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タイムリープ


 とりあえず、本当に心当たりがないと言い訳して、ようやく俺は守衛室から解放された。


 こんなことならカメラ映像なんか見なきゃよかったとその時は思ったが……いや、やはりそんなことはないな。


 途中がどうあれ、とにかく便せんを入れていたのが誰かはわかったのだ。

 大きな謎は残るが。


 そもそもあの子は誰なのか? というのが一番だが、「だいたい、なんで隠しカメラの場所を知っていたのか?」という疑問もある。

 他にも、「なんだ、カメラ目線で、あのアイドル的決めポーズはどいうことだっ」などの疑問もある。


 文字通り、疑問だらけである。


 俺が自信を持って言えるのはただ一つ、「あの子は絶対に、俺が見た告白動画に映っていた子に違いないっ」という一点のみ。

 自分の部屋に戻ってからも、俺は自室に閉じこもって、いろいろ頭を悩ませたが、結局のところ、今挙げたような疑問点多くと、確定した事実一つが出てくるだけだ。


 そして、何よりも問題なのは……今回の警告文にどう対処するかだろう。

 例によってベッドに転がった俺は、問題の便せんをポケットから出して眺めた。





『明日の水曜日は、学校を休むべき。休まないなら、七時かっきりに家を出なさい……それと、もう手遅れになりつつあるけど、深森雪乃を助けようとしてはいけないったら、いけない!』


 この文章には、三つの指示というか命令がある。


 一つは明日は学校を休むべき、という部分。もう一つは次善の指示とも言うべき、「休まないなら、七時かっきりに家を出なさい」という部分。


 そして最後は二度目になる、深森雪乃を助けようとしてはいけないという部分だ。

 三つとも、「ふざけんな!」と中指を立てて拒否したいところだが――。


「……本当に全部拒否した場合、果たしてなにが起こる?」


 俺は自然と呟いていた。

 あの子が、全然知らない子なら、まだ問題は少ない。

 不気味に思えど、俺は全部無視するだろう。いくらなんでも、知らない(多分)小学生の女の子に指示されて、その通りに動くほど俺はお人好しじゃない。


 しかし、現実にはあの子を見るのは二度目だし、一度目は深森雪乃が自殺する直前の動画で見たのだっ。


 これは、とても重大である。無視できない事実だと言ってもいい。

 明らかにあの子は深森を知っているだろうし、場合によってはなにか重大なことも知っている気がする。


 それに、動画上ではあるが、あの子とばっちり目が合った途端、俺はこうしてタイムリープしちまったわけだ。


 それを思えば、あの女の子こそが、俺を飛ばした張本人かもしれないじゃないか!





「だいたい俺、どこかであの子に会った気がするぞ」


 先程から――というより、おそらく動画で見た当初から、俺が密かに思っていたことが、思わず声に出た。

 どうも記憶が刺激されてならない。


 動画で見たのみじゃなく、俺はどこかで確実にあの子と出会っている気がする。

 なんというかこう……絶対に忘れてはいけないことをけろっと忘れてしまったような気持ちさがあり、身悶えしそうなほどだ。


 知恵熱が出るほど記憶を探っても、相変わらずなにも思い出せないのが、本当に腹が立つっ。

 そのうち母親が「夕食できたわよ、どら息子っ」と呼ぶ声がして、俺はやむなく考えるのを中断した。


 ……ていうか、誰がどら息子かっ。




 そして、翌朝。

 用心していた割には、朝目覚めるまで何も起きず、俺は無事に制服に着替えて、新たな人生の三日目を迎えた。

 まだ水曜日だというのが驚くが、とにかく決断はした。


 ……あの子の警告文のうち、学校を休む分は無視する。なぜなら、深森が迎えるに来るはずなので、休みたくないからだ。


 同じく、なんのためにこの時代に来たかわからなくなるので、当然ながら「深森雪乃を助けようとしてはいけない」という部分も無視!


 唯一、七時に家を出ろ? 的なアドバイスにのみ、従ってみることにした。


 このアドバイス的指示になんの意味があるのかわからなかったが、とにかく、少しは聞く耳を持ってやろうと。

 母親が「こんな早くに登校? 霰が降るわね」などといらんことを言ってくれたが、俺は「いろいろあってね!」とのみ答え、手早く朝食をかき込んで家を出た。


 まだ全然早いが、こっちから深森のホテルへ赴き、逆に向かえに行ってやろう。


 きっと、深森も喜んでくれるだろう……そう思うと、早朝と言えども足取りは軽く、俺はマンションを出て笑顔で歩きはじめた。




 少しして、路地で背後から名前を呼ばれた気がする。


 ――しかしあいにく、ほぼ同時に俺は路上に倒れていて、身動きできなくなっていた。

 意識が奈落の底に吸い込まれる前、ふと目をやった先で、俺はあの子を見た。


 電柱の影から様子を窺う、引きつった顔の女の子と目が合ったのだ。小さな唇で、必死になにか言おうとしていた。


 なんだ? え、タイムリープ!?


(あ……ヤバい……また視線がかち合った……ぞ)



 身震いしかけた時には、もう俺の意識は完全に砕けていた。




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