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トリガーの存在(続かず) そばにいる深森さんによろしく

 考え込みながら、深森と二人で歩き出すとスマホがポケットで振動した。


 俺は深森に断って少し離れ、相手を確かめた。

 HR前に相談した、不思議好きの藤原だった。ほっとして出てみた。


「おー、わざわざ電話って珍しいな。そっちは授業じゃないのか?」




『まあ、うん。そうなんだけど、僕は例によって気分が悪くなって、保健室へ行くところ。今は廊下から。……片岡君が早退したのは聞いたけど、その後で榊先輩がコソコソと校門を出ていくのを見てしまったからさ。一応注意した方がいいかなと思って。なんだか、遠くから見ただけでも、殺気立ってて……なにがあったのか知らないけど、注意した方がいい』


 親切な忠告に感激したが、ちょっと遅かったかもしれない。

 まあ、そんなこと言わないけど。


「それはありがとう。そっちとはもう会ったけど……今のところ、大したことは起こってないよ、うん」


 心配して電話くれた友人に、重ねて余計な心配かけたくないので、軽い口調で答えた。

 それに、実はちょうどいいところへ電話くれたかもしれない。

 俺は深森が元の場所で大人しく待っているのをちらっと確認し、声を低めて尋ねた。


「ところで、電話でなんだけど、朝に訊きそびれたことがあったんだ。例の話の続きだけど、

ちょっとだけいいか?」

『どうぞどうぞ、どうせ今は暇だし、そういう話は大好きだって知ってるだろ?』


「悪いな、ホント。なら訊くが、いつの間にか主人公がタイムリープしたとして、本人にはなんの心当たりもないとする。この場合、どんな原因が考えられる? 参考までに教えてくれないか」


『ふ~ん?』


 しばらく唸って言葉が途切れたが、藤原はすぐに逆に質問した。


『その物語の主人公が、タイムリープする直前の状況は?』

「ちょうど、元クラスメイトのビデオレターを見ていた。動画のことだけど――」


 少しためらったが、俺はその時のおおよその状況を教えた。

 問題の人物が物語の登場人物人物だし、他に見たことも全てボカして言ったから、大丈夫だろう。


『なるほど……最後に、窓から覗いてた少女と目が合ったと? 意識を失ったのはその後だね?』

「そう、そういうこと。ホラーな状況だろ?」


『……ちょっと話は逸れるけど、本物の超能力者の中には、自分の得意な力を使う前に、ある種のトリガーを必要とする人がいる』


「いきなりだな? そもそも、本物の超能力者なんているのか?」

『まあ真偽は置こうよ、この際。全ては仮定の話なんだから』

「わかった、続けてくれ」


『僕が知るその人の場合、能力を解放するトリガーは、頭の中で想像上の銃の引き金を引くことなんだ。あくまで現実に存在しない、架空の銃の引き金を。……すると、確かな手応えがあり、結果的に能力が発揮されると』


「文字通り、引き金を引くことが、能力発動のトリガーとなっているわけか?」

『そう。ただし、その人はそうだというだけで、トリガーはあらゆる可能性が考えられる。呪文、あるいは神への祈り……ちょっとした動作。該当する能力者が「これがトリガーだ」と信じている何かさ』


「わかった。で、俺が挙げた例だとどうなる?」





『片岡君の場合、二つの可能性が考えられる。一つ、その覗いていた女の子こそが力の持ち主で、時を超えて過去から能力を発揮し、目が合った片岡君をタイムリープさせた。二つ目は、片岡君自身に潜在的に力が備わっていて、たまたま心がざわついた時にその子の目を見たことで、能力発揮のトリガーとなってしまった、かな』


「ええっ!? いや、俺にはそんな――」


 言いかけて、途中で気付いた。


「おいおい、俺の話じゃないって」

『はははっ』


 してやったり、と言わんばかりの笑い声がした。


『いやでも、途中から片岡君の話にわざと置き換えたけど、しばらく違和感なく聞いてたよね?』

「はっはっは! 悪いけど俺、鈍いしっ」


 実際には冷や汗をかく気分だった。

 そんなの信じる奴はいないと思ったのに、藤原は例外なのかっ。


『じゃあ、そういうことにしておくよ、うん。大丈夫、僕は仮定の話だろうと、口は堅い方だから。……だけど、もしこれまでの仮定が全て本当なら、いつでも白状してくれていいよ? なにか力になれるかもだしさ』

「あー、いや、ありがとう。……もちろん仮定は仮定のままだけど、気持ちは嬉しい。じゃあ、また明日な?」


『うん、また明日。これは僕の仮定だけど、そばにいる深森さんによろしく』


「いやおいっ」


 慌てて呼んだが、もう切れていた。

 むむむ……学年二位の藤原縁、恐るべし。


 まあ、あいつならバレてもいいかという気はするが、今後は気をつけよう。

 しかし、まさかこの頭の痛い話を、本気にする奴がいるとはっ。




「なにか心配ごと?」


 ……離れて待っていた学年一位が、心配そうに寄ってきた。

 もちろん、深森のことである。驚くべきことに、この子は勉学でもぶっち切りなのだった。


「いや、友達が心配して電話くれたんで、ついでにちょっと相談をね」

「そう? わたしでよければ、いつでも話くらい聞くけれど?」


 ちょっと拗ねたような目つきで深森が言う。

 わたしがいるのにっ、と言いたそうな表情に見える。


「ありがとう……その必要が生じた時は、ぜひ」


 ……当事者じゃなきゃ、喜んで相談するんだけどね。


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