ザ・告白2(終) このあと、いっしょに帰りたい
明らかに平均以上の存在感を誇る、柔らかいものが二つ、思いっきり背中に押しつけられている。 これが平静でいられるものかっ。
「どうしたんだ、深みょり!」
痛い痛いっ、狼狽のあまり舌噛んだっ。
「本気なのね?」
ようやく深森が尋ねてきたが、その声が少し震えている。
「だから、本気じゃなきゃ、教室で絶叫しようなんて思わないって」
「……昔のこと、思い出してくれたの?」
「えっ」
なんだそれ!? 初耳だぞ。
昔ってどれくらい前だ? 俺が深森と最初に会ったのは、この学校の入学式の時だったはず。
「記憶が蘇ったから、わたしに目を留めてくれたんじゃないの?」
深森の声がやや落胆する。
「あ、ごめん。なんの記憶かわからない。俺と深森が初めて会ったのって、入学式の時じゃないのか?」
「ううん……違うわ。でも、いいの」
はぁああ、と切なそうなため息が聞こえた。
「初対面の時のことは忘れていても、わたしなんかに興味持ってくれただけで嬉しい」
「じゃあ告白成功?」
俺が緊張して尋ねると、深森は手でそっと俺の腕に触れ、自分の方を向くように誘導した。
女子にしては高身長なので、向き合って立つと、さほど目の位置が変わらない気がする。
しかもこの子、しばらく潤んだ瞳で俺を見つめていたかと思うと、いきなりとんでもないことをした。
それこそ、俺が生涯、二度と忘れられないようなことを。
……つまり、軽く背伸びして俺の首筋に両手を回すと、自ら口付けしたのだ。
十秒くらいの間だったと思うが、俺にはおそろしく長い時間のように思えた。やがてそっと唇を離すと、彼女はこれまで見たことのないような、優しい微笑を広げた。
「わたしの方こそ、片岡君がずっと昔から好きでした」
それは……本来、十年後に届いたビデオメッセージと、ほぼ同じ内容であり、聞いた俺は一瞬、背中がぞくっとした。
と、とにかくだ……キス付きで、告白ミッションは成功したらしい。
俺は茹だった頭でそう考えていた。
当然ながら、これでハッピーエンドに変わるよな、運命は!?
この時点で俺は、告白ミッションが深森にとってよい方へ働くのかどうか、自信がなかった。
しかし、旧校舎を出るまでは、深森は自ら俺と腕を組んできたりして、ひどく積極的だった。少なくとも、嫌々告白を受けてくれたわけではないのだけは、確かだ。
ただ、どういうわけか2ーBの教室へ戻る前には、俺と腕を組むのをやめてしまったけど。
やはり、恥ずかしいんだろうなと、俺は常識の範囲内で勝手に納得したが……それは、俺がまだあまり彼女のことをわかってないが故の、大いなる誤解だった。
なんでもそうだが、本当に大事なことは、いつだって手遅れなほど後になってから気付くのだ。二十七年生きてきて、そんなことはもうとっくに悟っていたはずなんだが。
……とはいえ、くどいがこの時点の俺は、自分が一山乗り越えた気がしていた。
昼ご飯は食べ損ねたものの、それすらさして気にしてなかったほどだ。
席に戻る時も、自然と俺の方が先になり、なぜか深森はワンテンポ遅れて教室へ入ったので、休み時間に俺達がなにをしていたのか知る者もいない。
冷やかされる心配もないし、幸運だったと言えるだろう。
とにかく俺は、その手のことで騒がれるのが、苦手なので。……とはいえ、告白なんて真似は、今までしたことなかったけど。
気が抜けたせいで、午後の授業は半分居眠りしかけていたが、なぜか俺は、深森が後ろの席で、じっと見つめている気がしてならなかった。
決して気のせいではない証拠に、放課後前の最後の授業の途中、半ば寝落ちしそうになっていた俺は、ふいに背中に手が触れるのを感じ、シャキッと目が覚めた。
振り向こうかと思ったが、教師の目が気になり、我慢した。
すると、深森の指がすすっと俺の背中をなぞり、なにか字を描くのがわかった。
神経を尖らせて読み取ろうとした。
多分だが、なんとかわかった。あえて、わかりやすいようにひらがなをたくさん使った、次のようなメッセージだと思う。
『そのままで』(一拍置き)『おきた? ねむってしまわないようにね。あの先生、うるさいから』
ああ、そういうことか……俺は感謝の印に、振り向かずにそっと低頭した。これで通じるだろうと思って。
多分、通じたとは思うが、なぜか深森の指は背中から離れなかった。
しばらくして、またゆっくりと動き出す。
『このあと、いっしょに帰りたい……あいしているわ』
なんとなく、体温が一気に上がった気がする。
それを最後にようやく深森の指が離れたが、俺は結局、その後の授業内容が全然頭に入らなかった。
今現在、もっとも読まれているのは本作でしょうから、とりあえずここで。
あけまして、おめでとうございます。
幸先よく、本作はジャンルランキングに入っているようです。
皆さん、ありがとうございます。
いつもまとめお礼で申し訳ないですが、感想などくださった方達にも感謝します。
引き続き、よろしくお願いします。




