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異世界テイマー生活!あ、僕が使われる側なのね  作者: しぇいく
第五章

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黒剣は天の矢を否定する

 バキィンッ!


 


 王剣と光の矢が交錯し、金属を砕くような音が戦場を切り裂いた。


 爆ぜる火花、押し出される衝撃波。

 巻き上がる砂煙に、兵たちが一斉に身を伏せる。


 


 「……嗚呼。恐ろしい。さすがは“王”ですね」


 


 天使は微笑を浮かべながら、風に乱れる髪をそっと押さえた。


 その口調は穏やかで、まるで美術品でも鑑賞するかのような優雅さ。


 


 「その暴力で築かれた王国――とても素敵です。

  血と屍の積み重ねが、きっと玉座をより高く見せてくれるのでしょうね?」


 


 「……ほう? 言葉遊びで誤魔化すか、天の使い」


 


 マンタティクスが鼻で笑い、王剣を軽く振る。


 その一閃が地を裂き、土煙が爆ぜた。

 天使は一歩下がりながら、悠然と次の矢を構える。


 


 「私はただ、真実を言っているだけです。

  “王”を名乗る者が剣を振るう姿――なんて滑稽で、哀れなことでしょう」


 


 「哀れ……だと?」


 


 「ええ。まるで、自分の価値を“力”でしか証明できない獣のよう」


 


 矢が放たれる。

 王剣がそれを弾き、金属の軋む音と共に火花が散る。


 


 「だがご安心を。貴方のような“間違い”は、必ず修正されます」


 


 「……フッ、どこまでも気にくわんな。貴様の口の利き方も、存在も、何もかも」


 


 マンタティクスが静かに剣を構える。

 だがその瞳は、怒りではなく――明確な殺意に変わっていた。


 


 「言葉で飾った“処理”など通じぬと、身をもって学ぶがいい。――王の裁きをな」



──────

 

魔王城・中央食堂。

 貴族用の特別席に、座る堕天使が一人。


 

 「……ふぅ。今日のダスクウィングの黒揚げ、香りは及第点ですけれど、皮が甘すぎますわね」


 


 品のいい口調でそう呟きながら、二十人前の食事を片っ端から片づけていた。


 


 皿が鳴るたびに、周囲の魔族たちが視線をそらす。

 だが当の本人はまったく気にした様子もなく、淡々と箸を進め続ける。


 


 「……堕天使、話がある」


 


 そこに、背後から声がかかる。

 ――魔王マンタティクスが現れた。


 


「“堕天使”とはまた失礼な呼び方ですね。ええ、事実ではありますけれども……あ、それソースかけないでくださいまし。味の調整が崩れますので」


「これから先、天使との戦いは避けられん。そこで――」


「……前置きは結構です。魔族が天使に勝てる確率は、限りなくゼロですわ」


「なぜだ」


「……」


「それより、随分と雰囲気が変わりましたね。以前は今ほどの威圧感もなければ、王者の器も感じませんでしたが?」


「演じているだけだ。我が想像する“王”をな。――この街で生き延びるためには必要だったというだけの話だ」


「ご苦労なことです。元は犯罪者の吹き溜まり、このアルカディアを一つの国家に仕立て上げたのですから。弱者が搾取される構造を、力で捻じ伏せる――実に魔王らしい」


「……我が来歴などどうでもよい。天使に勝てぬ理由を述べよ」


「話す義務はございませんわ」


「この食堂は我が城の一部だ。その意味、理解しているだろうな?」


「なっ……!? 脅しのつもりですか?下衆な真似を……王の名が聞いて呆れますわ」


「貴様は今や天使ではなく“堕天使”。立場が変われば、我らと同じ穴の狢だ」


「……ひとつ忠告しておきます。今この国が維持されているのは、貴方の“相棒”のおかげですわよ?」


「それは認識している」


「……」


「……」


「……魔族の始まりをご存じですか? 我々は、魔神様によって“創られた”存在です」


「……」


「驚かないのですね?」


「御伽噺が現実になっただけだ。覚悟はとっくにできている」


「さすがです。愚かな反応を見せないのは、僅かに評価できますわ」


「続けろ」


「魔神様は、魔族を管理するために秩序を創り、そのための上位存在――“天使”を創出しました」


「天使は、名前を持たぬ。世界のルールそのもの。唯一、魔神様の“加護”を受ける存在です」


「加護……?」


「ええ、“絶対防御”とでも申しましょうか。

 それは恐怖と魅了で魔族の戦意を奪い、あらゆる攻撃を無力化します。魔法も、武器も――」


「なるほど。理解はできる」


「だからこそ、直接の対決は避け、人間に託すのが最良でしたのよ。人間にはその“気力抑制”が働かない。あの二人なら、まだ道があったはず」


「ハルカとエスは客人だ。彼らの選択を縛る筋合いはない」


「でしたら、せめて“任せる”という選択肢もあったでしょう。――あなたの相棒に」


「それはできん」


「なぜ?」


「それは……」


「ふふ。己の“成長”を見せたい、と?」


「……」


「可愛らしい動機ですこと。まさに“王”の中でも類を見ない、自己陶酔型」


「……」


「ほんとうに、あなたは魔王ですわ」


「どういう意味だ」


「己の欲求を通すために、国を、民を、仲間を危険に晒す。そんなの、どの国の魔王も同じですわ。己のために動き、己のために滅ぶ」


「……」


「けれど、貴方は……」


「――黙れ。戦うのは我だ」


「傲慢ですわね」


「傲慢だと? ならば聞け、堕天使。貴様の理屈では、天使は魔族への対抗策として創られた。ならば我が相棒――ネバーさんの存在が魔神に察知されれば、“それ”に対抗する新たな天使を創りかねん」


「……」


「そうなれば、我らに残された道は一つもなくなる。――だから、我が前に出る」


「……理屈としては成立してますわね」


「それで、どうすればよい?」


「…………」


(ルシ、無言で漆黒の羽を差し出す)


「なんだ、これは?」


「私の羽。変異した天使の証。――それは“堕ちた者”の力。

 一度きり、あなたの異能でそれを使いなさい」


 







 「……きっとそれが、神の導きですから」








──────



 黒の王剣が風を切り裂き、轟音と共に振り下ろされた。


 天使はその一撃をかわすでもなく、ゆっくりと空中で後退する。


 


 「まったく、物騒なお方ですわ。

  そんなに“処理”されたいのでしょうか?」


 


 揶揄するようなその声に、マンタティクスは笑みすら浮かべる。


 


 「戯れ言はそこまでにしておけ」


 


 天使の指先から、連なるように矢が放たれる。

 音より早く、空を切り裂く光の矢が王の胸を狙う――


 


 だが王剣はそれらを軽く弾き、火花と風圧を撒き散らした。


 


 「そんな矢では我を貫けん」


 


 「ええ、知っていますとも。ですが、矢の目的は“貫くこと”ではなく、“流れを作ること”です」


 


 次の瞬間、天使が速度を上げ、死角から切り込んでくる。


 まるで舞うような身のこなし、鋭く放たれた踵落とし。


 


 マンタティクスは王剣で受け止め、そのまま地を滑らせる。


 地面が削れ、衝撃で土煙が巻き上がる。


 


 「ふん……この王に近づけたことを褒めてやろう」


 


 「それは光栄ですわ。もっとも、貴方が“王”を名乗れる時間も、もうわずかでしょうけれど」


 


 その言葉に、マンタティクスの口元が吊り上がる。


 


 「……なるほど。やはり貴様、己が“敗れる”など微塵も考えていないな?」


 


 「当然ですわ。私たちは魔神様の意志そのもの。

  魔族に“勝利が保証された存在”……そう在るように設計された者です」


 


 マンタティクスの足が止まる。


 剣先が、地面を向いた。


 天使が眉をひそめる。


 


 「……?」


 


 「では教えてやろう。“設計”された者が、どれほど愚かかをな」


 


 瞬間、王剣が唸りを上げる。


 剣に纏うは、淡く黒い光――それは、確かに“異なる”ものだった。


 


 「何を……その力……」


 


 「これは、貴様ら天使の羽より削ぎ落とした一枚より、我が“創った”刃だ。

  堕ちた天使――“ルシ”のな」


 


 目を見開く天使。


 それが何を意味するか、瞬時に理解してしまったからこそ――動けなかった。


 


 「……っ――」


 


 次の瞬間。

 王剣が一閃。


 


 斬撃音すら聞こえなかった。

 ただ、空気が切り裂かれる音と、僅かな風の流れが通っただけだった。


 


 そして。


 


 天使の身体が――肩口から、真っ二つに裂ける。


 


 血は流れない。

 加護ごと両断された肉体は、静かに崩れ落ちる。


 


 「嘘……だ……」


 


 かすれる声を最後に、天使の目から光が消えどしゃりと2つが倒れた。


 


 マンタティクスは剣を肩に担ぎ、静かに呟く。


 





 「貴様が信じた平和も正義も――この王の前では、ただの幻想に過ぎん」


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