39 タマタマ取るな!
ボックス席に座る1匹と1人。
ドンプリーとかいう聞いたような聞いたことがねぇような高級酒(実は中身は粗悪焼酎)をドボドボと大ジョッキにストレートで注ぎ込んだかと思いきや、1匹……そう、猫五郎の前にドズンと置かれる。
「……それでぇ、サヤカはぁ、女のコになることにぃ、したのぉ〜」
「は、はぁ……」
さっきからずっと、1人……女の話を、猫五郎は辛抱強く聞いていたのである。
何があったのかと言えば、猫五郎は36話から38話までのお話を聞かさせられていたのであーる!
さて、なにが起きたのかわからんちんの読者諸兄らのために説明すると、猫五郎が訪れた村はずれにあるスナック『大魔神』は、実はスナックなどではなく、超幕府の風営法から逃れるためにスナックに偽装したオッパブだったのであーる!
そんでもって、いま席についた猫五郎の横には、源氏名“サヤカ”が大事なところにニップレスを付けた姿で登場して、濃厚な接客トークをかましていたというわけなのだー(ほぼ自分語りだったが)!
「えーと、つまりサヤカさんは童貞王であり、鬼ヶ島の王である……と?」
「そうなのー」
“そうなのー”じゃねぇよと、猫五郎は思うた。
「それでもって、敵である塵太郎に恋をしてしまった……と?」
「そうなのー」
“そうなのー”じゃねぇよと、猫五郎は思うた。
「……そこまではよく分かりませんがよく分かりました。それから、なんでここで働くようになったんで?」
「実はサヤカねぇ、異世界で本物のスナックのママになるのが夢なのー。そのために資金稼ぎしなきゃだしぃ〜。塵太郎様と一緒になるためにぃ、“工事”も必要だしぃ〜」
「……」
自らの股間を指差すサヤカに、猫五郎は眉を寄せる。
「ううっ、サヤカちゃん……。なんて泣ける話なんだ」
向こうの席に座って盗み聞きしながら、別の嬢の胸を揉みしだいているジジイが目頭を押さえていた。
(オキーナ艦長に似ている気がするけど、きっと気の所為だ)
それは間違いなくオキーナなんだが、問いかけると面倒事にしかならないことを察している猫五郎は、大人過ぎる対応をしてシカトした。
「でもいいの? サヤカ? 玉陰囊を取っちゃってさ」
輪切りにしたレンコンみてぇな頭をした嬢が尋ねる。言うまでもないが、乳はデカいが顔は微妙だ。
「そうよ。どこぞのバイオ・ホムンクルス・オランウータンの科学者に『大魔神的な魔力の宿る玉陰囊だべさ!』って言われたんでしょ?」
輪切りにしたカボチャみてぇな頭をした嬢が尋ねる。やっぱり言うまでもないが、乳はデカいが顔は微妙だ。
(ベンザー博士っぽいけど、きっと気の所為だ)
それは間違いなくベンザーなんだろうが、問いかけると面倒事にしかならないことを察している猫五郎は、大人過ぎる対応をしてシカトした。
「いいの。だって、あの人の好みはモノホンの女のコなんだもん…」
サヤカは遠い目をして言う。
ぶっちゃけ、このオッパブで働いている根菜類みてぇな、愉快な家族の主人公みたいな、そんな奇妙奇天烈摩訶不思議な頭髪をしてやがる女どもより、サヤカは遥かに美人だーった!
「猫五郎くんはどー思う? 取った方がいい?」
「はぁ。そんなのどっちでもお好きにされたら……ん? 大魔神……陰嚢玉? ハッ! ま、まさか!」
トンデモねぇ展開に思考が停止しつつある猫五郎であったが、彼の察しのよい、作者のご都合主義的な部分を凝縮した脳味噌は、すぐにこのサヤカの玉陰囊が伏線であると気付いたのであーった!
「だ、ダメです! サヤカさん! 玉陰囊を取ってはいけません!!」
「え? どうして?」
「え、えっと、それは……」
まさか玉陰囊を取ることで、それが後にどういう経緯を辿るかは『畜生転移(1もしくは無印)』を読んでもらわねば分からんが、あれがこうなってそうなって……まあ、とにかく犬次郎の手にと渡ることになり、それが原因でまさか超宇宙が滅び去るのだと説明してところで、超展開すぎて「頭のおかしな猫」としか思われないであろうことは想像するに難くぬぁい!!
「ねぇ? どうして? 猫五郎くぅ〜ん?」
小首を傾げるサヤカは悔しいぐらいに可愛かった。
こんなアイドル級男の娘の玉陰囊がどうして超宇宙を滅ぼすことになるのか、猫五郎は神を恨みたい気持ちになーった(今頃ラーメンでも食ってるだろうが)!
「なぁぜなぁぜ? 猫五郎くぅ〜ん?」
「う、う、うるせー!!」
「!」
まるで初めてオッパブに来た童貞のように、借りてきた猫よろしく大人しくしていた猫五郎が、突如として豹変して荒ぶられる(猫五郎は初めてオッパブに来た童貞で猫なんだがそういうことではない!)!
猫五郎はこんな過去の世界にブッ飛ばされて、時もはや限界に達していたのであーる!
「お客さん、店で暴れられちゃ困り……アンギャー!」
用心棒っぽいゴリッポを、黄金の両手剣で撃退する! そうか! この剣はこのためにあったのかと読者も納得であーる!
「ね、猫五郎くぅん?」
「いいからタマタマ取るな! 男の娘は“あった”方がオトクなんだ!!」
リアルのジェンダー問題はセンシティブなのでここであえて言及はしないが、創作界隈の男の娘というのは、“男性という性の立場から見た女性”というものを表現するに適した存在なのであり、それゆえにメンズに共感され広まるのではなかろーか! だからこそ、玉陰囊を取って完璧な女の子になるという様なテーマは、そこを薄めてしまうためにあまり見なく、むしろそれなら女体化させちまえとなるのではなかろーかというのが最終結論であーる(異論は認める)!
「塵太郎みてぇなクズにホレるな! むしろ僕について来い!! 僕の3歩後から黙ってついてこぉぉぉい!」
昭和男子みてぇな強引なやり口でサヤカに迫る!!
トゥクン♡
──恋の訪れはいつも唐突で……──
もちろんそうだ! そもそも恋なんて、子孫繁栄という本来の目的を逸脱した、脳味噌がバグった現象に過ぎない!
最初から最後まで勘違いの連続であり、サヤカもその例に漏れず、“強引で強い男性”という自分が持ち得ない特性に対する憧憬をただ単に恋だと思い込んでいただけなのであーる!
なにが起きたのか平たく言えば、塵太郎から猫五郎に容易に心がシフトダウンしたのだー!!
なぜか!? それは絵に描いた餅より、コンビニで買える雪見○いふくの方が手っ取り早く食えて美味いからに他ならなーーい!!
「はい♡ 取りません♡ 猫五郎様♡」
キラキラしたお目々で言うサヤカは婚姻届を出した。猫五郎は疲れ切った表情でサインする。
やり取りを見ていた皆から祝辞が述べられ、1匹と1人はタキシードとウェディングドレスに着替えさせられる。
(まさか、こんな事で結婚することになるとは。でも、とにかくこれでよかったんだ。犬次郎さんに大魔神の陰嚢玉さえ渡らなければ……これで、これでいいんだよね? ミーシャさん)
猫五郎は何か大事なものが失われた気がしたが、この超宇宙が滅びるくらいならば、男の娘を股にハメてもなんら問題にもないと、ギャップの大きな双方を対比させることにより、事態の矮小化に努めることで心の平安を保った!
めでたしめでたし……と言いたいところだが!
ところかどっこい!
こんなことで幕を引くわけがないのが、このシン畜生転移であーる!!
「な、なんだ?」
ガタガタと周囲が激しく揺れる!!
『グルルルルルルッ!!!』
「ひぃ!」
なんか小さなブラックホールみてぇな真っ黒な穴が1匹と1人の間に生じ、そこから柴犬が激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリー厶を限界突破し、超宇宙すらも燃やし尽くさんとする、ビックバン的な、なんかそれぐらいの大激怒の唸り声が響いたのだーった!!
「そ、そんな犬次郎さん…?!」
猫五郎がびっくら仰天する!
そう! びっくら仰天ばかりしててもしゃあないので説明すると、そもそも超激怒している犬次郎は超宇宙をブッ潰せるぐらいのチート的パゥアーがあり、読者諸兄はもうすでにお忘れだろうが、『畜生転移2』にて、犬次郎と超和菓子職人マーマレードじいさんが限界突破した闘気で生み出した粒餡魔神と漉餡魔神が異世界移動できるのだからして、犬次郎本体が過去の時空に飛ぶなんて造作もねぇーことだったのであーる!!
とどのつまり、ゴッデムたちの見当違いも甚だしい!
大魔神の陰嚢玉なんてなくても犬次郎は最強なのだー!!
『ワンッ!』
ブラックホール……もとい、時空の穴から、犬次郎の鋭い咆哮と共に、衝撃波の一閃が生じる!
その衝撃波はめちゃんこピンポイントで、いままさに鬼ヶ島に上陸して鬼と対峙し、棍棒を振り下ろされんとしていた塵太郎の頭蓋を、横から奪う形で陥没せしめた(その場にいた畜生どもには鬼に殺されたように見えたであろう)!!
つーまーり!
犬次郎の時を超えた復讐が、今まさになされたのであーる!!
「な、なんでこんな……」
「アガオッ?!」
絶望する猫五郎を尻目に、犬次郎の手が穴からニョキっと出てサヤカの陰嚢玉をモギリ取った!
その場で気絶する大魔神サヤカ!
彼……いや、彼女は使ったこともねぇ、世界を支配できるほどの大魔力をいま失ったのだっーた!!
つまり、これで元あった時代にと、シン畜生転移の正史へと完全修正されたわけであーる!
『ルォオオオオオオオオオオオンッ!!!』
そして、大魔神の陰嚢玉を持った誰にも止められない犬次郎によって、やっぱり超宇宙は終焉を迎えるのであーーった!!!
消滅する前のコンマ0.1秒に猫五郎は想う──
この28〜39話にまで至る、過去の世界に戻るくだり、20,000文字超えのコレに、果たしてなんの意味があったのだろうか、と。
答えはただひとーつ!
なんの意味もなかった!
だって、人生なんてそんなものじゃないか。
努力が報われるケースなんてそうそうあるもんじゃない。
どんなに受験勉強を頑張ったって落第することだってある。
一生懸命に書いた小説の読者が増えなかったことだってある。
あんだけ貢いだ女性に、「好きな人がいるの」と振られてストーカーになったことだって一度じゃないさ。
頑張ったお仕事の帰り、楽しみにとっておいたプリンを親父に食われ、涙したことなんて山程あるじゃないの。
人生なんてそんなもんさ。
でも、諦めない。
歯を食いしばって毎日を生きていくしかないの!
チキショー! と、叫びながら!
なんの話だと思われるだろうか?
とっても簡単なことだ。
きっと、ここまで読み終えたアナタはこう叫んでるハズだ!
「死んじまったよ! 畜生転移!」
「信じらんねー! 畜生転移!」
そう! シン畜生転移の“シン”とはこのことだったのであーーった!!!
そんなこんなで、次回! 最終話につづーく!!!




