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第1部 第25話

朝一のコン坊のパンチが効いたのか、

宏の色ボケ顔が効いたのか、

寝不足と二日酔いにも関わらず、俺は朝から上機嫌だった。


学校の駐車場に車を止め、

鼻歌でも歌いだしかねない勢いで職員室に入り、席に着いたが・・・

さすがに眠い。


よく考えたら、2時くらいまで飲んでて、6時にコン坊に起こされたのだ。


俺は自販機でコーヒーを買おうと思い、職員室を出ようとした。

すると、ちょうど出勤してきた坂本先生と職員室の入り口で出くわした。



なんか、俺、坂本先生を見ると、嫌味なくらい爽やかな笑顔が自然と出るようになってきた。

俺がそういう笑顔をすると、坂本先生が引きつるんだよなー。

そんな坂本先生が面白くってクセになってしまった。


今日も、いつも通りできる限り爽やかな笑顔で挨拶する。


「おはようございます、坂本先生」

「・・・おはよう・・・ございます・・・本城先生」


ん?

いつも俺にはぎこちないが、今日はいつに増してもぎこちないぞ、坂本先生。

どうしたんだ?



席に戻っても、時々坂本先生の視線を感じた。

もちろん好意的な視線じゃないけど・・・


なんか、殺人的な視線に感じるんですけど?



あ!

そうか!!!


合コンのお陰ですっかり忘れてたけど、

昨日、俺、坂本先生と杉崎が手を繋いでるところ見たんじゃないか!


そうかー。

それで、坂本先生は俺を気にしてるんだな?

でも、なんで?


ああ・・・もしかして、俺が言いふらすとか危惧してるんじゃ・・・

おいおい、見損なわないでくれよ。

いくらなんでもそんなことしないし。


俺も似たような立場だしな。

・・・いや、全然違うか。

羨ましいな、くそ。

やっぱ、言いふらしちゃおうかな。



それにしても、坂本先生の視線は半端なかった。

思わず、惚れられてるのかと勘違いしてしまうほどしつこく見つめてくる、

いや、睨んでくる。

多分、俺が席を立つのを見計らって口止めしようと思ってるんだろう。


でもきっと、ハラハラしてるのは坂本先生だけで、

杉崎は「本城先生は言いふらしたりしないから大丈夫だろ」と思ってるんだろうな。


ぷぷっ。

おもしれーカップル。


そして更に面白い、坂本先生。


さっさと席を立って、俺に話しかけるチャンスを作ってやってもいいが、

あまりに面白いからちょっとイジメてやるか。

いつも邪険に扱われてるお返しだ。




俺はワザとらしく悠々と仕事をし、

一向に職員室から出て行こうとしなかった。


坂本先生は、見ててかわいそうになるくらいハラハラしてる。

あはははは、さすがに焦らし過ぎたかな?

そろそろ立ってやるか。


と、その時、月島が来た。

おお、作戦中止。

月島が先だ。



「先生、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「質問があるんですけどいいですか?昨日、聞こうと思って教室で待ってたんですけど、

先生、戸締りに来なかったから」

「あ。忘れてた・・・ごめんな」


なんだよ、月島、待っててくれてたのかよ・・・

残念なことしたな。

合コンのこと考えてたら、そういえば戸締り忘れてた。


「いえ。大丈夫です」


そう言って月島は少し微笑む。

おお、席立たなくってよかった・・・


一方坂本先生は我慢の限界が来たのか、

立ち上がって職員室を出て行ってしまった。


「昨日、早く帰ったんですか?」

「ああ。ちょっと用事があってさ」

「合コンよ」


すかさずコン坊が突っ込んできた。


「おい!コン坊!生徒に余計なこと言うなよ!」


しかも月島に!


「何よ。事実でしょ?聞いてよ、月島さん。

しかも本城先生ってば、友達と一緒に私の家に押しかけて床に転がって寝ちゃったのよ」

「うわー!!うるさい!!!」

「え?そうなんですか?」

「そうなのよー。月島さんも、気をつけてね。こんな上っ面だけがいい男に騙されちゃダメよ」

「はい」


はい、じゃなーい!!!!


なんだ!?

坂本先生をイジメたお仕置きか!?

くそー!!!




月島の質問に対応した後、

(月島の目がどことなく冷たかったが・・・)

俺は給湯室に向かった。

もう1杯コーヒーを飲もうと思ったけど、

スタバで宏と既に1杯飲んでるし、お茶にしとこうと思ったのだ。


給湯器で紙コップにお茶を入れていると、

坂本先生が入ってきた。

俺が中にいると知らなかったらしく、驚いた顔をしている。

が、すぐにその表情の中に「絶好の口止めチャンス!」と言う文字が浮かびあがる。

・・・マジで分かりやすいな、坂本先生。


「・・・本城先生」

「あ、おつかれさまです」

「・・・はぁ」


坂本先生があからさまにため息をつく。


「坂本先生、ぼんやりし過ぎですよ。大丈夫ですか?」

「・・・全然大丈夫じゃありません。誰のせいだと思ってるんですか?」

「あれ?僕、何か悪いことしました?」

「コンビニにいました」

「・・・コンビニ行くのって悪いんですかね」

「本城先生のお家って、あんなところじゃないですよね?」

「よく知ってますね。合コン行く途中に寄ったんです」


そんな正直に言うなよ、って顔に書いてますよ、坂本先生。


「あんな遅くに出歩いちゃいけません。良い子は家で寝てください」

「・・・8時前でしたよね、あれ」

「そうでしたっけ?」


おお、なかなかチャレンジングな態度だな。

ちょっとイジメてやるか。


「坂本先生、いいんですか?僕にそんな態度取って」

「・・・」

「頭下げて口止め頼むところじゃありません?」


見る見るうちに、坂本先生の顔が赤くなる。

ぷぷぷ・・・ほんと、飽きないなあ。


でも、そろそろやめておこう。

さっきみたいに、罰があたるかもしれないし。


言いふらしたりしませんよ、って言えば、安心するかな?

でも、俺、全然坂本先生から信用されてないからなー。

そんなこと言ったところで、坂本先生の不安は解消されないだろう。

いっそこのまま放置って手もあるな。


でも、真っ赤になりながら目を潤ませている坂本先生を見ると、

さすがにかわいそうになってきた。


・・・そうだ。

坂本先生になら、まあ、いっか。


俺は給湯室の外を気にしながら、坂本先生に一歩近づいて、

小さな声で言った。


「坂本先生。月島って生徒、知ってますか?」


坂本先生は3年の担任だけど、

月島くらい勉強のできる生徒なら知ってるかもしれない。


案の定、坂本先生は少し考えた後、頷いた。


「僕、月島のこと好きなんですよね」

「は?」

「あ、付き合ってませんよ?僕の片思いです」

「はあ?」

「じゃあ」


俺は、ぽかんとする坂本先生を放置し、

給湯室を出た。



あー、面白かった!

坂本先生のあの間の抜けた顔と言ったら・・・

今日一日、笑いに不自由しないな。



あれで坂本先生も俺の秘密を知ったことになる。

お互い弱味を握り合っているのだから、

坂本先生は、俺が言いふらす心配をしなくていいだろう。


しかも、同じ弱味だ。



それにしても、教師という面だけではなく、

こんなことまで坂本先生は俺の先輩だった訳だ。


どういう経緯で杉崎と付き合うことになったか、

いつか聞いてみたいな。




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