第1部 第28話
羽田空港のロビーで点呼を取り、解散。
ようやく修学旅行が終わった。
生徒達は一様に、高校生活最大のイベントが終わってしまったという、
ちょっとガッカリした顔で、でも満足そうに帰っていった。
で、俺はと言うと・・・
「つかれたあー」
グッタリとロビーの椅子に座り込んでしまった。
飛行機の到着を知らせる電光掲示板を見ると、
後10分ほどで北組も帰ってくる。
どうしようかな。
もう仕事がないから帰ってもいいんだけど・・・
ちなみに「帰る」と言っても家に帰るんじゃない。
学校だ。
色々やることがある。
それなのに俺がここを立つかどうか悩んでる理由。
1、北組を待ってれば月島に会える
2、新米教師として、担当の南組だけでなく担当外の北組の教師の手伝いもする
3、疲れて立てない
最大の理由は「2」だ、と胸を張って言いたいところだけど、
残念ながら、「3」だ。
「1」ですらない。
いや、マジで疲れるんですよ、修学旅行。
生徒が本気で芋栗かぼちゃに見えてくる。
しかも、その数を管理しないといけない。
1個たりともどっかで落としてくるわけにいかないからな。
しばらくは芋も栗もかぼちゃも食いたくねー!
が、俺が立つか立たないか葛藤しているうちに、
北からの芋栗かぼちゃ達が到着してしまった。
おお。心なしか、うまそうに見えるぞ。
さすがは北海道帰り。
「あれ?本城、なんでいんの?」
「おかえり、小野」
「・・・本城、痩せた?」
「痩せたってゆーか、やつれたかも」
「あはは、遠藤達に2泊3日もつきあってたらやつれもするよねー」
と、コロコロと笑う。
おお、お前、よくわかってんな。
でもお前も遠藤達と大してかわんねーぞ。
見つかってしまった以上、のんびりと座ってる訳にいかない。
生徒の点呼や荷物の管理を手伝い、
30分後には北組の解散へと漕ぎ付けた。
「つかれたあー」
俺は再びロビーの椅子の上。
もう、ここで眠ってしまいたい。
が。
「先生。こんにちは。お疲れ様です」
「月島・・・」
復活。
「疲れてますね」
「そんなことないぞ」
俺は慌てて座り直す。
すると月島も俺の横に軽く腰掛けた。
「これ、先生にお土産です」
「え?」
そう言って月島が俺に手渡してくれたのは、
六花亭のチョコレート。
「先生って甘い物、好きですよね?」
「・・・うん。なんで知ってるんだ?」
「近藤先生が言ってたから」
ナイス、コン坊。
「修学旅行で疲れてるかなと思って、甘い物にしました。あと、もう1個、
こっちは近藤先生に渡しておいてください」
「コン・・・近藤先生に?」
「はい。よく、英語みてもらってるんです。荷物になっちゃいますけど・・・すみません」
「わかった。ありがとな」
月島は、どういたしましてと言って笑う。
もちろん教師の俺は、月島だけにお土産を買うわけにいかないから、
何にもないけど・・・
「あ、そうだ。もう一つあるんです」
「もう一つ?」
「はい。歩君に」
気の効く奴だな。
月島が、鞄を開け、ゴソゴソと中を探す。
「あれ?どこに入れたかなあ・・・」
「なあ、月島」
「はい」
「・・・よかったら、歩に自分で渡さないか?」
「え?」
「あいつ、また月島に会いたがってたし」
「そうなんですか?」
「うん。また一緒に飯食ってやってくれよ」
ごめんなー、歩。餌にして。
こんなことはもうしないから。
今回だけどうしても、なんだ。
今度新しいWiiのソフト買ってやるから許せ。
そんな俺の下心にも気づかず、
月島はニコッと笑う。
お。今日は目も笑ってるぞ。
「分かりました。食べ物じゃないから、いつでもいいです」
「じゃあ・・・来週の木曜日・・・じゃなくて水曜は?」
「はい」
俺はほっとして、月島と別れ、
学校へ向かった。
月島とこんな約束しておきながら何なんだが、
まずは藍原とのデートだ。
いつでもいいと言えば、いつでもいいが、
いつまでも遠藤を待たせておくのもかわいそうだから、早目がいいだろうということで、
早速今週の日曜にすることにした。
俺は電車のつり革に身を預けながら考えた。
高校生の頃ってどんなデートしてたっけ?
・・・いや、俺自身の高校時代は参考にならないな。
5年以上も前だってこともあるけど・・・
俺の実家は結構金持ちだ。
小遣いも使い切れないくらいもらってた。
しかも同級生はほとんどが俺の家より金持ち。
だから、普通の高校生とはちょっと違うデートが多かった、と思う。
なんせ、高校生のくせに、「週末はちょっと海外へ」なんて奴も
たくさんいたからな。
もちろん藍原も私立高校に通ってる訳だから、
どちらかと言えば裕福な家庭なんだろうけど、
堀西の生徒とは比べ物にならない。
今回のデートは、金は俺が出すにしても、
あまり贅沢過ぎない方がいいだろう。
でも、俺も一応社会人な訳だし、
藍原も高校生同士のデート以上のものは期待してるだろうし・・・
ああ、わかんなくなってきた。
こういう時は、月島に相談・・・
って訳にいかないよな。
「で、私に相談?」
「頼むよ、コン坊ー。俺にも生徒にも一番身近な女として是非アドバイスを」
「面倒くさいからヤダ」
「そんな冷たいこと言うなよー。ほら、チョコレートやるから」
「これ、月島さんから私へのお土産でしょ?」
空港から直行した学校の職員室で、
早速コン坊に相談する。
そしてこれまた早速コン坊は、月島のお土産である、
イチゴをチョコレートでコーティングしてあるお菓子を口に入れる。
「うわ!おいしい!」
「だろ?ほら、相談に乗ってくれよ」
「まったく・・・」
コン坊がため息をつく。
「じゃあ、アドバイスさせてもらうけど。この場合は人に頼らず自分で考えた方がいいわよ」
「なんで?」
「藍原さんは、本城君に任せたいのよ。だから本城君自身がデートの内容を考えないと、
藍原さんにとっては意味がないのよ」
「・・・そーゆーもんか?」
「そーゆーもんよ。他の女が考えたデートプランだって知ったら、がっかりするわよ、きっと」
「・・・女心って難しいな」
「てゆーか、本城君て意外と鈍いよね」
「意外と?」
「うん。遊んでるくせに、意外と女心がわかってない」
「・・・遊んでないし」
「昨日和田君と食事したんだけど、聞いたわよ、色々と」
色々ってなんだ、色々って。
そんな遊んでた覚えないぞ。
「ま、とにかく、頑張って考えなさいよ」
「はい・・・」
くそー。
また、振り出しに戻った・・・




