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ループの優位性を活かせるか? 上手くすれば、今日一日で二人の謎が解けるかもだっ

 さて、肝心の深森の百メートル走はどうかと思い、俺達は熱っぽくグラウンドを眺めていたのだが。


 しかし……俺はこの肝心な時に、重要なことを思い出してしまった。

 いろいろ変化は起きているとはいえ、今日は10月1日の月曜日である。


 それがなにを意味するか? 

 つまり、前回の同じ日に、謎の便せんが放り込まれた時間が近づいているのだっ。





「しまった!」

 

 立ち上がって叫ぶ俺を、谷垣達がぽかんと見上げた。


「なんだよ、急に?」

「トイレなら、静かにいけよ」


「いや、俺は早退するっ。もし訊かれたら、俺が『突然、猛烈に気分が悪くなった』と青ざめた顔で言ってたと、先生に伝えておいてくれ」


 きっぱりと言い切ると、俺は本当にその場を駆け足で離れた。


 背後から「ピンピンしてんじゃん!」とか、「サボるなら、最初からサボれよなあっ」とか、人の気も知らないでいろいろ言われたが、一顧いっこだにせず教室へ戻った。


 とにかく、今からでも着替えてマンションに戻り、あの少女をふん捕まえるっ。

 もちろん、あの子も記憶が残っていて、もう来ない可能性はあるが……俺の勘は「いや、また便せんは来るぞ」と執拗に囁いている。


 たまには自分の勘を信じるのもいいだろう。




 そういう事情なので、その時の俺は非常に急いで廊下を小走りに駆けていたが、2ーBの教室へ戻る前に、一つ奇妙な出来事があった。

 葬式に行くような黒スーツ姿のゴツい男が二人、大股で廊下を歩いていたのだ。


 今は校内も六時限目の授業中だし、こんな時間になんの用事かと思う。ただ、彼らの目は落ち着きすぎるほど落ち着いていたし、走ってくる俺を見ても動じず、礼儀正しく低頭したりした。


「こんにちは」

「こ、こんにちはっ」


 挨拶までしてくれたしな。

 だから、生徒が預かり知らない事情があって外部から来てるのだろうと、その時の俺は無理に納得した。少なくとも、刃物持った奴らとかじゃないし。


 それでも、普段の俺ならもしかすると職員室へ知らせにいったかもしれないが、今はそんなことしてる暇ない。


 俺の優先度で言えば、あの謎の生意気小学生をひっ捕まえる方が、遥かに重要なのだ。




   


 マンション前までほぼ早歩きで戻ったが。


 表通りから一つ入った通りにあるうちのマンション前には、今のところ猫の子一匹歩いてなかった。

 とはいえ、あの監視動画を見た時、確か隅っこに時刻も表示されていた。

 うろ覚えだが、あの小学生が来たのは、二回とも今より半時間ほど後だったはずだ。


(よし、間に合ったぞ! 後はここで張り込みだな)





 俺は周囲を見渡し、前回、謎のボールペン女子が潜んでいた電柱の影にさりげなく立った。そうだ、そういえば、あいつにも事情を訊く必要があるっ。

 便せんの小学生女子はとびきり重要だが、あの(デレなしの)ツンドラ女も、俺から見りゃ謎の存在である。


 上手くすれば、今日一日で二人の謎が解けるかもだっ。


 にわかにやる気が増した俺は、大いに気合いを入れて張り込みに集中しようとした……のだが。大して待つほどもなく、見るからに小学生な女の子が、とてとて歩いて来た。ランドセルを背負ったまま。


 しかし、相手が全然違う。


 顔が全く違うし、あの子に感じた特別なオーラも、特に感じない。

 良くも悪くも、ごく普通の小学生だった……多分、学校帰りだろう。


 しかし、その子はなぜか俺に向かって真っ直ぐに歩み寄ると、値踏みするようにじろじろと見つめてから「はいっ」と紙切れ――なんと、折り畳んだ薄青い便せんを差し出したっ。


「な、なんだ!?」


 俺が戸惑って顔をしかめると、自分も首を振った。


「知らないもん。ただ、さっき道で会った女の子が、『五百円あげるから、角曲がったすぐのマンションの、斜め前の電柱で隠れている学生服姿のかっこいい男の人に、これ渡して』って頼まれたの」


 やたらと正確に、言われた通りを再現してくれたようだ。


「それは、いつっ」

「だから、あたしがそこの角曲がる少し前だから、五分くらい前かな」

「なんという……」


 頭を抱えたい気分で、俺は便せんを受け取った。

 敵の方が上手だったらしい……しかし、なんでいちいち俺の行動の先読みが出来るんだ。未来予知じゃないだろうな。


 いつも出し抜かれるせいか、少し前まで思いもしなかった疑いまで持ってしまう。

 ちなみに、五百円で雇われた子はまだ俺の前に立っていて、ぶすっと言った。


「期待したけど、おにーさん、あの子が言うほどかっこよくないと思うなっ」

「やかましいっ」


 俺が思わずむくれると、笑いながら逃げていった。

 ちくしょう、グレてやるっ。便せんをポケットに突っ込み、俺はしおしおと帰宅した。


 あの子のことだ……どうせ今から追いかけても、もうその辺にいないのは目に見えてるしな。


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