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第1部 第27話

南組の修学旅行の日程は、


1日目、移動と本島の見学

2日目、本島の見学と海水浴

3日目、自由行動と移動


となっている。



1日目は何事も無く終了。

「楽しむってったって、俺は教師なんだから、ちゃんと仕事しないと!」

と思いつつ、しっかり楽しんでしまった。

沖縄なんて俺も高校生以来だけど、

大人になってから見る沖縄はまた一味違う、

色んな歴史があるから、感じるところがたくさんある・・・

なんて、自分に言い訳してみる。


そして2日目の午後。

海水浴だ。

よーし!泳ぐぞ!!


「って、こんな綺麗な海を前に、何が悲しくて陸にいなきゃいけないんだ・・・」


そう。俺は教師。

陸から生徒が溺れたりしてないか見てないとネ。



天気も最高に良く、

キラキラとエメラルドグリーンに光る海と、

その中で大はしゃぎの生徒達を、

俺は砂浜の木陰に座ってぼんやりと見ていた。



まあ・・・たまにはこんなのも悪くない。

今度またプライベートで来て楽しめばいいや。

誰と来ることになるかな?

宏だったらお互いに悲しいな・・・


そりゃ月島と来てみたいけど、

暑いの苦手って言ってたしなー。

水着きて、はしゃぐタイプでもないしなー。

そう言えば、月島の水着姿って見たことないなー。

1学期は体育の授業でプールがあったはずなのに、おしいことしたなー。



なんて、一人で妄想モードに入っていると、

いきなり声をかけられた。


「本城先生」

「うわ!西田!おどかすなよ!」

「え?す、すみません・・・」


西田が申し訳なさそうにする。

ちょっと大人っぽい白い水着が眩しい。


「い、いや、西田は悪くないよな・・・ごめん」


西田はニッコリと笑った。


月島と仲の良いこの西田は、

月島ほどではないものの、成績はかなりいいし、品行方正で教師ウケのいい生徒だ。

月島みたいに教師に冷たくないしナ。


美人というよりは可愛らしいタイプで、中学生と言っても通りそうだ。

柔らかい感じのする奴だけど、その実しっかりと一本筋が通っていて、ぶれない。

そんなところが、月島と合うのかもしれない。



「どうした?」

「浮き輪のこの空気入れるところ・・・沈んじゃって。先生、出せます?」


見ると、浮き輪の空気を吹き込む部分が、内側に入り込んでしまってる。


「ああ。ちょっと待って」



俺は浮き輪をいじって、なんとか吹き込み口を外に戻した。


「はい」

「ありがとうございます!」


西田は丁寧にお礼を言うと、海へ走っていった。

その先には、西田の彼氏。


隣のクラスの真面目な奴だ。


こいつが、沖縄に行きたいと言ったから西田も沖縄に来たらしい。


月島のことは抜きにして・・・

俺なら彼女に、自分と同じ所へ行くより、仲の良い友達と同じ所へ行けって言うな。

だってさ、恋人同士ならこれからいくらでも一緒にいれるじゃないか。

でも友達はそうはいかない。

卒業したらあまり会えなくなるかもしれない。

だから修学旅行は友達と一緒に楽しんだ方がいいと思う。


まあ、片思いなら、近づきたくて一緒の所へ行きたいと思うけど。

(悲しいかな、今まさにその状態だ)


色々経験して、ちょっとは大人になったから、

こんな風に考えられるのかな?



俺は楽しそうに話す、西田と彼氏を見た。



彼氏が西田に一緒の所へ来いと言ったのか、

西田が一緒に行きたいと言ったのか、

西田自身が沖縄に来たかったのか、

それはわからないけど・・・


西田は月島と一緒で、北海道の方が好きな気がする。

それなのに、彼氏に合わせて北海道にするなんて、

ちょっと西田らしくないな。


あの白い水着も、彼氏の趣味なのかもしれない。

西田だったら、もうちょっとかわいらしい感じの水着を好みそうだ。

ピンクとか、ドット柄とか。



この二人はどうかな・・・続くかな・・・



こうしてまた妄想モードに突入していると、

また突然声をかけられた。


「センセ」

「藍原?なんだ、泳がないのか?」


そこにはハーフパンツ姿の藍原。

ブルーオーラ全開!って表情をしている。


「うん・・・」

「なんで?」

「・・・」


ああ・・・そっか。

女は大変だよな。

せっかくの修学旅行なのにかわいそうに。


「藍原の水着姿、楽しみにしてたのになー」

「今度見せてあげるよ」

「それはそれは、ありがとう」


藍原は俺の横に腰を下ろしながら言った。


「ここにいていい?」

「ああ」


藍原はしばらく何も言わずぼんやりと海を眺めていたけど、

不意に口を開いた。


「遠藤にコクられた」

「・・・へえ」


頑張ったな、あいつ。


「どうしよう」

「どうしよう、って、嫌いじゃなかったら付き合ってみたら?」

「簡単に言うね」


藍原が俺を睨む。

俺は肩をすくめた。


「だって、そうだろ」

「そうだけど・・・」


藍原は視線を足元に落とし、足の指で砂をいじる。

そして軽くため息をつくと、覚悟したように言った。


「ねえ、センセ。一度私とデートして」

「デート?」

「うん。そしたらセンセーのこと忘れて、遠藤と付き合ってみるよ」

「藍原・・・」

「お願い。誰にも言わないから」

「・・・」


藍原は真剣な目で俺を見る。

でも俺は、藍原の方を見ずに考えた。


生徒が何かを振り切るために、一度くらい教師とデートしたって、

俺はいいと思う。


ただ・・・

遠藤にとって、どうなんだろう。

あいつは、俺がそんなことして喜ぶか?


「・・・喜びそうだな。バカだもんな」

「え?」

「いや、なんでもない」


確かに遠藤はバカだけど、

今の「バカ」は遠藤だけに対してじゃない。

男ってのはバカなもんだ。

好きな女とつきあえるなら、多少の不本意なことには目を瞑れる。


俺は藍原を見た。


「一度だけだぞ?」

「うん」


藍原は目を潤ませて、嬉しそうに頷く。


・・・そんな表情するなよな。

何でもしてやりたくなるじゃないか。

女ってズルイ。


「どこに行きたい?」

「どこでもいいけど、センセーに決めて欲しい。センセーに連れて行ってもらいたいから」

「わかった。考えとくよ」


よし。

やると決めたらやるぞ!

藍原が楽しめるように考えてみよう。


「ありがと、センセ。楽しみにしてる」

「うん」





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