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告白した事実を告白1 深森が絶望するような事態は避けないとっ


 榊とかいう強面こわもての先輩と一緒に、職員室へ連れて行かれたらしい深森は、HRの時間が来ても戻ってこなかった。


 しかも、うちの2ーBの担任まで顔を見せず、代わりに名簿の上では副担任ということになっている、音楽教師がHRを行った。


 誰かが早速、「告白騒動はどうなりましたー」と訊き、教室内が一気にざわついたが――。

 幸いその教師は、あっさりと教えてくれた。




「まあ、怪我したとはいえ、あくまで自分で唇噛んでのことだしな。それに、女の子にしつこく迫るのも問題あるし、これまでの素行も悪いしで、榊は停学三日となった。深森は厳重注意のみだな。妥当なところだろう」

「でも、深森さん、戻ってきませんけど」


 女子生徒の誰かが手を上げて質問すると、教師は「気分が悪いので、早退するそうだ。榊の顔を間近で見たせいだろうな」とトボけたことを言い、クラス中がどっと湧いた。


 全員、他人事全開で結構なことだが、俺は気が気じゃない。

 それに、HRが終わったところで外を見ると、ちょうど深森らしき子が校門の方へ歩いて行くのが見えた。背筋を伸ばした格好いい歩き方は、あの子独特のもので、間違いようがない。だいたい、今どき黒パンストなんか穿いてる子も、他にあまり見ないし。


 俺はその時点でサボりを決意した。

 音楽教師が廊下へ出るのと同時に立ち上がり、隣の谷垣に「俺、とてつもなく腹が痛くなったんで、早退するって言っといてくれ」と頼んでおく。


「……全然、平気そうじゃん?」


 谷垣はそう言ったが、俺は真面目な顔で「渾身の精神力で、苦しみを外に出さないようにしているんだ。じゃあ、そういうことで」と言い返し、鞄を持ってとっとと廊下へ出た。






 かなり早足で歩き、時にダッシュも併用し、ようやく駅近くの路地で深森に追いついた。

 呼びかけると、素早く深森が振り向き、俺を見てだいぶ驚いた顔をした。


「片岡君っ」


 呼吸を整えるために立ち止まっていると、彼女の方から駆け寄ってきてくれた。


「どうしたの? なにかあった?」

「いや、別になにも。深森が校門の方へ歩いていくのが見えたから、大丈夫かなと思って追ってきただけ。いいよ、今日はもうサボるから」

「……わたしのこと、気に掛けてくれたの?」

「そりゃ気になるだろ?」


 深森はやたらと感激した表情だったので、俺は逆に戸惑ったほどだ。


「早退するってことは、なにか嫌なことでもあったのかなぁとか、あるいは怪我でも――」


 言いかけた時、俺はたまたま視線が下を向いてて、彼女の左手首にどっさりついたためらい傷を見てしまった。

 いや、ためらい傷と呼ぶのも妙かもしれない。中には、ぞっとするほど深い切り傷もあったからな。


 俺の視線に気付いたのか、深森は慌ててさっと制服の袖を引っ張り上げた。……夏服の時はどうしているのか、気になるところである。




「み、見ちゃった?」


 上目遣いの瞳で尋ねる。


「見たけど、別に気にしてないよ。心配はしてるけど」


 俺はなるべく何気ない風を装い、再び一緒に歩き出した。

 ついでに、そもそもこのタイムリープの原因となったかなめの質問をしてみた……これも、なるべくさりげなく。


「なにか、死にたいような気持ちになる理由があるのかな?」

「ない……とは言えない……けど……でも、秘密」


 いきなり秘密だと言われると、うるさくも聞けないな。

 う~ん、困ったぞ。

 悩んでいると、例によって深森がそっと腕を組んできた。人目が――特に生徒の目がないところでは、いつもながら大胆である。


「ホテルくる? なにかご馳走するわ」


 深森が嬉しそうにそう述べた時、いきなり雰囲気を台無しにするだみ声がした。





「おいおい、まさかそんな奴が相手とか言うなよっ」


 途端に、深森の優しい笑顔が、シャッターを下ろしたみたいに消えてしまった。

 代わりに嫌悪感まみれの表情になり、振り向く。

 俺も、だいたいのところは相手の予想がついた……外れたら嬉しかったんだが、こういう時の予想は常に当たる。


 すなわち、声をかけたのは、息が切れたまま仁王立ちしている、三年の榊先輩である。

 つまり、朝方に深森が揉めた相手だ。

 俺は遠くから見かけたことがあるだけだが、間違いようがない。




(うわぁ)


 予想以上にインパクトのある外見に、俺はうんざりした。

 なにしろ、身長は高いわ横幅もデカいわ、さらに顎が割れてるわで、高校生に全然見えない。ブレザーの制服着てても見えないのだから、大したものだと思う。


「なあおい、深森っ。今ならまだ間に合うぞ。手遅れにならないうちに」

「あなたは嫌いよ」


 いきなり深森が割り込み、きっぱりと言い切った。


「二度と顔を見せないで」


 おまけに容赦ない!

 その声の調子たるや、冬の雪山を吹き荒ぶ風のごとくである。さっきの優しい声の欠片も残ってなかった。


 皆が恐れてる不良氏を、物の数とも思ってないらしい。

 さすがは、ブレイドなんて呼ばれているだけのことはある。


「くっ。だけど、とにかくそいつがおまえの言う相手ってのは嘘だろっ」


 榊が歪んだ顔でしつこく問い、深森がなにか言いかけた。


「あなたの知ったことじゃ――」


 俺は急いで割り込んだ。


「いや、間違ってませんよ、先輩。俺、あんたより先に告白してるんですよ」


 ……どんな理由があろうと、誰が相手であろうと、とにかく深森が絶望するような事態は避けないとっ。


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