第1部 第35話
遠藤・藍原カップルはいつの間にやらすっかりラブラブで公認の仲。
森田先生と麻里さんも、歩を交えてよく食事とかに行ってるらしい。
宏とコン坊も正式に付き合うことになったようだ。
なぜだ。
もう秋も深まってきたというのに、
なぜ俺の周りだけ春爛漫なんだ。
しかも、全部俺のお陰じゃないか。
「別に本城君のお陰じゃないし」
「俺がコン坊を合コンに連れて行かなかったら宏とコン坊は会うこともなかっただろ」
「強引に連れて行かれただけだし。それに自分に彼女がいないからって八つ当たりしないでよ」
「・・・」
「しかも、勝手に自分を『彼女のいない状況』に追い込んでるだけのくせに」
「・・・冷たいな、コン坊」
「別に。私は生徒の味方なの」
なんだ?
じゃあ、俺に月島と付き合えとでも?
「バレなきゃいいじゃない」
「よくない。どこで誰に見つかるかわかったもんじゃない」
「狭いようで、世間は広いのよ?出歩きまくらなければ、そうそう見つかりゃしないって」
坂本先生と杉崎を見つけてしまった俺には、そう思えませんが。
教師と生徒が付き合ってるなんて知れたら、
俺ももちろん困るけど、
月島だってめちゃくちゃ困るじゃないか。
それ以前に、教師と生徒が付き合うなんて、俺の中では全く現実味がない。
坂本先生と杉崎みたいなこともあるけど、物凄く稀なことだろう。
いいな、とは思うけど、自分にはあてはめれない。
それに月島も俺のことを好きでも、付き合いたいとは思ってないかもしれない。
自分の不遇な(?)現状にため息をつきつつ、俺はHRに向かった。
「本城。新婚生活はどうだ?」
「順調だ」
「そりゃよかったな」
ニヤニヤ顔の小野。
先日ようやく席替をして、遠藤に代わり俺の目の前にきやがった。
その遠藤は、どういう執念か、最後列、しかも藍原の隣ときてる。
ちなみに(俺に取っては重要だけど)、月島はまた窓際の席。
しかも教卓からは結構遠い後ろの方だ。
なぜだ。
公平にくじ引きで決めたんだぞ。
誰かの陰謀か?
あれ以来、月島とは何事もなかったように接している。
月島も表面上は変わった様子はない。
でも、実は俺ともっと話したいとか思ってる・・・と、いいなー。
「何事もなかったように」するために、俺は並々ならない努力をしている。
好きな女に好きだと言われながら、自分の気持ちは隠して今まで通りにするって、
すげー大変だ。
俺だって月島と一緒にいたい、でもそんな素振りは見せられない。
好きって言いたいけど言えない。
言えば喜ぶのが分かってるけど言えない(困るかもしれないし)。
結構辛いもんだ。
月島は、どう思ってるんだろう。
俺のことまだ好きかな?
それとももう忘れたかな?
他に好きな奴できたかな?
好きだって言ったことを忘れて欲しいと言った月島に対して、俺は、
じゃあ月島も今まで通りにしろ、と言った。
振ったと言ってもいいだろう。
だから月島が他の奴を好きになっても文句は言えないし、
その方がいいのかもしれない。
でも・・・
「遠藤夫妻。さっさと文化祭の出し物決めてくれ。俺はちょっと寝てる」
「・・・」
そーいや、遠藤と藍原って学級員じゃねーか。
ってゆーか、俺が決めたんだった。
くそ。
俺は教室の端っこで足を組んで椅子に座り込み、
さすがに目は開けてたけど意識は本当に寝てた。
その間に、教室内はワイワイしながら話し合いが進められた。
朝日ヶ丘高校は、文化祭と体育祭が一年ごとに交替で行われる。
今年は文化祭だ。
こいつらにとっては、最初で最後の文化祭。
口では「面倒臭い」とか言いながら、内心張り切ってるに違いない。
放っておいても色々アイデアがでて、すぐに決まるだろう。
「メイド喫茶」
「今時ありがちすぎ」
「お化け屋敷」
「準備めんどくせー」
「劇」
「演劇部とかぶるだろ」
・・・放っておいてもすぐに決まるはず・・・
「じゃあ、執事喫茶」
「いっそ男が女装してメイド喫茶ってのは?」
「それだったら本城も参加できるな」
「却下」
「教師のくせに、生徒が考えた出し物に口出しすんな」
ダメだ。
この芋栗かぼちゃ共の放置は危険だ。
仕方なく俺は意識を起こして、考え始めた。
5組の生徒も客も楽しめて、準備が楽で・・
そうそう、金は確か客一人から200円以下しか取っちゃダメなんだよな・・・
そんなん、あるか?
「うーん・・・メイド喫茶、執事喫茶・・・コスプレ・・・あ、写真館は?」
「写真館?」
「俺、趣味でちょっといいカメラ3つくらい持ってるからさ。
それでお客を撮影してその場でプリントアウトして渡すんだ。
衣装もいくつか用意しといて、好きなのに着替えてもらってもいい。
コスプレのプリクラ感覚だな。一人100円くらいでできるだろ」
「おお・・・面白いかも」
「みんななんか衣装っぽいもん持ってるだろ。普段着でもいいし部活の服でもいいし。
この高校はブレザーだから、セーラー服とか学ランとかもうけるかも」
「いい!準備も楽そう!」
「さすが本城!エロいことには頭が回る!」
「おい」
「俺、撮影したい!」
「私も!」
「じゃあ、30分交替くらいで撮影者は変わろう。文化祭は・・・9時から5時だから、
8時間あれば、16人くらいはカメラに触れる」
「練習したい!」
「今度、持ってくるよ」
結局そのまま俺の案が採用され、
2年5組の出し物は「コスプレ写真館」となった(ネーミングが職員会議で引っ掛かるかもな)。
準備も着替えるための囲いと衣装くらいだ。
後は、必要ないけどそれっぽくするために、黒い背景とか小物。
せいぜい2日もあれば揃えられる。
後は、カメラマンの練習だな。
「うーん、でも、なあ・・・」
「なんだ、遠藤」
「なんか物足りない」
贅沢な奴だな。
「なんかこう、目玉みたいなのほしいじゃん?客寄せのために。
集客率ランキングもあることだし」
そう。
閉会式の時に、客が一番多かったクラスが表彰されるのだ。
今度はみんなして、「目玉」について考え始めた。
「おい、本城。またナイスアイデアを頼む」
「ちょっとは自分達で考えろよ」
「じゃあ、やっぱり本城が執事かメイドになれ」
「なんで写真館にそんなもん必要なんだ」
「客寄せだから何でもいいんだって」
俺がよくない。
なんとなく月島の方を見ると、
予想に反せず、興味なし、と言った風を決め込んでる。
この出し物だと、月島の役回りは会計とかプリントアウト係だろう。
俺としては、被写体になってるとこも見てみたい・・・
おいおい。ダメダメ。何、考えてる。
でも月島にも何かやらせたいなー。
カメラマンに立候補しないかな?
ん?ちょっと待て。カメラマン?
いや、月島にはカメラよりもっと得意な物があるじゃないか。
「おい、月島」
「え?はい」
まさかいきなり自分の名前が呼ばれると思ってなかったのか、
月島はかなり驚いたようだ。
「お前、似顔絵得意だったよな?」
「・・・はい」
「じゃあさ、お客にクジ引かせて、当たった奴は月島に似顔絵描いてもらえるってのはどうだ?」
「ええ?・・・イヤです」
「月島、前のノート出して」
俺は困惑気味の月島の席に近寄っていき、
ノートを出させた。
篠原先生の落書きをしてある、あのノートだ。
「ほら」
俺がそれをクラスのみんなに見せてやると、
全員が息を飲んだ。
「・・・すげえ」
「篠原先生?」
「そっくり!」
「ねえ、もっと漫画っぽくもかける?」
「うわー。これ、いいかも!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。時間的にそんなにたくさん描けないし・・・」
「月島さんが描いてる間はクジに当たりを入れなきゃ、待ちとかもできないんじゃない?」
「そうそう。午前か午後限定にすれば、どっちかは月島さんも休めるし」
「うんうん、それがいい!」
戸惑ってる月島を見てるとちょっと強引過ぎてかわいそうだったかな、と思うけど、
絵を描くのが好きな月島には似合いの役だろう。
たまにはクラスに奉仕してくれよ。
そういう想いを込めて月島に目配せすると、
月島はちょっと赤くなって目を逸らした。
うーん・・・
どうしてくれよう。




