黒き雨、赤き空、そして沈まぬ獣の瞳
結界は青白い光を瞬かせ、異音と共に軋みを上げる。
だが、それを知っていてなお――
魔翼種の一団は、退かなかった。
翼を焦がし、体を裂かれ、それでも進む。
あらゆる術式の逆流を喰らいながら、執念のように障壁へと突撃する。
――そして、破られた。
「これは最後の通告だったのだがな」
マンタティクスは魔力障壁の硬さを調整していた。
確認の為……自らの命を削りながらも自分達を敵と認識されているという。
「貴様らの命は、我が要塞にて潰えよ。俺は与えた、最後の慈悲をな。ならば次に授けるは――“絶対なる死”のみ」
わずかに空気が歪む感覚とともに、魔翼種たちの動きが、一様に鈍る。
「足が……重い!?」
「ぐな??!」
気が付けばアルカディアの頭上に大きな魔法陣が展開されていた。
その魔法は重力を局所的にかける魔法__
魔翼種は空中戦にこそ真価を発揮する存在。
だが、地上に足をつけた瞬間、その機動力は一段落ちる。
その影響で魔翼種の空中機能は著しく低下。
急な重力に翼の筋肉にも無理な負荷がかかり、再飛行は困難な状況に追い込まれていた。
その隙を突いて、アルカディア兵たちが一斉に突撃する。
「ここだああああッ!」
両手斧を振り抜いた斬撃が、地面に押しつけられた頭蓋を砕く。
魔術士部隊が詠唱を終えると、爆裂魔法の炎柱が次々と敵を焼き払う。
「囲め! 再浮上させるな!」
重力結界によって地面に縫い止められた敵を、地上部隊が的確に分断して叩いていく。
短時間とはいえ、アルカディア要塞の魔法が完璧に決まり、戦況はこちらに大きく傾いた。
だが戦場の上空から、またしても異質な気配が落ちてきた。
今度は、どこからともなく現れた魔唱型。遠距離からの魔法支援に特化した、後衛型の魔翼種だ。
黒紫に染まった魔法陣が、地上部隊の頭上にいくつも浮かび上がる。
魔唱型たちが編み上げたそれは、ただの魔法ではない。敵を蝕み、戦意を奪う“闇の雨”
「うわっ、何だこれ……皮膚が……焼けるっ……!」
次々と悲鳴が上がり、優勢だった戦線が崩れていく――。
そのときだった。
ズガァァンッ!!
雷鳴のような音と共に、大地が揺れる。
現れたのは、六本の腕に全身を武装した魔族の男――ムギニ。
「アルカディアの幹部の登場だぜ」
彼は背中に装着していた巨大な円状の刃――超大型ブーメランをゆっくりと構え、両手で持ち上げる。
魔力がブーメランに集束し、淡い光を帯びる。
次の瞬間――ムギニが咆哮と共に投げた。
「飛んでるだけで偉くなった気になるなァ!!」
轟音を立てて放たれたブーメランは、空中の魔唱型たちを次々に薙ぎ払っていく。
軌道は湾曲し、雷撃のようなスピードで弧を描きながら、飛行隊形を崩壊させていった。
翼が斬り落とされ、空中から黒い影が何体も落下していく。
「よしこいた!戻ってこい!」
その手にブーメランが自動で戻る。ムギニは片手で受け止め、もう片方の手で槌を持ち替える。
「さて……地上の始末も、してやろうか!」
その姿は、まさに“全身兵器”だった。




