シュン君の方が、愛情を込めて呼べそうだから……だめ?
中途半端な時間なので、ファミレス内は空いていた。
あと二時間もすれば、さすがに客も増えるだろうが、時間帯としてはよい時に来たと言えるだろう。
ボックス席に俺と深森、そして正面にカグヤという風に座り、俺達はそれぞれドリンクバーのみを注文した。
自分のコーヒーを一口飲んだところで、俺はまず軽く尋ねてみた。
「その白いブレザーの制服、どこの学校なんだ? 俺、見たことないんだけど」
「これ? これは隣町のお嬢様学校。ただし、あたしは店でそこと同じ制服を購入しただけで、本当はそこの生徒じゃないわ。あたしはただ、女子高生を演じてるだけ。本当は中三だしね」
……第一声から、なかなかパンチの効いた発言する奴である。
しかも、大人っぽい外見の割に、中三だったのか。
「つまり……何かから逃げてるわけか?」
ソーダ水を「ずごごっ」と一気に飲み干したカグヤは、用心深い目つきで頷いた。
「よくわかったわね?」
「そりゃまあ、人目を避けてる様子だしな。コスプレも、誰かの目をくらませるためかなと」
本当は、ループに入る前のこの子の怪しい行動も観ているからだが、そこまでは話さなかった。
「そういうこと。女子高生の格好してると、人混みに紛れ込みやすいし」
「いや、その制服だと目立つ――」
反論しかけた俺を、カグヤはすかさず遮った。
「制服の感想はいいけど、今度はあんた達の話を聞かせてよ。あたしだけだと不公平じゃない?」
「なにが知りたい?」
「あなたか……それとも彼女!」
カグヤは失礼にも、俺をストローで指し、そしてすぐに深森も同じく指した。
「そのどちらかが、最近、大規模な力を使ったでしょう!」
俺はとっさに返事ができず、ぐっと詰まった。
まさか、そんなピンポイントの質問が来るとは。深森も思うところがあるのか、顔色こそ変えなかったが、益々俺にくっついてきた。
「……なぜわかる?」
「教えてあげるから、返事は? イエスなの、ノーなの?」
「わかった」
降参の印に、俺は両手を上げた。
「イエスだよ。どんな力かはともかく、確かにその指摘は合ってる」
「そこを飛ばさないでよ。一体、どんな力なの? あたしみたいに、打撃を与えるような系統? それだと、PKに近いボーダー能力だけど」
「PK?」
「サイコキネシスの略で、PK。念動力のことなの……シュン君」
「……うっ」
俺は思わず深森を見た。
「さっきの提案だと、俊介君と呼ぶはずでは?」
「シュン君の方が、愛情を込めて呼べそうだから……だめ?」
せつなそうに囁かれ、俺は首を振った。
「い、いや……深森がいいなら、いいよ」
なにもユウと同じ呼び方にすることないと思うけど――と思った瞬間、深森に腕ごと引っ張られた。
「深森じゃなくて、雪乃」
「ああ、そうだった……ゆ、雪乃ね、うん」
訂正して目を瞬く。なんかやりにくい。
「あんた達、バカップル?」
「俺達のことはいいから、教えてくれ。最近、超能力だか、ボーダー能力とやらを使ったとして、どうしてそれを知っている?」
「正確には、あたしが知ったんじゃないわ。あたしを追ってきた一人を倒した時、そいつが持ってた手帳を奪ったの。その中に、貴方の名前があった」
カグヤは、とんでもないことを言ってくれた。
「片岡俊介……間違いなくそう書いてあったし、走り書きで住所もメモされてた。要調査と赤字も添えてあったりして」
――連中に目をつけられてるわね、とカグヤは真面目な顔で述べた。
連中って誰だよ? 突っ込みどころは多いが、俺はまず真っ先に尋ねた。
「追っ手を倒したそうだが、まさか殺してないよな?」
「殺したいのは山々だけど、そんなことすると、敵は総力を挙げてあたし一人を追ってくる。だから、貴方に浴びせたあのボーダー能力で気絶させただけ。その直後から家を出て、もうずっと逃げてるわ」
はああああ、とため息をつくカグヤである。
ちょっと疲れている様子でもあった。しかし、ループ前の世界では、確か藤原は今回ほど憔悴してなかったはずだ……少なくとも、初めて過去に戻った初日は。
「兄貴には言わずに逃げたのか?」
「元々、二週間やそこらはごまかせるはずだったの。あたしだけマンション借りて別に住んでいたし、学校には欠席届出しておいたし。今回はたまたま、運悪く逃走した直後に、兄貴がうちのマンションを訪ねたらしいわ。それで、あたしが残した置き手紙を読んじゃったみたい」
「それでか……またズレてるな、俺の知る世界そのものが」
「なんの話?」
きらりとカグヤの目が光ったが、俺は首を振った。
まだ全てを話す時ではないだろう。
カグヤの立場を、正確に理解するのが先だ。




