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屍者に逢う1 まるでゾンビに出くわしたような顔だわ

 まずいことに、どうも俺は想像以上に長時間、意識を失っていたらしい。

 次に目が覚めた時はもう部屋が明るくなっていて、思わず奇声を上げて飛び起きた。


「うわっ、課長にまた睨まれるっ」


 慌ててベッドから出ようとして、気付く。

 ……俺、なんでパジャマなんか着てるんだ? 大人になってからは、いつもトランクスとシャツで寝てたのに。


 眉をひそめて周囲を見ると、見覚えのある場所ではあるが、なにかこう……勝手が違う。

 昔はともかく、今は壁にアニメのポスターなんか貼ってなかったし、机だってもう買い換えて、勉強机じゃなかったはずだ。


 待てよ……そういえば昨晩!?





「まさかまさかまさかっ」


 パニクった俺は、慌ててパジャマ姿のまま洗面所へ走った。

 そこの鏡を覗き込み、また絶句する。


「わ、若返った!?」


 いや、部屋の状況からして、正確には高校生時点へ戻ったのか!

 手で顔をいじくり回しているうちに、モロに駄目押し食らった。


 すなわち、五年前に事故で死んだはずの母親が、「俊介ー、もう起きたの?」と声を張り上げたのだ……キッチンの方で。


 俺はまたしても気が遠くなりかけ、慌てて洗面台に手をついた。




 それでもまだ信じられなくて、よたよたとキッチンの方へ歩く。

 恐る恐る覗くと、記憶にある母親が、朝食の味噌汁を温めていた。

 気配を感じたのか、俺の方を見て、ぎょっとしたように目を見開く。


「なによ、黙って涙目で見つめないでよ……気持悪いわね」

「あ、ごめん。俺、どこか妙かな?」


 辛うじて心を落ち着けて尋ねると、母はきっぱりと言った。


「いつも妙だけど、今朝は特に妙ね。まるでゾンビに出くわしたような顔だわ」


 ……これほど納得できる寸評は、聞いたことがない。





 とはいえ、動揺した割に、俺は半時間後には懐かしすぎる高校の制服に着替えて、通学路を歩いていた。

 他にどうしようもないし、ネットで調べたところ、今は確かに十年前の十月一日だとわかったので。


 つまり……あの深森雪乃が自殺する、十日前だ。


 彼女のDVD動画を見た後、そんな時間軸に飛ばされてしまった……これが偶然のわけない。しかも、なぜか画面の向こうにいた、謎の存在のこともある。ひょっとしたらあいつの意志じゃないのかとさえ、思えるのだ。


 馬鹿げて聞こえるかもだが、「この子を助けなさい!」とかな。


 ただ、助けるのに尽力するのは嫌じゃないにしても、ここで一つ、大きな問題が生じる。

 俺は歩きながら、重いため息をついた。

 普段から会話するような仲ならともかく、あいにく深森とは、同じクラスであるという共通点しかない。


 なぜ動画の中で深森が、俺に丁寧に礼など述べたのか、さっぱりわからない。


 昔、なにかあったとかなら、まだ話は――


「いや、案外そうなのか?」




 一瞬足を止めた後、周囲の迷惑そうな視線に気付き、俺は再び歩き出す。


 俺自身はさっぱり覚えてないし、同じクラスだったのは高校に上がってからだとばかり思っていたが、もしやかつて深森と会っていて、なにか彼女にしたのか……礼を言われるようなことを。


 でも、幾ら考えても記憶は蘇らず、結局俺は学校に着いてしまった。


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