ザ・告白1 俺の生き恥ごときは、問題じゃないっ
なぜ、俺的に「一世一代のイベント」を旧校舎の音楽室としたかというと、あそこは、この時間には誰もいないのがはっきりしているし、それに旧校舎は生徒の数も少ないからだ。
今からやらかそうとしていることは、断じて人目があるような場所で出来ることじゃない。て、よく考えたら下足箱に手紙入れるという古風な方法もあったような気がするが、それだと明日になるからな。
振り向くと、深森は数メートルほどの距離を置いて、確実についてくる。
普通、こんな風に旧校舎へ連れて行こうとしている男に、ホイホイ着いていこうとする女子はいないと思うが、深森は特に警戒している様子はない。
ただ、微かに困惑しているように見える。
およそ五分をかけて旧校舎の三階まで辿り着いた時、俺の緊張感はレッドゾーンを振り切っていた。
二人して音楽室に入る頃には、足が震えそうになっていたほどだ。
今から俺は深森に「ザ・告白」するつもりなのだが、あいにくそういう経験は初めてである。
こんな、寿命が縮むイベントは避けたい気持ちもあるが……惹かれていたのは紛れもない事実だし、あんな動画を見せられた後じゃ、深森に死んでほしくないに決まっている。
何度も心中で繰り返した葛藤を振り切り、俺はピアノの前で深森と相対した。
向こうは全然、平気そうなのがたまらん……ホントにこの子、俺に気があるのか?
「あー、こほん」
わざとらしく咳払いして、俺は切り出した。
「……アレだよな、この学校って男子はブレザーなのに、女子はセーラー服って、絶対妙だよな!」
――場が静まり返った。
痛すぎる沈黙の後、眉根を寄せた深森が、「……えっ?」と声に出した。
むちゃくちゃ不審顔で、いきなり俺が卑猥なセリフでも吐いたかのような、表情に見えた。
俺は速攻で、死にたくなった! 軽く世間話から入ろうとしたのは、どうも失敗だったようだ。いきなり外したじゃないか、くそっ。
頬が熱くなった俺は、もう余計なことは考えないことにした。
「ごめん、用件を言うよ」
「そうして」
即答されて、また俺は気後れしたが、『深森を助けろ深森を助けろっ』と心中で連呼し、一気に話した。
「あのさ、深森さえよければ……俺と付き合ってほしいんだ」
よし、言った! 俺はなけなしの根性を出して、ついに言ったぞっ。
これで深森にも変化が――あ~……なかった。
不審顔は消えて驚き顔にはなったが、でも感激した表情など皆無である。
むしろ軽蔑の目つきで俺を見てくれた。
「あなたは違うと思ったのに……やっぱり、わたしをからかうの?」
「ええっ!?」
なんだよ、その言いがかりはっ。
「それは……心外だな? 俺、そんな奴に見えるのか?」
少々むっとして言うと、深森の怒りが少し薄れたように見えた。代わりに、ひどく困惑した表情になっている。
信じたいけど信じられない……そんな風に見えたのは、俺の傲慢だろうか?
しかし、俺が昨夜見たビデオレター的な映像が本当なら、この子は十日後に自殺してしまうのだ。もし本気で救いたいなら、俺はなにがなんでも彼女の「死にたい気持ち」を緩和させてやらないといけない。
本当はどうして自殺なんかする気になったのか、俺にもわからないってのに。
「わかった」
重い雰囲気の中、俺は宣言した。
腹をくくったのだ。
「そこまで信用できないなら、俺は今から教室に戻って、『たった今、深森雪乃に告白したぞおっ』と大絶叫してくる。これならどうだ! からかうために、そこまで痛いことする奴もいないだろ?」
「……まさか、本気?」
疑わしそうではあるが、またやや表情が和らぐ。
どこまで疑り深いんだと思うが、こうなりゃヤケだ。本当に実行してやるさっ。
この子の命がかかってるからな! 俺の生き恥ごときは、問題じゃないっ。
「よし、後で学校中に噂が広がるかもしれないけど、俺は責任とらないからな!」
訳のわからない脅し文句を吐き、俺は回れ右をする。
決心が鈍らないうちにせかせか歩き、スライドドアに手を掛ける。
まさにその瞬間――
背後から軽やかな駆け足がしたかと思うと、どんっと深森がぶつかってきた。
「ちょ、ちょっと」
しかもぶつかるだけではなく、背後から俺の身体を全力で抱き締めていて、正直、三割くらい魂が抜けた。




