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第1部 第3話

「こんなもんで、いいかな」


鏡の中の自分を見る。

昨日は始業式だったし、全校生徒の前で紹介されるということもありスーツだったけど、

今日からはスーツじゃなくていいとのこと。

もちろんノーネクタイ可。


でも、だからと言ってさすがにジーパンという訳にはいかない。

カチッとした感じの濃いカーキのチノパンにストライプのカッターシャツ、

後はジャケット。


うん、悪くない。



こんなこと言うと女性は悠に100メートルくらい引くだろうが、

俺は、合コンで「長所は?」と聞かれて「ルックス」と答えても

冗談抜きで許してもらえるくらいの、見た目をしてる。


昔は謙遜してたけど、ある時、小学校からの心の友である和田宏という奴に、

「真弥が『俺、かっこよくないし』とか言ったらただの嫌味だから、

『俺、かっこいいでしょー。もてるんだぞー』って正直に言っとけ」

と忠告されて以来、それをネタにするようになった。


身長も182センチあるし、学生時代ずっとバスケをやってたお陰か細マッチョだ。

顔は・・・ご想像にお任せするが、女性うけする顔らしい。


大学時代、「教師になる」と言うと、友人達はこぞって「女子生徒狙いだろ」と

つっこんできたけど、俺にそんな趣味はない。

「どっちかってゆーと、女性教師狙い」と正直に言うとこれまたドン引きされた。

なんだよ、正直に言っただけじゃん。

年下には興味ないんだよ。


てゆーか、別に女あさりの為に教師になったわけじゃないぞ!

そりゃ、タマタマそうなるこはあるかもしれないけど・・・さ。


気合を入れなおし、車のキーを手に一人暮らしのアパートを後にした。




「おはようございます」


新人君らしくちょっと大きめの声で挨拶して、職員室に入る。

今日からいよいよ授業が始まる。

緊張するなあ・・・


他の先生達も新学年、新学期、とあって、少々緊張気味だ。

もちろん、俺やコン坊のそれとは比べ物にならないほど余裕だけど。


辺りを見回す。

教師と言っても人間だ。

自分が学生だった時もそれくらいわかってたけど、

なんとなく、先生ってのは凄く大人で自分達とは違う世界の人間と思ってた。

先生は先生であって、自分達子供とは違う。

自分達生徒とは違う。


尊敬してる、とか、怖い、と言うわけでもないけど、

どこか絶対的な存在だった。


でもいざ自分がその「先生」になってみると、

なんてことはない。

高校時代から大して成長していない自分がいた。


それは他の先生達も一緒。

もちろん今は見渡す限り先輩教師ばっかりで、

頭の下がる思いだけどやっぱり人間は人間だ。

癖もあれば微妙な関係もある。


例えば・・・。

俺は顔を上げる。


斜め向かいの河野先生。

ちょっと男に媚びたところのあるこの先生は、どうやら3月末に俺が始めてこの高校に来た時から、

どうやら俺に目をつけてるらしい。

うーん、これからどうやってかわしていこうか、頭が痛い。


その河野先生の隣・・・つまり俺の向かいの席は2年1組の担任であり学年主任の山下先生。

この人はもう紹介の必要もないだろう。

目下、俺の目標だ。


俺の左隣には、2年3組の担任の森田先生。

俺と同じく数学を担当している男性教師だ。

(俺は数学ⅠⅡⅢ担当、森田先生は数学ABC担当だ)

歳は30半ば。

教師としてだけでなく、その人となりでも生徒から大人気だ。


「おはようございます、森田先生」

「ああ、おはよう。本城先生。いよいよ授業一日目ですね」

「はい・・・緊張します。何かアドバイスとかありすか?」

「そうだなあ。生徒は生徒と思わず、芋栗かぼちゃ程度に思っとくってことかなあ」

「い、いも?」

「そうそう。生徒の目とか気にしちゃダメ。高校生ともなると、

新米先生相手だと生徒もなんとなく緊張してるから、先生まで緊張してたら授業が進まないよ」

「なるほど」


確かに、俺も高校生のとき、新米の先生の初授業の時は、

「この先生大丈夫かな?緊張して間違ったりしないかな?あんなガチガチにならなくていいのに」

と思ったものだ。


その時、俺の視界の中をスッと通り過ぎる物が。

顔を上げると、河野先生の隣の席の先生―山下先生とは反対側の席だ―が、

来たようだ。

俺は、できる限り精一杯の笑顔を作り、その先生に挨拶した。


「おはようございます、坂本先生」

「・・・おはよう・・・ございます」


ボソボソと挨拶を返してくれたのは、河野先生と同じく3年の担任の坂本先生。

英語が担当の女性教師だ。


この先生。何故か初対面の時から俺を毛嫌いしている。

愛情表現の裏返し、とかではなく、本当に俺のことを嫌いなようだ。


うん、まあ、たまにいるんだよな。

俺のことを訳もなく嫌う奴。

俺が目立つから、って言うのが主な理由らしいけど、

それでも坂本先生ほど露骨に、かつ、激しく嫌われるのは初めてだ。


ところがこの坂本先生。

自分では、俺のことを嫌いだってわからないように取り繕ってるつもりらしい。

バレバレなんだけど。


コン坊にさえ、「ちょっと、本城君。坂本先生に何かしたの?」と、

不審に思われる始末。


そんなところが面白くて、一方的ではあるが俺のお気に入りの先生だ。

特にかわいいとか綺麗とかでもない。

小柄だけど細いって訳でもない。

なんとなく愛嬌のあるタイプ。


3つも上の先輩だけど、これはカラカイ甲斐があるぞ!



「本城先生、おはようございます。これ、春休みに母親と旅行に行ったお土産です」

「あ、おはようございます、篠原先生。ありがとうございます・・・ってこれ、何ですか?」


目の前に置かれた見慣れないお菓子を持ち上げる。


「熊本に行ってきたんです。陣太鼓っていう羊羹みたいなお菓子なんです」


そう言って篠原先生は、それこそお菓子のような笑顔で微笑む。


・・・イイ。

篠原先生は「まさに」という感じの音楽の先生だ。

声はもちろん綺麗だけど、容姿はそれ以上。

例えるなら、民放の某朝番組のお天気お姉さん。


朝からこの人の笑顔を見ると、「よし!今日も一日頑張るぞ!」と思える。

こういうお嬢様タイプは俺の好みではないけど、

ここまで美人だとクラッとくる。


俺の好みはもうちょっと派手でさばけたタイプなんだけどな。

そうそう、藍原みたいな感じ。

って、生徒を引き合いに出すのはよくないよな。


そんなことを考えながら、お菓子を配る篠原先生の後姿を眺める。



「・・せい」


後姿もかわいいなー。


「先生」


・・・ん?


「本城先生」

「え?あ、月島!」

「おはようございます」

「お、おはよう・・・」


やばい、篠原先生に見とれてるところを見られたか?


「どうした?」

「これ、昨日の進路希望のアンケートです。私、まだ提出してなかったので」

「そ、そうか」


あ、焦る・・・


「一晩考えたんですけど、希望する大学を決められませんでした。

白紙ですけど構いませんか?」

「ああ。まだ2年になったばっかりだもんな。いいよ」

「はい。お願いします」


月島はそう言って、白紙のアンケート用紙を俺に手渡し、

礼儀正しく一礼すると職員室を出て行った。



「月島って、本城先生のクラス?」


突然、森田先生が小声で俺に話しかけてきた。


「え?はい。そうです」

「月島には注意してください」

「注意?」

「月島は、めちゃくちゃ頭がいいから。特に数学は教師顔負け。俺も何度冷や汗かかされたか」

「えっ。森田先生が?」

「そう。他の生徒も月島が凄いってことはわかってるから、月島から質問受けても焦らないようにね。

『今わからないから、持ち帰って明日答えるよ』って言っても、全然OKだから」

「うわ。でもそれ教師としてイヤですよね」

「他の生徒からの質問だったらイヤだけどね。月島は例外。レベルが違う」

「へえ・・・」


やっぱり扱いづらい奴だな。

いたいけな新米教師にドギツイ質問してくんなよ!




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