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第1部 第26話

羽田空港のロビーに、朝日ヶ丘の教師と生徒が溢れかえる。

そのグループは大きく二つに分かれている。


一つは10時の飛行機で北海道へ向かう北組。

もう一つは10時20分の飛行機で沖縄に向かう南組。


そう。

生徒達にとっては待ちに待った2泊3日の修学旅行だ。



「くそー・・・、なんで俺、赤い割り箸引いちゃったんだ・・・」

「本城先生?どうかした?」

「いえ・・・」


俺の独り言を不審に思った森田先生が首を傾げた。

俺は自分の手の中の沖縄行きのチケットを見てため息をつく。


俺は教師だ。

別にどっちに同行してもいいじゃないか。

いや、むしろ俺みたいな体力勝負の若い教師は、

暑い沖縄に行って生徒の相手をするべきだ。


沖縄は9月でもまだ海で泳げるということもあり、

北海道より生徒に人気だ。

つまり、北海道より沖縄へ行く生徒の方が多いということ。


これはますます、俺なんかは沖縄に行くべきだ。

そうだ。

だからこれでいいんだ。



ちぇっ。



北組と南組のグループの真ん中辺りへ目をやる。

そこには、別れを惜しむように何かを話している月島と西田。


おい、西田。

お前、月島と仲がいいんだろ。

どうして、一緒に沖縄にしようって、誘わなかったんだ。


そういえば、西田の彼氏がどうしても沖縄がいいって言って、

西田も沖縄にしたんだったよな。

それで気を利かせて月島は北海道にしたわけだ。

西田の彼氏め。

なんで北海道に行こうって西田を誘わなかったんだ。



いや・・・

月島は暑いのが苦手だって言ってたな。

周りがどう言おうと、沖縄を選ぶことはなかったってことか。



じゃあ、やっぱり、

赤い割り箸を引いた、俺が悪いってことか。


ふん。

別にいいじゃないか。

俺は教師だから月島と同じところに行ったとしても、

生徒同士みたいに一緒に行動できるわけじゃないんだしさ!

いいじゃないか。

うん、いいじゃないか・・・



「はあ~」

「ははは、教師にとっては修学旅行は最難関だからなあ」

「・・・森田先生は北組に同行するんですよね?」

「そう。あ、そろそろ生徒集めて搭乗しないと。それじゃ本城先生も頑張って」

「はい・・・」



意気揚々と涼しい北海道へ向かって行った森田先生と、

その後に続く生徒集団・・・の中の月島を、

俺は未練タラタラで見送った。


だめだ、だめだ。

月島を見てこんな顔してたら・・・


俺は、あの日のコン坊との会話を思い出した。





お盆明けの合コンの次の日。

そう、坂本先生と給湯室で一悶着あった日だ。


あの日、コン坊は月島に、

俺が合コンに行き、酔った勢いで宏と一緒にコン坊の家に流れ込んだことを暴露しやがった。


後で俺はコン坊に文句を言った。


「あんなこと、生徒にバラすなよ」

「和田君に勝手に私の携帯教えたお返しよ」

「え?あいつ、もう連絡してきたのか?今朝教えたばっかりだぞ」

「その『今朝』早速、今度食事に行こうってメールがきたわよ」


うわー、はえー。


「宏なら別に教えてもいいだろ?」

「まあね。でも、ちょっとくらいお仕置きさせてよ」


コン坊がチラリと俺を睨む。


「だからって生徒にあんなこと・・・」

「生徒だからあんなことバラしたんじゃないわよ。月島さんだからよ。

さすがに本城君も好きな子に合コン行ったなんて知られたら、ちょっとは堪えるでしょ」

「うん。堪えました」


って、おい。


「なんだ、その『好きな子』って」

「だって、本城君、月島さんのこと好きなんでしょ?」


うわ。バレてる。


「・・・坂本先生から聞いたのか?」

「え?坂本先生も知ってるの?」

「違うのか・・・」


さすがに違うよな。


「じゃあなんで・・・」

「見てりゃわかるわよ」

「見てりゃわかるんですか」

「うん。本城君わかりやすいもん」

「・・・自覚したのも最近なんだけど?」

「そうなの?私、1学期の途中くらいから、気づいてたわよ」


なんで自分でも気づかないことにコン坊が気づくんだ。


「それくらい本城君はわかりやすいってことよ。生徒に気づかれないように気をつけなさいよ」


とのこと。

げー、どうしよう・・・。

気づいてる奴、いるかな?

もしかして、月島本人も気づいてたりして・・・

うわー!!!





「本城!何、浮かない顔してんだよ?」

「遠藤・・・」


藍原と同じ沖縄に行けて嬉しいです!

って顔に書いてあるような遠藤がやってきた。

ムカつくぞ。


「そろそろ手荷物預けてきたら?」

「そうだな・・・なあ、遠藤。俺って誰か好きな女いるように見える?」

「篠原先生だろ?」

「・・・お前に聞いた俺がバカだった」


あー、もう!

みんな遠藤みたいにバカだったらいいのに!


俺は肩を落としながら手荷物チェックへと向かった。



こーなりゃ、俺も沖縄は楽しんでやろうじゃないか!!





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