却下」
俺はそう言って、ちょっと強引に月島にキスをした。
一瞬強張る身体。
驚くほど柔らかい唇。
俺の手に触れるサラサラした髪。
そんな些細な一つ一つのことに、
自分でもビックリするくらい緊張した。
気を抜いたら身体が震えそうだ。
静かな部屋の中で、自分の心臓の音が聞こえる。
なんだよ。いくら好きな女だとは言え、キスしてるだけだろ。
何を年甲斐もなく緊張なんて・・・
しかも、なんか怖くってそれ以上できない。
ただ唇を合わせてるだけ。
でも離せない。
ようやく唇を離すと、月島はすぐにまた俺の胸に顔をうずめた。
上から見てもはっきり分かるくらい、耳まで真っ赤だ。
でも月島が顔を隠してくれてよかった。
多分、俺も真っ赤だから。
今なら、熱のせいにできるかな?
俺はもう一度、月島を強く抱きしめた。
「先生。もう無理です。恥ずかしくて死にそうだから帰らせてください・・・」
モゴモゴと月島が言う。
相変わらず真っ向から面白い奴だ。
「うん。わかった。でもまた来いよ」
「・・・はい」
「明日」
「明日?ダメです」
「なんでだよ」
「風邪、早く直してください」
「・・・じゃあ、月曜・・・って平日は無理だな」
「来週の日曜なら」
「だめ。遅い。やっぱり明日」
「・・・はい」
時計を見る。
もうすぐ1時だ。
そろそろ月島が来る。
俺は熱が上がらないように、少しだけ部屋を片付けて、
食べれるものは食べて、またベッドに入った。
全然寝れない。
仕方なくまた起きて、ソファーに寝そべりながらテレビを見ていると、
インターホンが鳴った。
モニターを見ると、ちょっとソワソワした表情の月島。
ぷぷ。
ほんと、面白い奴だなー。
これからどうなるんだろう、なんて悩みは一瞬で消し飛び、
俺は笑いながら、ロックを解除した。
「先生の彼女!」を読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。このお話は全3部構成になり、第1部はこれで完結です。
このまますぐに第2部を開始したいところですが、その前に「○○の××!」シリーズ第3弾、「あの子の恋愛事情!」の連載を開始したいと思います。
(ストーリーの構成上、そうした方が面白いので・・・)
こちらも舞台は朝日ヶ丘高校ですが、別視点のお話となります。
さて、「あの子」とは誰でしょう・・・?R-15指定のちょっとエッチなお話ですので、苦手な方はご遠慮ください。
「あの子の恋愛事情!」が終わり次第、「先生の彼女!」を再開いたします。
また、同時に「アイドル探偵」の連載も開始します。これは推理物ですので、雰囲気が全く違います。ご興味のある方は、是非ご覧ください。




