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シュン君と一緒に……最後まで


 俺達が座り込んで抱き合ったまま、しばらく動かなかったのは、別に余裕があったからではない。


 全く逆で、休まないと立つのも容易ではなかったからだ。

 その間に俺は、だいたいの事情をざっと話し、自分が本当は疲れ切ったサラリーマンであることを白状した。

 そこだけは話してなかったような。


 でも……どうやら小学生の深森が、先にそのことを彼女に教えていたらしい。

 深森自身は驚く気配もなかったな。


「たとえ中身がおじいさんでも、シュン君が好き」


 笑顔でそう言っただけだ。

 ……この子の言葉は常に短いのに、いつも俺を絶句させてくれる。


「まだ、中身もじーさんじゃないよっ」


 それでも、反論はしたけどな。

 しかし、しばらくして展望フロアに上がってきたカグヤは、明らかに誤解していたようだった。


「ひ、人がようやくここまでたどり着いたっていうのに、なにイチャイチャしてんのよおっ」





「おっと」


 いきなり階段から上がってきた彼女を見て、俺はようやくこいつのことを思い出した。


「いや、今まで結構修羅場だったんだよ……深森も撃たれてたし」

「え、ホント?」


 さすがに慌ててカグヤが見に来た。


「大丈夫、もう傷は塞いだ。今の俺は、深森の能力持ちだからな……別に俺の手柄じゃないけど――わあっ」


 思わず声が出たのは、大人しく抱きついていた深森が、そこでなぜか俺の頬に口づけしたからだ。いきなりなにをするんだ、なにを。


「な、なに?」

「……否定の代わりに」


 間近で艶然と微笑む深森は、もうなんというか、いろいろ男を駄目にする波動を放っていた。だいたい、眼下に見える破れまくりのセーラー服がヤバい。


 純白のブラがほぼ半分以上見えてるし。


「はああああ」


 俺達を見て、ようやく呼吸を整えたカグヤは、深々とため息をついた。


「それで、あの小さい子は?」

「……怪我してたけど、転移したらしい」


 俺が渋面で答えると、察してくれたのか、カグヤはそれ以上追求しなかった。


「ま、まあ……ここまでがんばったから、休憩させてあげたいけどね。悪いけど、今は都庁の周囲を見た方がいいと思うわ」

「……どれ?」


 だいたい予想はついたけど、俺は深森をそっと押しやり、思い切って立ち上がった。用心深く全部割れた窓のそばに近寄り、外――というよりも、下を見下ろす。


「うわぁ」


 うんざりして声が出た。

 笑えるほどたくさんのパトカーと、あと機動隊の車両らしき、窓に金網みたいなのがついてる灰色の大型車が、ごっそり見えた。


 軍隊でも相手にするような数であり、普通は有り得ない。


「ね、逃げるのが大変でしょ?」


 わざと軽い口調で言ったが、さすがのカグヤも深刻そうな表情だった。

 無理もないだろう。


 おまけに、微かにノイズの音がして、全館放送みたいなのが聞こえた。



『都庁内に立てこもるボーダー諸君。……外に漏れる心配はないからあっさり言うが、むしろ君達はよくやってくれた。なにしろ、この事件をきっけに、日本でもボーダーに対する見方を大いに変えるだろう。ようやく、我が国も世界にならうことになる、とも言えるがね』



 カグヤだけはなにやらスマホを弄っていたが、特に誰もなにも言わず、さらに放送は続いた。



『予想以上に大きな力を持つ者もいたようだが、せいぜい数名だろう? あとは木っ端に等しい雑魚に過ぎない。よく、罠にかかってくれた。今更どんな抵抗も無意味だが、型どおりに教えておく。……十五分待って両手を上げて出てこなければ、全員が都庁内に突入する。死にたくなければ考えることだな』



 言いたいだけ言って、放送はブツッと切れた。


「雑魚って、あたしのことかしらっ」


 むっとした顔でカグヤが口にした。


「こそっと放送入れたみたいだけど、そうはいかないわよ。今の放送内容、スマホで録音しちゃいましたかねっ」


 よほど腹が立ったのか、地団駄まで踏んでいた。


「なかなか抜け目ないなぁ。なあ、カグヤはどうする?」

「……え?」


 不思議そうに俺を見たので、意見してやった。


「大前提として、俺も深森も降伏なんかしない」


 うんうんと深森が頷く。

 いつのまにか、俺と腕を組んでいた。


「とはいえ、俺達が残ると、どうも家族やら級友やらに迷惑がかかるようだしな。だから、まだ頭がふらつくけど、最後の力を振り絞って、転移するつもりだ」


「世界を渡る……ということ?」

「そう」


 俺はなるべく軽く頷いた。


「宇宙大に広がる、あみだくじを試すという意味でもあるね。……そんな賭けに出たくないけど、ここにいられないなら、他に方法もない。……深森?」


 一応、意見を尋ねるつもりで深森を見たが、彼女は静かに頷いた。


「シュン君と一緒に……最後まで」


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