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第1部 第23話

やって来ました、8月18日、火曜日!


合コンだー!


って、盆休み明けの火曜から合コンって、みんなどれだけ暇なんだよ。

俺も。



それにしても・・・


「こんなにやる気のしない合コンは初めてだー!」

「ちょっと、本城君がやる気しないなら、そんな本城君に連れて行かれる私はどうなるのよ?」

「コン坊・・・一人で行ってくんない?」

「サイテー」

「冗談だって・・・」


職員室の机に頬杖をつきながら、俺はため息をついた。

彼女がいるのに合コンに行く・・・って言うのは、ある程度割り切れば楽しめる。

だけど、片思い中に合コンに行く・・・って言うのは、こうも気が乗らないものか。



おお、そうこうしてる間にもう6時だぞ。


「じゃあね、本城君。後で」

「うん。8時にH駅の改札な」


俺も憂鬱な気分でパソコンを閉じると帰り支度を始めた。





H駅の改札でコン坊を待っている間、俺は月島のことを考えた。


ドラマじゃあるまいし、教師と生徒が恋愛関係になるなんてこと、現実にはないだろう。

でも、悲しいかな、現実には、教師が生徒にイタズラすることはある。

よくニュースにもなっている。


いけないことだが、恋愛関係ならまだいいじゃないか。

二人は幸せなわけだから。

でも、大人で、しかも立場的にも上の教師が、生徒に関係を強要するのは許されない。

そんなのただのエゴだ。

犯罪だ。



俺は気晴らしにコーヒーでも飲もうと、改札を離れ、

近くのコンビニに向かった。



俺は別に月島と付き合いたいとか思ってる訳じゃない。

そりゃそういう気持ちが全くないと言うと嘘になるけど、

なんて言うか・・・そんなのはあまりにも非現実な話に思える。


でも、昔の月島のような事件は現実にたくさんある。


こんな嫌な教師と生徒の関係はあって、幸せな恋愛関係はないのか。

どこにでもいいから、そんなのがあって欲しい。

なんか、寂しい、っていうか、むなしいじゃないか。


どこかに、そんなの、転がってないかな・・・




俺は俯きながら、コンビニの入り口に差し掛かった。

ふと、視界の中に、繋がれた手が現れた。


おお、この暑いのに、手なんか繋ぎやがって。

・・・うらやましいな。


顔を上げると、カップルの顔が目に入った。


二人も俺の顔を見た。

そしてパッと手を離した。



最初に俺の脳が認識したのは、女の方の顔だった。


―――坂本先生!?


坂本先生は、口をあんぐり開けて、俺に見入っていた。


俺は、なんとなく見ちゃいけない気がしながらも、

好奇心に逆らえず、男の方を見た。


男の方も、坂本先生ほどではないものの、驚いた顔をしていた。


第一印象は、若いな、と言うこと。

そして・・・

どこかで見たことがある。


男の方も俺を見て驚いてるってことは、俺のことを知ってるってことか。


俺が知っている若い男・・・

そしてそいつも俺を知っている・・・



その男は、ジーパン姿だったけど、俺は恐る恐る、そいつが制服を着てるところを想像した。


―――杉崎!?


そうだ!杉崎だ!!

3年の・・・河野先生のクラスの!!

一度俺に質問しに来た、あの、癒し系の生徒だ!!!



3人とも馬鹿みたいにポカーンとコンビニの入り口で突っ立った。


「・・・こんばんは」


最初に口を開いたのは杉崎だった。


「・・・ああ、こんばんは」


俺は何とか、それに応えたけど・・・

おい、坂本先生。

ちょっとは反応しろよ。


俺の挨拶からたっぷり10秒たっても、

まだ意識をどこかに旅立たせたままの坂本先生の脇を

杉崎が肘でつついた。

坂本先生は、ハッとして、何を思ったのか、


「お、おつかれさま・・・本城先生」


と、言った。

コンビニで出くわして、おつかれさまも何もないだろ。


どうしようかと一瞬迷ったが、

これ以上どうしようもないので、

俺は、じゃあ、と言ってコンビニの中へ入った。


二人も、さよなら、と言うと、コンビニから立ち去っていった。





「お客さん!お会計お願いします!」

「あ・・・すみません・・・ちょっとぼーっとしてて・・・」


俺は缶コーヒーを手に、レジの前を素通りして外に出ようとしていた。

こらこら、こんなところで万引きしてる場合じゃないぞ。


改札に戻り、コーヒーを一口飲む。


えーっと、

坂本先生と杉崎が手を繋いでコンビニから出てきた、

だよな?

つまり、それはその・・・




うわああああ。


どうしよう。

俺、とんでもないもの見ちゃったんじゃないか?


すげー、偶然!

学校からこんなにも遠いコンビニで、

バッタリと出くわすなんて!

いや、学校から近いコンビニなら、二人とも手を繋いだりしてないか・・・



俺は驚いた二人の表情を思い浮かべる。

きっと今頃二人とも「なんであんなところに本城先生が!?」と

愕然としているだろう。

それを想像するとなんか笑える。

特に坂本先生は大騒ぎだろうな。

んで、杉崎は結構落ち着いてるんだろうな。


全く、どっちが年上かわかりゃしない。



ふふん。


俺は一人、ほくそ笑んだ。


坂本先生と杉崎か。

面白い組み合わせじゃないか。


坂本先生の好みはああいう男か。

杉崎と対極のタイプの俺を嫌うのも納得がいく。

逆に言えば、そんな大嫌いな俺の対極にいる杉崎にはさぞかし惚れてることだろう。


俺は驚いた二人の表情しか見なかったけど、

夜に二人で手を繋いでコンビニなんて、

すげー仲良さそうじゃないか。



意外と転がってるもんだな、幸せな関係って。



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