表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/64

兄貴が言うところの、本物のヤンデレを見ちゃったっ

 まさか本当にシャッターが開けられるとは思わなかったが、幸い、まだ想定の範囲内だった。


 というのも、開けた本人は、うちの学校の2ーDの生徒兼、俺の幼馴染み兼、この家の一人娘だからだ。


 河原優……それが彼女の名前である。

 高校に入学する前までは、気安く呼び合う仲だった。

 ユウは、ガレージに俺を含めて三人もいるのに驚いたな顔をしたが、もちろん俺を見つけた途端に、首を傾げた。





「シュン君……なにしてるの?」

「久しぶり、ユウ(優)」


 俺はなるたけ何気ない様子を作って、片手を上げた。


「いや、ちょっと内密の相談があって、たまたまここを使わせてもらった……はは、ごめん」


 栗色がかった髪をポニーテールに結んだユウに、自然な感じで答えたつもりだが、だいぶ無理があるのは自分でもわかっている。

 実際ユウは、藤原(妹)を見て眉根を寄せ、さらに深森を見て、はっと息を呑んだ。

 どうやら、一部で有名な深森の噂を、少なくとも多少は知っているらしい。


「大丈夫なんでしょうね?」


 何を勘違いしたいのか、鞄を置いて竹刀を袋ごと掴む。そういや剣道部では、だいぶ優秀な部員だと聞いた覚えがある。


「大丈夫だって! 俺達、仲良しなんでっ」


 なあ、とばかりに二人を振り向いたが、深森はなぜか衝撃を受けた顔でユウを見つめていて、知り合ったばかりの藤原は、「仲良し? 笑わしてくれるわね」と言わんばかりのしかめっ面で腕を組んだ。


 こ、こいつらっ。






「じゃ、じゃあそういうことで」


 やむなく、二人を引きずるようにしてガレージを出たが、歩き去る途中、声がかかった。


「シュン君!」

「……なに?」


 用心深く振り向くと、ユウが心配そうに見つめていた。


「しばらく疎遠だったけど、なにかあの時のこと思い出した?」


 なんだ、そのどこかで聞いた覚えのあるセリフ。そういえば、かーちゃんからも、似たようなこと言われた気がするな。それに、深森からもだ!


 質問したくてたまらなかったが、今はその時じゃない。俺は黙って首を振り、そのままそこを離れた。ユウの視線を背中に感じつつ。





「あの時のことってなによ?」


 歩き出した途端、藤原妹が早速、尋ねた。


「いや、全然記憶にない。だいたい俺ってこの世界に」


 ……来たばかりだしと言いかけ、慌てて言葉を飲み込んだ。


「ふーん……本当に怪しい人ね」

「怪しくないわいっ。いいから、大通りのファミレスまで行くぞ。そこで話を聞くっ」

「片岡君」

 並んで歩く深森が、そっと呼んだ。

「他に、よさげな場所ある?」


「いえ、それはどうでもいいの」


 唖然とするようなことを言って、俺を見つめた。





「あの人のこと……す、好きなの?」

「好きとか嫌いとかじゃなく、幼馴染みだし――」


 言いかけ、俺は首を振った。

 付き合いはまだ短いが、それでも、これじゃ深森に通じないのはわかる。


「今の俺は、深森が好きなんだよ!」


 ――だから、こんな有様になってるわけで! 

 そう突っ込みたかったけど、そっちは堪えた。別に深森が悪いわけじゃない。


「……嬉しい」


 深森の顔に笑顔が戻り、当たり前のように俺と腕を組んできた。


「あの……今後はわたしも、俊介君と呼んでいい? その代わり、わたしのことは雪乃って呼び捨てでいいから」

「ヤンデレだわ、兄貴が言うところの、本物のヤンデレを見ちゃったっ」


 かなり本気そうな声音で藤原が口を挟んだ。


「やかましい!」


 とっさに言い返した俺は、足を止めずに藤原を横目で睨んだ。

 他人はどうでもいいのか、深森――いや、雪乃は俺の腕にしがみついたままで無反応である。


「だいたいあんた、兄貴がだいぶ心配してた……と思うぞ。今日なんか、気分悪そうだから、俺が早退させたほどだ」

「……はあああ」


 途端に皮肉な笑顔が消え、藤原がため息をつく。


「いろいろあるのよ、うちも……というか、原因はあたしだけどね」

「ああ、そうだろうさ。時に、同じ藤原だと呼びにくいし勘違いしやすいから、今からあんたはカグヤな。そう呼ぶことにする」

「乙女を呼び捨て!?」


 俺は無視して、通りの先に顎をしゃくった。

 なにが乙女か。


「ほら、ファミレスに着いたぞ。張り切って話し合いといこう」

 


ご感想、いつもありがとうございます。

それと、タイトルに関してご意見、感謝です。


元に戻すことも考えましたが、頂いたご意見を参考に、「タイムリープ」というキーワードを入れてみました。そういえば、なぜか人気のキーワードの気もしますし。


ただ、まだ仮タイトルのままなんで、さらに変更になったらすいません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ