表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/64

おお、片岡俊介よ、死んでしまうとは何事じゃ!


 朝、目を覚ました時、俺は全ては夢だと確信した。


 なにしろ、ついさっき眺めたばかりの、自室の天井が見えたからな。

(よかった……やたらとリアルな夢だったけど、別に夢ならどうということは)


 余裕の笑みで起き上がりかけた時、俺は笑顔そのままに固まってしまった。


 いや、ここは確かに、俺の部屋ではあるが……なにかこう……ある意味、がらっと変わっている。なにより、ベッドの足元側の壁を見ると、当時欲しくても買えなかった、ソニーやら任天堂やらのゲーム機がガラステーブルに整然と並んでいて、壁の中央には大きなモニターもある。おそらく、ゲーム用だろう。


 そして、俺の机の上をかなり占領しているPCだ。


 当時、量販店の最安値で買ったはずのPCが、水冷式の大型PCへと変貌してるじゃないかっ。ケースも高そうだし、こりゃどう見ても最安値には遠いぞっ。




「そうだっ、今日はいつだ!?」


 同じく記憶にない、多目的デジタル時計がその横にあったので、俺は慌てて飛びついた。

 日時だけじゃなくて、西暦もきちんと表示されるタイプであり、時計自体が狂っているのでなければ――。


 本日は、2018年10月1日とあった。


 有り得ないことに、俺が最初に目覚めた朝に戻っている!





「あ……まずい!」


 そこで俺はショックのあまりふらつき、ベッドにどさっと横座りした。


「思い出してきたぞ……思い出してきた」


 妄想か夢だと思い込んでいた、さっきの凄惨な場面が頭の中でぐるぐるする。

 どうでもいいがこのベッドも、やたら高価そうなマットが敷かれていて、ぺらぺらの敷布団だけだった、前の質実剛健なタイプじゃない。


 なにかこう……全体的に俺の部屋が、以前よりアップグレードされているんだが!? とはいえ、現状で一つだけ確かなことがある。

 思わず頭を抱えながら、俺は思わず呟いた。



「おお、片岡俊介よ、死んでしまうとは何事じゃ!」



 ――冗談でも口走らないと、やってられない。

 俺は深森雪乃を助ける義務感を持って、この数日を乗り越えたはずなのに、自分が死んでどうするのか。


「そうだっ。深森はどうなった!」


 どくんっと心臓の鼓動が跳ね上がった。

 俺はこのザマで、またしても10月1日に戻ったというのなら、「あそこで立ち尽くしていた深森雪乃」は、どうなった。


 まだ10月3日になっていないのはわかるが、俺と同じく、深森も戻っているのかっ。

 その疑問に思い至った瞬間、俺は秒速で学生服に着替えて、部屋を飛び出したっ。





 キッチンでは、あの日と同じく、やはり母が味噌汁を温めていたが。


 この際、そこはいい。

 何が驚いたって、とにかくうちの中が……調度品や家具、それに部屋の清潔度に至るまで、目に見えて向上していたことだ。


 母にそれとなく理由を訊くと、「あんたが買っといた宝くじが当たったんでしょ? もう去年の話じゃない。また忘れたの?」などと言われた。


 いや、知らないし、そんな話っ! 股も太股もあるかっ。

 宝くじといえば、連番をまとめて深森にもらった記憶ならあるが……あの微笑ましい話は、(前の俺から見て)つい昨日の話じゃなかったか? 


 つまり、以前の世界の出来事であり、こっちと繋がってるわけないっ。

 仮に奇跡が起きて当たるとしても、当選発表は、あの時点から見た週末だったはず!


 もういろんな意味でわけがわからず、俺はいよいよ弱った頭で――それでも、やはり登校した。コトはまだ、全然解決してないし、深森雪乃が自殺する日もまだ来ていない。


 ならば、俺の戦いはまだ終わってないということだ!





 ……学校まで、俺は徒歩最短記録で到達した気がする。


 実は通学路のあちこちで、前にはなかった妙なものを見た気がするが、気が急いていたので、その時は特に気にしなかった。


 当然、学校へ着くとほとんど階段を駆け上がる勢いで、二階の2ーBの教室へ入った。

 教室内をぐるっと見て回ったが、特に変わった様子はない。


 というより、まだ全然早い時間だから、深森はまだ登校してないかもしれない。




「おい、片岡っ。なにキョドってんだっ」


 ぎょっとしてそちらを見ると、もはや懐かしくもない谷垣が俺を見ていた。

 ……なにも、前と同じセリフを口走らなくても。そういうところは、別に変わらないのな。


 ただし、全てが同じではなかった。


 いきなり背後から「片岡君」と呼ぶ声がして、俺は慌てて振り向く。 

 そこには――泣きたいほど嬉しいことに、あの深森雪乃が立っていた。




「あ……いやっ」


 しばし浸った後、俺は自分がスライドドアのレール上に立っていることにようやく気付き、その場をどこうとした。


「邪魔だったな、悪い」

「お話があるの」


 ……何か今、深森の声と重なったような。

 俺がもう一度彼女を見ると、深森は優しい微笑で小首を傾げた。



「個人的なお話があるのだけど、ちょっといい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ