二人目の深森雪乃
しかも、この混乱している状況で、玄関のチャイムが鳴った。
ここはうちじゃなくて深森の部屋だが、それでも例の黒服男達かと、俺は一瞬、緊張した。
しかし、深森は平然と玄関へと移動し、あたかも誰が外にいるのかわかっているような様子でドアを開けた。
「……早かったのね」
「だ、誰に声かけてるんだい?」
なぜか深森が邪魔になって見えなかったので、俺はそっと尋ねる。
すると、深森が今気付いたように自ら脇に避け、相手を見せてくれた。
「――うわっ。本当に来た!」
深森はなぜか、予想していたみたいに自然体だったが、俺はそうはいかない。
驚いた、驚いたとも!
いや、もちろん呼び出すつもりで自分の部屋の窓に×印を付けたのだが、まさかこんなに早く、しかもうちじゃなくて、下の階の深森宅に来るとは。
俺が驚いたって当然じゃないだろうか。
つまり……訪ねて来たのは、(映像の中とはいえ)コトの最初から俺が出会っていた、小学生くらいのあの少女だったのだ!
タイムリープしてからも何度かこのマンションのポストに、謎の警告文を入れてくれた子である。
どういう理由があるのか、今日はドレスアップしてて、子供用とはいえドレスまで着用していた。多分、ゴスロリファッションで有名なブランドだと思うが、白いレース飾りがふんだんについた、濃紺のドレスである。
おかっぱ頭は前に見たそのままだが、この髪型って間近で実際に見ると、眉の上で切りそろえた、姫カットと同じなんだわな。
つまり……二人揃って並ぶと、類似点が多い。
今更そこに気付いてすっかり目を奪われていると、なぜかその子はパタパタ走ってきた。
「え、ええっ」
全然止まる勢いもなく、そのまま抱きつかれてしまう。
もちろん、深森と違って身長は低いので、せいぜい腰の辺りに頭が来ているけど。
「ど、どうしたのさ?」
出会ったら、こってり苦情を言ってやろうと思っていたのに、その肝心の少女が身を震わせて泣いているので、俺はすっかりドギマギして、逆に心配する始末である。
「なあ、君――」
「こんな時だけど」
やっと話したかと思うと、そこで女の子は声を詰まらせる。
しばらくして、ようやく最後まで口にした。
「逢えて……嬉しい……です」
感激した声でそんなことを言う。
今までだって、幾らでも顔を合わせる機会はあったろうに。
「……深森?」
困惑して顔を上げると、深森も静かに俺に歩み寄り……そして、少女に対抗するように、俺の背後に回り込んで抱きついてきた。
いや、なんで二人して抱きつくのかっ。
「どうしたんだよ、二人揃って」
二人の少女は、不思議と二人とも何も慌ててないし、事情がわかっているような様子なのだ。俺だけが、一人当惑しているような。
すると、深森が耳元に囁きかけてきた。
「この子の名前、わたしが教えてあげる」
「え、深森は知ってたのか!?」
振り向こうとすると、抱き締める腕にぎゅっと力が入り、止められた。
せ、背中に胸が当たって気になるんだが。
「知っているわ……多分、世界の誰よりも」
「名乗るのはわたしがっ」
肝心の本人が、深森の声を遮った。
俺の腰にしがみついたまま、泣き笑いの顔で笑う。
「再び逢えた……俊介君……わたし、深森雪乃です」
「……えっ」
驚きの声を洩らした途端、なぜか背後の腕が緩み、次の瞬間、深森が優しい手つきで俺の後頭部にそっと手を当てる。
途端に俺は、一瞬で意識が遠くなった。
一体これはどういう――
ヴァンパイア転生カフェ、「アヴァロン」へようこそ……という新作初めてます。
1話は既に終わっているので、お試しがてらどうぞ。




