表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/64

登校(続かず) あとはみんな嫌いか、どうでもいい人

 二人で歩き出すと、俺は忘れないうちに尋ねておくことにした。


「俺、今日はちょっと友達に訊きたいことがあって、わざと早めに出たんだけど……いつから待っててくれたんだ?」

「……六時」

「六時ですとっ」


 思わず足が止まる俺である。


「そりゃ早い、早すぎだよっ。俺は普段、家を出るのは八時前なんだぜ」

「……じゃあ、これからは、その時間を基準に」


 毎日来る気満々の言い方で、俺は少し焦った。


「いやいや、毎日だと辛い――」

「心配しないで」


 俺が断るのを恐れるように、深森がまた言った。


「もうすぐ引っ越すつもりだから」

「そ、そう?」


 俺が止めそうな予感がしたのか、随分と緊張した表情だった。

 深森さえそれで幸せなら、別に無理に止めたりしないけど……たまには自分から迎えに行くのが礼儀だよな?


 そう思った俺は、ついでに尋ねた。




「あのさ、迷惑じゃなかったら、今住んでる場所を教えて欲しいんだけど」

「駅の北口前にある、ホテルの最上階なの」

「おおうっ」


 素直に教えてくれたのはいいが、めちゃくちゃ高級ホテルじゃないか。

 ホテル住まいだったのか。


「家では、母親と上手くいってなくて……」


 俺の反応を窺いながら、もじもじと言う。

 まだ緊張感が継続しているらしい。


「お互いがお互いを嫌っているから、わたしは入学時からずっと点々とホテル住まい。そろそろマンションに移りたいけど、母に保証人頼むのが嫌で、遅れてるの」

「そうかぁ」


 頷きつつ、「金の方は大丈夫なのかね」と密かに思ったが、お金もないのに、有名ホテルの最上階には住めないだろう。

 余計な詮索はしないことにした。


「深森は、そんなに人の好き嫌いがないように思ってたけどな」

「そんなことないわ、全然ないわ」 


 めずらしくきっぱりと否定された上に、驚いたような目で見られた。


「わたしが好きなのは、昔から片岡君だけ。あとはみんな嫌いか、どうでもいい人」

「そ、そうかっ」


 なにげない会話で、いちいち俺を驚かしてくれるな、この子

 心臓の鼓動が跳ね上がったじゃないか。

 うろたえたため、俺がそれ以上訊かなかったからか、緊張した表情が消えて、深森にまたほのかな笑みが戻っていた。





「あのホテルの2401号室が、最上階の部屋番号なの。いつでも遊びに来てね? わたしは眠るの遅いから、深夜でもいいの」

「お、おぉ」


 深夜でもいいのかっ、実に意味深だな! 考えすぎなんだろうが。


「それからこれ」


 なぜか、宝くじを入れるようなポチ袋をくれた。

 というか、中を覗くと本当に宝くじだった。十枚くらいある。


「……あ、もしかして、昨日のギャグの続きかな?」

「ギャグじゃないけれど……多分、そう」


 コクコクと深森が頷く。


「昨日が最終日で、三日後にはもう発表らしいわ。一等は五千万円らしいの。当たるといいわね」

「現金じゃないし、ありがたくもらっておくよ。宝くじ代、出そうか?」

「気にしないで……プレゼントだから」

「そうか。いや、本当にありがとう」


 俺は苦笑して、連番十枚入りの袋を鞄にしまった。ちなみに、宝くじの一等が当たる確率がいかに低いか、前にどこかのネットニュースで読んだことがある。

 真偽は不明だが、年末ジャンボとかのレベルになると、1千万分の1だとかなんとか。

 従ってこの時点では、もちろん「わー、深森もエッジの効いたギャグをかますなぁ」くらいにしか思っていなかった。


 ただ、「もっといるようなら、言ってね」と言われて、ちょっと笑ったけど。

 ここは一つ、俺も気の利いたセリフで返すべきと思い、「深森は、俺を甘やかしすぎだよ」と言ってやった。


「もし許されるなら」


 なぜか、深森が一層身を寄せてきて、腕を組んでるせいで胸がかなり当たった。


「生涯、甘やかしたいわ」

「は、ははっ」


 またしても驚いて言葉を失った俺だが、深森はその後でまた何か呟いていた。

 でも、あいにく最後の部分は聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ