第1部 第30話
俺は月島のことを好きなんだ、
って気づいてからまだ1ヶ月。
俺は教師で月島は生徒なんだから、
当然告白なんてする気はない。
そりゃ、俺のことを教師としても男としても好きになってくれたら嬉しいけどさ。
つきあうなんてとてもじゃないけど考えられない。
って、そんなことはどうでもよくって。
とにかく!俺は教師なんだから、生徒に恋愛感情があるなんて、
絶対周囲にバレてはいけない。
それなのに・・・
宏、コン坊、坂本先生、藍原の4人に既にバレてる。
まあ、坂本先生には自分で言ったんだけど。
でも、コン坊と藍原は勝手に気づきやがった。
俺ってそんなにわかりやすいか?
このペースでバレ続けたら、あっという間に全校中に広まるぞ。
「やばいなあ・・・」
「どうしたんですか?」
俺は無邪気に問いかけてくる月島を
「誰のせいだと思ってるんだ!?」と言う思いを込めて睨んだ。
「・・・どうして睨むんですか」
「別に」
今日は、放課後、月島を車に乗せて一緒に帰ってきた。
月島が歩に修学旅行のお土産を買ってきたと言うので、
3人で夕飯を食いがてら渡そうということになったのだ。
とゆーか、俺がそういうことにした。
で、ファミレスで注文をした後、
月島を見て思わず、さっきのセリフが口をついたのだ。
俺を不審そうに見返しながらも、
月島は鞄から小さな包みを取り出した。
「はい、歩君。北海道のお土産」
「ありがとう!!月島さんは優しいなあ。真弥と違って」
「おい。俺もお土産やったろ?」
「そうだっけ?」
「・・・麻里さんに、ちゃんと紫芋タルト渡したぞ」
「あれって真弥からだったんだ」
「・・・」
歩はワクワクした表情で包みを開けたが、
中を見た瞬間、微妙な表情をした。
「何これ?って感じでしょ?」
月島がちょっと意地悪そうに笑う。
なんでそんな顔、歩に見せるんだ。
俺には見せたことないのに。
・・・小学生にヤキモチやくなよ、俺。
「うん・・・」
「ふふ」
歩が袋から取り出したのは、キティちゃんのキーホルダー。
しかも・・・それって、よくある「○○限定キティ」ってやつか?
「月島、なんだそれ?」
「北海道限定のマリモキティちゃんです」
「・・・」
確かに、なんか緑のボールみたいなのかぶってるけど。
小学生の男の子へのお土産としてはどうなんだ。
「それね、歩君の好きな女の子にあげて」
「え?」
月島が楽しそうに話す。
「知り合いのお姉ちゃんがお土産にこんなのくれたんだけど、僕はいらないからあげるよ、
って言ってあげてごらん」
「えっ・・・」
見る見るうちに歩が赤くなる。
「おい。歩、好きな女の子なんているのか?」
「う、うるせー!」
「歩君だって好きな女の子くらいいるに決まってるじゃないですか」
「・・・決まってるのか?」
「う、うるさい・・・」
モゴモゴ言いながら、歩は大事そうにキティちゃんを袋にしまった。
「・・・ありがとう・・・」
「うん。その女の子とお話するきっかけにしてね」
「・・・うん」
ははあ。なるほど。そういうことか。
「月島。お前、ほんと、気がきくなあ」
「小学生の男の子って、どんなお土産あげたら喜ぶかわからなくって。
小学生の女の子ならわかるのになあって思ったら、こういうのもありかなって思いついたんです」
「へええ」
俺はまだ顔の赤い歩を見て言った。
「おい、歩。今度俺と月島にその女の子の写真見せろよ」
「いやだ。でも月島さんにはいいよ」
「ありがとう」
それからは月島と歩が、歩の好きな女の子の話で盛り上がり始めたので、
俺はドリンクバーへ立った。
月島の奴、歩だって好きな女の子くらいいるに決まってる、って言ったけど、
じゃあ、月島も好きな男くらいいるってことか?
・・・月島が俺のことを男として好きになる、とか
付き合うとかなんて考えられないけど・・・
でも、やっぱり月島に好きな男がいるんだったら気になる。
誰だろう?
溝口、じゃないよな。
まさか、遠藤とか?
そういえば、遠藤と藍原は、あのデートの次の日から早速付き合い始めた。
藍原はまだちょっとぎこちない感じだけど、
遠藤の方は、全くもってしまりのない表情をしぱなしだ。
あれだけ幸せになってくれるなら、藍原も付き合い甲斐があるだろう。
まだわからないけど、たぶん藍原もちゃんと遠藤のことを好きになるような気がする。
そうそう、昨日宏からもメールが来た。
まだ付き合うってとこまで行ってないようだけど、
コン坊とも順調なようだ。
ったく。
どいつもこいつも・・・
勝手にしてくれ。
食事を終えて歩のおじいちゃんの家の前まで戻ってくると、
ちょうど麻里さんが、お迎えに来たところだった。
「あ、本城さん。ありがとうございました」
「いえ。お疲れ様です」
こちらこそ。
お陰で月島と食事ができました。
「お夕食代、払わせてください」
「い、いいです!本当に!」
「でも・・」
いいんです!
むしろ、また歩を餌に使わせて欲しいくらいです!
・・・とは、さすがに言えない。
麻里さんはは恐縮しながら、歩と手を繋いで駅の方へ歩き始めた。
すると、急に歩が走って俺と月島の方に引き返してきた。
「月島さん!お土産ありがとね!」
「うん。頑張ってね」
「うん!」
歩は歯をむき出しにして、ニッと笑う。
「そうだ!真弥!月島さん、真弥のこと好きだって言ってたぞ!」
「そうか。そりゃどーも」
思うに、話の流れで歩が月島に俺のことを好きか?とでも聞いたんだろう。
で、月島は「うん」とか答えた訳だ。
歩に、俺のことを嫌いとは言えないだろ。
「じゃーな!」
「ああ。宿題、ちゃんとやれよ」
「おう!まずは夏休みの宿題を終わらせるぞ!」
まだ終わらせてなかったのか。
大変だな、歩の担任。
元気に手を振る歩を見送り、
俺は月島に、家まで送るよ、と言った。
でも、月島はしきりに遠慮する。
夏休みに歩と食事をした時も送っていったのに、
なんで今日に限って遠慮するんだ?
「あ、あの・・・」
月島は赤くなって俯く。
「さっき、歩君が言ってたことですけど・・・」
「さっき?」
「あの・・・私が、先生を好きって・・・」
「ああ。気にしてないから」
いや・・
月島には「気にしてない」と言いつつ、俺は別のことを気にしていた。
どうしよう。
言おうか、言うまいか・・・
実は明日、9月12日は月島の誕生日だ。
以前見た住所録に書いてあった。
本当は明日、3人で食事しようかと思ったけど、
誕生日当日は家族で予定とかがあるかもしれない。
だから、1日早めて今日にした。
俺としては、ちょっとした誕生日プレゼントのつもりだ。
(値段的には安すぎるが・・・)
だけど、俺がそういうつもりで今日誘ったと、月島に言うかどうか・・・
言ったらさすがに引くかなー。
それともちょっとは喜んでくれるかなー。
でも、月島にだけそんなことしたら、
月島も俺の気持ちに気づいてしまうかもなー・・・それは避けたいなー・・・
「ちょっとは気にしてください!」
「は?」
俺が一人で考えを巡らせてると、
急に月島が怒り出した。
「何怒ってるんだ?月島」
「怒ってないです!」
「怒ってるだろ」
「違います!ちょっとくらい、気にしてほしいだけです!」
「何を?」
「・・・!」
月島が真っ赤になって涙ぐむ。
こんな月島初めてだ。
さすがに俺も焦った。
「つ、月島?どうした?」
「・・・ひどいです」
「何が?」
なんだ?なんで怒ってるんだ?なんで泣いてるんだ?
「私は!私は・・・」
「うんうん」
「私は・・・」
「うんうん」
「・・・聞いてます?」
「聞いてるって」
月島はため息をつきながら言った。
「私は・・・先生が好きなんです・・・」
「うん。さっき歩に聞いたよ」
「・・・もういいです」
月島は俺に背を向け、歩き出した。
俺は慌てて月島の腕を掴んで止める。
「お、おい。ちょっと待てよ」
「ほっといてください」
「なんで怒るんだよ・・・」
「先生が全然真剣に聞いてくれないからです」
「ちゃんと聞いてるって」
「そういう意味じゃありません!!!」
ついに月島がほんとに怒りだした。
なんなんだよー!?
「私が先生を好きだってことを、全然本気にしてくれてないってことです!!!」
はあ?
「月島って俺のこと好きなのか?」
「・・・さっきからそう言ってるじゃないですか」
「教師として?」
「・・・違います」
そう言うと、今度こそ月島は走って帰ってしまった。
俺はただ呆然として追いかけることもできなかった。




