あの子にコンタクトしてみたらどうかしら?
意表をついて早めに家を出たつもりだが、なんと雪乃はちゃんとマンションの前で待っていた。びしっとノリの利いたセーラー服着用で。
「は、早いね!」
「いつも、早めに待つことにしているの」
笑顔でそう言ってくれた。
別に一緒に登校しようって約束はしてないんだけど。
「いやぁ、でも俺、実は今日はサボってしまうかもしれない。連絡とれない友人の家に行ってみるつもりなんだ。なんだか嫌な予感がしてね」
「……わたしも行きます」
雪乃の表情が、一瞬緊張したような気がした。
それは置いて、こうなると連れて行くしかないな。俺が断っても、ついてくるだろうし。
藤原の家は、駅三つ向こうだが、早朝なのでまだ電車は空いていた。
たまたま座れたので、俺はさりげなく雪乃に囁いた。
「俺が子供の頃になにか忘れているって話、母親も保証してくれたよ。交通事故に遭ったんだってさ。……もしかして、その直前に雪乃となにか大事なやりとりをした?」
雪乃は横目で俺を見やり、ゆっくりと頷いた。
「でも、そのことはもう忘れて」
「……前に雪乃は、思い出して欲しそうな言い方をしたと思うけど?」
「ええ、以前は。でも、今は思い出して欲しくないの。シュン君にとっては、その方がいいと思う」
「そんなこと言われたら、余計に気になるって」
これはいよいよ、意地でも思い出すべきだ。
俺は内心でそう決心した。
目的の駅から藤原のマンションまでは、ごくごく近い。
俺は早速、何度か訪れた彼の部屋を訪ねたが――ドアノブの部分に電気会社の案内が吊ってあるのを見て、またもや胸騒ぎがした。
まさか、もうここにはいない!?
「冗談だろ……昨日の時点では、少なくとも学校には来てたのに」
未練がましく、チャイムを押してみたが、全然応答がない。
そのうち、雪乃が「シュン君!」と俺を呼んだ。
どうも、ドア横の窓に鍵がかかってなかったらしく、そっと開けてみたようだ。
促されるまま、俺もその窓から中を覗き……顔をしかめた。キッチンを含む二部屋が、ここから全部見渡せる。
空っぽだった……本当に、なにもかも、全部なかった。
家具はもちろん、ご丁寧に敷いていたカーペットまで。
呆然と立ち尽くしていると、俺達ががさがさやっていたせいか、隣のドアがそっと開いた。大学生らしき青年が顔を見せたので、ここぞとばかりに訊いた。
「あ、すいませんっ。この部屋に俺の友達が住んでたんですが……どこに行ったか知りません?」
「あ、ああ……藤原さんね?」
人の良さそうな彼は、雪乃をちらちら見ながら話してくれた。
「昨日の朝方だったかな?十時頃に引っ越し会社のトラックが来て、全部持って行ったよ。本人の姿は見なかったけど、一時間ちょっとで、もう全部作業が終わっていたね。やたらと急な引っ越しだった」
その時間帯だと、早退した藤原は帰宅してたはずだが。
「……藤原の立ち会いもナシで?」
「うん。そこは僕も不思議だったけど、全部任せるって引っ越しも、たまにあるだろうし」
「どこの引っ越し会社か、わかります?」
「……あっ」
俺の質問に対し、彼は今になって目を瞬いた。
「どうしました?」
「いや……僕はあくまで今みたいに様子を見にちょっと出てみた程度だけど……そういえば、彼らの制服、今まで見たことないタイプだった。トラックにも、特になんのマークも入ってなかったような」
……それ以上質問するのは無駄な気がして、俺は礼を言ってマンションを後にした。
「妹に加えて、藤原まで消えたぞっ」
駅へ向かう途中、俺は思わず愚痴った。
「なんなんだ、この世界はっ。俺達の元いた世界と、本当に大違いだなっ。関係ない兄貴まで拉致ったんだとしたら、魔女狩りよりひどいっ」
そこで思い出し、俺はカグヤが残した走り書きの地図と、電話番号を書いたメモを取り出す。
「この地図だとだいぶ遠い場所だけど、ここになにがあるか、向かってみるか。なにか事情がわかるかも」
「危険……じゃないかしら?」
また心配そうに雪乃が言う。
「だからって、友人が消えたまま、はいそうですかと引き下がれない」
俺がきっぱり言い切ったせいか、雪乃は思い切ったように口にした。
「あの子にコンタクトしてみたらどうかしら?」
「誰?」
「シュン君に手紙を送った子」
「……なるほど」
確かに、あの子なら、いろいろ知っているかも。
こちらでも、一度だけ告知を。
新作連載してます。
【連載版】転生した元魔王、女子率激高の「対異世界戦闘学園」にスカウトされる
↑がタイトルですが、例によって、ほぼタイトル通りの序盤です。




