【ルシ】
デスフェニックス討伐から数日が経過し、アルカディアの街は復旧作業に追われていた。街全体が焦げた匂いを残しながらも、住民たちは一致団結して復興を進めている。
魔王マンタティクスも率先して復旧作業に参加し、傷ついた建物の修復や防壁の再構築を指揮していた。その姿は民衆の士気を高め、彼への信頼と尊敬をさらに強固なものにしていた。
一方で、ネバーもその圧倒的な力と魔力を駆使して街の再建を助けていた。瓦礫を片付ける力仕事から、膨大な魔力を必要とする防御壁の再構築まで、黙々と作業を続けている。
そんな中、ネバーの耳に装着された通信機が小さく震えた。
{ネバー、聞こえる?}
ハルカの声だ。
「どうした?」
{えっと……ちょっと食堂に来てほしいの。少し、いや、かなり変なことが起きてるの……}
「分かった。すぐ行く」
ネバーは工具を片付け、ハルカの声に従って食堂へ向かった。
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広々とした食堂には、いつもは復興作業を終えた魔族たちが集まり、食事を楽しむ活気ある声が響いていた。
しかし、今日は静かだ。
その原因は食堂の片隅である異様な光景が原因だろう。
背中を向けて座る一人の女性。その姿が異質だった。黒を基調とした露出の多い衣装を身にまとい、背中には漆黒の片翼だけが静かに揺れている。彼女は他の誰とも違う雰囲気を醸し出し、食堂全体が彼女の存在に圧倒されているようだった。
彼女はがつがつと皿の上の料理を食べ進めている。
ハルカが近くに駆け寄り、小声で説明する。
「あの人……あれ、天使だよね?」
ネバーはじっとその背中を見つめた。確かに、背中にある翼は天使だ……だが色も違うし片方しかない。
「たぶん……そうだと思うが……」
ネバーは警戒を解かずに隅々まで観察するが今までの天使の様な威圧感などがまったくない。
食事を終えた彼女は、ゆっくりとナプキンで口元を拭き取り、上品に立ち上がった。その動作はどこまでも洗練されていて、気品を感じさせる。
そして、周囲の視線を一身に浴びながら、彼女はゆっくりと振り返った。
黒い片翼を広げ、柔らかい微笑みを浮かべながら、その口を開いた。
「初めましての方は初めまして……私は“元”天使、今の名前は【ルシ】です。以後お見知り置きを」
彼女の言葉が食堂全体に響き渡ると、場の空気は一瞬で張り詰めた。
その瞳には何か得体の知れない輝きが宿っていた。
深く、深く。
深淵の黒い何かが__




