勝利の代償、道標は天より
戦場に、静寂が訪れた。
天使の残骸は、何も言わない。
中心に立つのは、黒の王剣を担いだ魔王マンタティクス。
最初に、それは小さな声だった。
「……勝った?」
誰かが呟いた。
次の瞬間――
「やったああああああ!!!」
歓声が爆発する。
「流石だ、魔王様!!」
「天使を倒したぞ!!」
「アルカディア万歳!!」
兵士たちは剣を掲げ、翼を打ち鳴らし、全身で喜びを爆発させた。
「(ふぅ……なんとかネバーさん無しでも出来た、怖かったぁ!)」
そう思いながらもマンタティクスは、そんな光景を当然のように見下ろしていた。
無表情のまま……自分の描く完璧な王として。
だが__
「!?」
――ヒュゥゥン。
低く、空気を切り裂く音が戦場を裂いた。
誰かが、指をさして絶叫する。
「天使だ!! また来た!!」
次の瞬間、戦場全体が凍りついた。
剣を構える者はいない。
翼を広げる者もいない。
ただ、絶望に飲まれて、動けなかった。
マンタティクスも、自然と王剣を構え直す。
だが――
天使は、攻撃の構えを取らなかった。
「お前か」
透明な声が、戦場に降り注ぐ。
「魔王マンタティクス。……魔神様の御心を超える存在が、生まれるとは」
「……ほう?」
マンタティクスは微かに目を細める。
天使は、指先に何かを摘む仕草をした。
空中に、小さな銀色の鍵が浮かび上がる。
「これは、魔神様の座へ至る道標。
貴方に授けましょう」
ざわつく兵士たち。
だが、誰も声を上げられない。
マンタティクスだけが、平然と天使を見据えていた。
「……何が狙いだ?」
「魔神様はアナタに興味をお持ちです」
今度の天使は必要以上のことは言わない。
まるで機械だ。
「随分と一方的な好意だな」
「魔神様の命により、貴方に必ずこれを手渡すこと。それが私に課された“絶対命令”です」
「ほう。つまり、貴様は――
どんな手を使ってでも、我にこれを握らせねばならぬというわけだ」
マンタティクスは、王剣を地面に突き立て、わざと悠然と腰を下ろす。
「ならば、こちらにも条件を付けさせてもらおうか?」
天使の眉が僅かに動く。
「条件?」
「そうだ。
この鍵と引き換えに――全世界への我らへの指名手配、取り下げろ」
静寂が落ちる。
天使はわずかに考える素振りを見せた。
「承認されました。――交渉は成立します」
「フン、随分と話が早いことだ」
マンタティクスはふわふわと天使の手から離れて来る銀の鍵を受け取った。
「――貴方が歩む道は、試練ではありません。“選別”です」
「選別、か……」
マンタティクスはニヤリと笑う。
「貴様らごときに、我が価値を測れるものか」
天使は静かに消えた。
銀の光が空へ伸びる。
光は東方、まだ見ぬ地を指し示していた。
王は、剣を掲げた。
「――全軍、進軍の準備を整えよ」
その声に、兵たちは呼吸を飲んだ。
「目指すは――魔神の座だ!」




