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本質的に、世界は異質なものを認めない


「今は確かに、超常能力を持つ者に厳しくて、ボーダーなんて呼び方さえされるほどだけど、そんな追っ手がかかるほど警戒されてるのか?」




「ボーダーって言葉であたし達をくくり始めたのは、世間じゃなくて政府が先でしょう? ということは、むしろ政府は表に出る以上にボーダーを警戒し、そしてできるなら厳重な監視対象にしたいわけよ」


 カグヤは真剣な表情で俺を見た。


「しかも、ボーダーの家族もまた、監視対象に含まれてしまう。多くのボーダーが自分の力を政府に知られたことで、そのまま行方をくらますのも、当然ね。家にいるだけで、家族に迷惑をかけるもの」

「……なるほど」


 俺としては、そう言うしかなかった。

 そこまでこの世界がひどい有様だとは思わなかったのだ。


「それに最近じゃ、民間の側でも、『ボーダーを放置するのは、自殺行為だっ』っていう狂信者じみた主張を掲げるグループができちゃって、どこから資金が出るのか知らないけど、あちこちに支部ができてるわね。そんな連中が、こぞって魔女狩りみたいなことをやってて、少しでもボーダーの疑いを持つと、政府の専門部署に通報したり、自分達でリンチにかけたりするの。まあ、これはあまり語られないだけで、普通ならもう知ってるでしょうけど」


 カグヤは重いため息をついた。


「多分、あんな組織がない頃にあの団体を知ったら、まず狂信者扱いされたはずだけど、今やすっかり見慣れてしまったわね、あの看板。最近、あちこちで見るし」

「いや看板て言われても――」


 もう知ってるどころか、せいぜいネットでボーダーの警戒を呼びかけるサイトが溢れているのを見た程度だが……いや、待てよ。


「もしかして、手のひらを広げたマークがある看板がそれか?」


 今朝、初めてこの世界で目覚めた時(おお、まだ今朝っ)、通学路に奇妙なマークがある看板を幾つか見た。前には見なかったもので、手のひらを開いたマークが大きく描かれていた。


「なにかの宗教かと思ったけど、あれが反ボーダー組織のマーク」

「まあ、そういうこと……手のひらを開いているのは、ボーダーの浸蝕を阻止って意味でしょうね。

ていうか、『平穏の会』のこと、今頃知ったの? いくらなんでも、世間知らずのレベルを超えていると思うけど」


 カグヤが益々訝しむように俺を見た。


「すまんな、この世界の初心者で」


 俺は、この瞬間に決意した。

 仮定の話でもいいから、眼前のカグヤに俺の――いや、俺達の立場を密かに教えようと思ったのだ。この世界じゃ、知識不足は即、危険に繋がりそうだ。

 少なくとも、深森……いや、雪乃がここじゃボーダーなのは、間違いないだろうし。




「なあ、今からする話は仮定の話で」


 俺が持ちかけた途端、腕に縋り付いたままだって雪乃が「シュン君っ」と声を上げた。


「なに?」

「……本当にいいの?」


 タイムリープやらループのことを覚えてなそうな言動の割に、妙な質問だった。

 まあ、俺は始めから、雪乃はわざと覚えてない振りをしていると確信してるけど。


「あくまで仮定の話だよ。参考に意見を訊きたいだけ。それに、カグヤは俺達を陥れる子じゃないさ」

「どっちかというと、あたしが世間に陥れられているのよっ」


 カグヤが途中で意見表明してくれた。


「わかったわかった、ならぜひこの仮定の話を聞いてくれ。最前線で戦うカグヤの意見を聞きたい。くどいが、あくまで仮定の話な」


 断りを入れた後、こいつの兄貴に話した時のように、重要なところはボカして、今までの経緯をだいたい説明してやった。


 もちろん、当事者が俺達だとは、冗談にも口にしなかったが。





「――俺は前に、カグヤの兄貴に『タイムリープで過去が変わることが有り得るのか?』と尋ねたら、あいつは、むしろ過去が変化しているのは当然、みたいな説明をしてくれた」


 俺はあみだくじの例を出し、『世界が無数に存在する以上、至るべきルートもまた無数にある』とほのめかしてくれた、藤原の話をしてやった。

 今から思えば、藤原はおそらく「むしろ、同一ルート上の過去に戻るのは不可能だ」と示唆したかったのだと思う。


 タイムリープで時間の壁を越えたからには、俺達は宇宙大に広がるあみだくじに放り込まれたも同然、という解釈だ。


「そこまでは理解したとしても、二度目にタイムリープを果たした時、こういう世界にいるというのは、どういうことなんだ? もう最初の世界と比べたら、全然違うといっても過言じゃない気がするんだが」


 俺が長い話を終えて質問すると、カグヤは目を細めて俺達を見比べた後、頷いた。なるほどねぇと。もはや仮定の話を真実だと受け止めている感じだが、その代わり、今までのふて腐れた態度はほぼ消えた気がする。


「兄貴らしい解答だけど、肝心な部分を考慮していないと思うわ」


 俺が無言で促すと、カグヤはさらりと語った。




「本質的に、世界は異質なものを認めないってこと……故に、世界を渡った能力者もまた、その原則に縛られることとなる」


 謎のセリフと共に、お茶目にウインクなどしてくれた。


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