表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/64

わたしは今、シュン君の下の階に住んでいるの


「わかるようでわからない。どういう意味かな?」


「つまり、兄貴の定義だと、世界には無数の可能性がある。その説明で言うなら、シュン君の頭にツノが生えた世界だって、可能性としては有り得るはずじゃない? そうでしょ?」

「シュン君はよせ」


 俺は顔をしかめ、沈黙している雪乃までカグヤを睨んだ。


「じゃあ、片岡さんで。とにかくよ、可能性としてはあるはずなのに、実際にはこの世界を全て探しても、別に片岡さんに限らず、頭にツノを生やした人なんて一千万に一人もいないはず……そうでしょ?」

「そりゃまあ……あ、そうか。だから『本質的に、世界は異質なものを嫌う』ってことか。異質な力を持つボーダーは、ツノの生えた人間に例えられる?」

「その通り!」


 またカグヤが、ぴっとストローで俺を指差す。



「仮に学校の同じクラスに、頭にツノがある子がいたとすれば、その子はまず、普通の生活は送れない。これは、こういう極端な例に限らないわ。ツノじゃなくても、普通のクラスメイトより、断然気の弱い子、あるいは気が強すぎる子、肉体的特徴で人より目立つ子……標準という枠を逸脱した存在は、全て爪弾きの対象に成り得る。当然、ボーダーなんて、その最たるものね。だからこそ、標準の中に収まらない人は世間から隠れようとするか……あるいは最初から存在し得ない。これが、可能性としては存在し得るのに、なぜか頭にツノが生えた人が、この世界で見当たらない理由よ」





「……世界は異質なものを嫌う、か。一つ目の人間しかいない国へ紛れ込んだ、普通の人間の話みたいだな」


「そう。だから当然ながら、ツノが生えた人間がいる世界も有り得るとはいえ、その場合、その世界は逆に『ツノが生えた人間しかいない』、という可能性が高いわけ。混在している世界も可能性としては否定しないけどね」


「よくわかった。しかし、それと時間を越える度に過去が変化していくことの、どこに繋がりが?」

「最初に言ったじゃない!」





 じれったそうにカグヤが唇を尖らせた途端、ふいに雪乃が発言した。


「能力者が元の世界で異質な存在である以上、世界そのものを越えれば、強制的に、自分によりふさわしい世界へと、ズレて漂着してしまう」


 一瞬、驚いた顔で冷静な雪乃を見たが、カグヤはどんっとばかりにテーブルを叩いた。


「そうっ、それが世界線を越えることの、本当の意味よ! タイムリープといえども、そこは変わらない。自分の意志とは関わりなく、より自分にふさわしい世界へと漂着地点がズレていく。そういうことじゃないかしらね」


 俺は説明の本質を掴めなくて頭を抱える思いだったが、よくよく考えて、ようやく理解しかけた……気がする。


「つまりなにか、今はこんな『能力者が弾圧する世界』に漂着しているけど、ループを繰り返して世界線を越えることで、しまいには周囲がツノの生えた奴ばかりの世界、つまりは『能力者が一般的な世界』へと至る――と」

「無事に、そんな何度も転移が成功すればね」


 醒めた顔でカグヤは突き放した。


「それに、今のはあくまで一つの例で、むしろSF作品でよくあるパターンは、世界を渡る瞬間に、その人が脳裏にあったことが反映される――という説が多いわね」

「ああ、それなら俺も読んだことがあるぞ」


 初めて知っている説に当たり、俺は大きく頷いた。


「かなり昔のSFだったけど、主人公が最後に自分にとって都合のよい世界を想像して、転移を果たすと……見事に、願望が充足された世界へ着いたっていう」

「うん、よくあるストーリーね。それが本当の真実だとは限らないけど、世界を渡る瞬間、術者が考えていたことが、全く無関係だとは思えないわね、あたしは。多少なりとも影響を及ぼしているはずよ」




「――あっ」

「なにか思い出した?」


 カグヤがすかさず訊く。


「いやその」


 俺が思わず声を上げたのは、宝くじの件を思い出したからだ。

 今回のタイムリープでは、以前雪乃にもらった宝くじの結果が出る前に、また過去へ戻って世界を渡ってしまった。


 しかし……実は俺は、「雪乃がくれた宝くじなら、もしや当たるかもな」と心の底で少し考えたかもしれない。それが、この世界にタイムリープした時に、過去に買った宝くじが当たっていたとして、事実として具現化したんじゃないだろうか。


 もちろん、買ったのは今回、雪乃じゃなかったとはいえ。

 俺の願望に近い世界が合致したわけだ。

 気付けば、カグヤに加えて雪乃までがじっと注目していて、俺は慌てて苦笑した。


「いや、もしかしたらそういう説もアリかなとちょっと思っただけ」

「そういえば」


 珍しく、ポツッと雪乃が呟いた。

 俺が無言で促すと、なぜか幸せそうに微笑む。


「いえ、なんでも。ただ、わたしは今、シュン君の下の階に住んでいるの」

「なんですと!?」


 さらりと言ってくれたが、それはかなり重要な情報じゃないかっ。

 そういや、前の世界じゃ引っ越す話をしてたな。


 しかし……まさかうちの下とはっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ