あの子との再会
ちなみに、エントランスはガラス張りの自動ドアだったが、そこは無残に砕けていて、床にはバイクが転がっていた。
……これ、もしかしなくても深森のか?
二人乗りで突入したんだろうか……無茶するよな、あいつらっ。
「おまえ、そこで止まれっ」
ちょっと考えている隙にまた怒鳴られた。今度は奥のエレベーターホールからバラバラ走ってきた数名ほどで、こっちは警官じゃなくてガードマンのようだ。
どのみち俺の敵なので、同じことだが。
しかし、怒鳴れたショックか、俺はさっきみたいに吹っ飛ばしたりせず、むしろ自分が階段の方へ走り、駆け上った。
俺が元いた世界の都庁では、エントランスのこの位置に階段なんか無かった気がするんだが、そこは気にしてもしょうがない。
下手にエレベーターに乗ったら上がってくるのが一目瞭然だし、まだ階段の方がマシだろう。
「ま、待て……こらっ」
「ためにならんぞっ」
下の方で罵声が聞こえたが、幸い、中年さん以上の人達なので、俺ほど軽快に上がれないらしい。
どこのフロアに紛れ込むかわかるわけないし、これなら余裕で逃げ切れるだろう。
……などと考えて階段を選んだ俺は、ものの十分もしないうちに後悔していた。
僕の知る都庁もかなり馬鹿高い建物だが、似て非なるものとはいえ、ここだって相当な高さだったのだ。むしろ、外から見た感じだと、ここの方が高層ビルだったような。
さらに言えば、今現在、深森が何階にいるのか、さっぱりわからない。
「ち、畜生……はあはあ……やっぱりエレベーターに――」
泣き言を洩らしかけた途端、二つ三つ上の階から、声が聞こえた。
「投降しろおっ」
「子供のくせに、粘るな!」
「もう、息切れしてるじゃないかっ」
僕のことかっとぞっとして周囲を見渡したが、少なくとも階段の前後に人影はない。どうやら別人らしい。
ただ、「うるさいわっ」と気丈な声が微かにして、相手の見当はついた。
「ぶ、無事だったか!」
俺はまた気合いを入れて階段を駆けた。緊張したせいか、今度は思いのほか疲れを感じず、そのまま三つ上の階まで一気に上りきる。
フロアに出る前に、そっと角から覗き込んだ途端、警官隊の群れが見えた。
前方に椅子やら机やらが積み上がっていて、その後ろで徹底抗戦を続ける子がいるらしい。
「やむを得んっ」
ヘルメット装備の誰かが叫んだ。
「全員、銃を構えろっ」
(うわ、マジで撃つ気かっ)
とはいえ、当たらなかっただけで、俺だって既に撃たれているのだ。
「なら、遠慮することもないよなっ」
「な、なんだっ」
「仲間かっ」
いきなり叫んで飛び出したせいか、全員がぎょっとしたように振り返った。
くそっ、こいつらも二桁以上いるぞ。
「暇なのかよ、警官さんはっ」
一喝すると同時に、俺は心の鍵を外し、能力を開放した。
「――っ!」
感覚を取り戻してきたためか、今まで一番、派手な結果になった。
ここの廊下はかなり広かったんだが、銃を抜こうとしていた彼らは左右の壁はおろか、天井にまで吹っ飛ばされて叩き付けられ、それぞれワックスが利いた廊下に落ちた。
話すどころか、まだ意識がある者も、呻くのが精一杯らしい。
俺は素早く駆け寄って、誰かの無線機を拝借した。
それと、さすがに今度は都合よく銃だけ転がってなかったので、気絶した中の数名を選んで、ベルトごとPKで引き千切って入手する。
段々大胆になる自分が怖いが……背後から撃たれたくらいだし、当然だろう。
そこでようやく、様子を窺っていたカグヤが声を上げた。
「――片岡さん!」
「生きててなによりだ、カグヤ」
月の姫と書いてカグヤと読む、友人の妹である。藤原月姫が本名だったか。
まさか、こんな場所で再会しようとは……しかも、制服姿のままだし。
「本当に捕まってたとは思わなかったけど」
「つ、捕まる前だしっ」
駆け寄って即席バリケードを越えようとする俺に、カグヤが言い訳する。
「移送される予定はあったけど、まだ任意同行で事情を訊かれてただけっ」
「なら、笑顔で投降するか?」
「冗談言わないで!?」
即答だった。
「向こうは、あたしがボロを出すのを待ってただけよっ」
「ほれ見ろ。それより、深森達はどうしたっ? 友人の藤原と俺の母親もっ」
俺は急いで尋ねた。
「ここにいたんだよな? まだ無事だと言ってくれ! 早くっ」
「あ、あたし達を助けてくれた時は、まだ無事だったけど――」
カグヤが言いかけた途端、遠くからまた銃声が聞こえた……それも今度は連続で、何度も。




