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26話 偽装盗賊団

 ハイラントから南、ナナシたちは王都を目指しのんびりと歩いていた。

 影から影へと高速移動もせず、かといって狩るべき獲物もいない道中をナナシたちはのんびりと歩いているのだ。


 時に互いに雑談を交わし、時に移り変わる景色を眺めながらもナナシたちはのんびりと歩いていた。

 風を感じ、空気を感じ、風景を眺め、自然の音を聞く。

 時折、軽く走ってナナシとネムレスは追いかけっこをしたりもした。

 血も流れず誰も殺さず、ただただ平和で穏やかな時をナナシたちは過ごしていた。

 そして、その穏やかな時の流れを二人は心から楽しんでいた。


 この場合変化があったとすればナナシだろう。

 ネムレスは長い時の中の孤独から解放されたことでナナシと共にいれば何をしても喜びを感じるのだから。

 では、人を殺すことによって快楽を得るナナシがただただ平穏な時を楽しんでいるのはなぜなのか。

 それはナナシの認識が少しだけ変わったからだ。


 迷宮で行った悪戯。

 あの悪戯の結果は長い時をかけて徐々に見えてくるものだ。

 ナナシとしてはやはり快楽を求めないものだったとはいえその悪戯の結果が気になるところではあった。

 そうなればその結果が出るまで生きていなければならないが、よくよく考えてみればナナシは不老不死。


 時間は無限にあるのだ。

 急ぐ必要はどこにもなかったことにナナシは気づいたのだった。

 それに気づいたナナシは当初、トーレの街を出る時に考えていた折角の異世界なんだから色々見てみたいという目的もあったことを思い出して、こうしてのんびりと歩いているのである。


「でも歩きだけだとなかなか村とかは見えないねえ」

「まあ疲れないからずっと歩けると言っても私たち子供だから歩幅は狭いものね。ああ、でも人ならそこの森の奥に三十人くらいいるわよ」


 のんびりとした空気の中ふと思ったことをナナシが呟く。

 それに反応したネムレスが村が見えない理由を付け加える。また、人が恋しいならと気配探知で見つけた人の存在をナナシに伝える。


「ああ、盗賊か。……そうだな、今のうちに道具を確保しておくかな」

「道具……なるほどね。それはそれは()()()使()()らしいわね。じゃ、案内するわね。こっちよ」


 それを聞いたナナシは少し考え何かを思いついたのか頷いてその盗賊のもとに行くことにした。

 ナナシの言葉にネムレスはニヤつく。どうやら今回はあまりナナシらしくはない方法を取るようだと気づいたからだ。

 楽しそうにしながら、ネムレスは探知した盗賊のもとへと案内するためナナシの先を歩いて森の中へと入っていく。




 そこには木造の砦が建てられていた。

 いっぱしの盗賊が住むには過ぎたほどによくできた砦にナナシもネムレスも感心していた。


「盗賊の分際でまあ立派なところに住んでるね」

「見張りもいるわ……うん、意外と身なりも綺麗ね。洗うところでもあるかもしれないわね」

「それにサボってる様子もないし……訓練を受けた騎士崩れか、それともそれほど頭が怖いのか……ま、道具には好都合。事情は関係ないか」


 その砦にいる盗賊は皆、賊とは思えないほどに清潔であり、野蛮でもないようでその様子に色々と想定するナナシ。

 だが最終的には考えても仕方のないことと切り捨て、それでもただの賊ではないようだと頭に入れて注視する。

 相手がただの賊だという先入観を捨ててみればやはりその動きは一定の訓練をされた者たちの動きであることが分かる。

 油断なく周囲を伺う見張りの目は鋭く辺りを射ぬき、小動物の動きで揺れる草の動きにも一つ一つ気づき、それが敵か否かを瞬時に判断しているようだった。

 それでもナナシたちには気づけないのはそれだけナナシたちの潜む技術が異常であることを示している。

 また長時間に渡って立っているのはそれなりに疲れるものだが誰もそんな様子を見せず己の役目に徹している。


「うん……あれは綺麗なままで欲しいな。傷は付けない方向で」

「ってことはこれの出番ね」


 賊の様子に価値を見出したナナシは一切傷つけずに殺すことにした。

 ナナシの提案にネムレスは薄く笑って手を開いたり閉じたりを繰り返す動作をする。

 傷を付けずに殺すのなら丁度いい魔法が闇魔法にはあるのである。


「じゃあ、見張りは無視して中へ潜入。夜に警戒するグループが寝てるだろうからまずはそいつらをやろう」

「ええ、わかったわ」


 いかに盗賊とは思えないほどに練度の高い者たちであり警戒の目を走らせていようとナナシとネムレスの前では無力であった。

 見張りは砦に潜入する二人に気づかず、通すのを許してしまったのだった。

 ネムレスが先導し、十人ほど固まって動かないでいる気配のする建物まで真っ直ぐ向かう。

 この時ナナシたちはお遊びとばかりに闇魔法の認識阻害による方法は使っておらず、純粋に相手の死角を掻い潜りながら静かに行動していた。

 それでも尚誰にも気づかれないほどにナナシは言わずもながな、ネムレスも高い隠密スキルを持っているのだ。


 苦労することなく建物へと入れば狙い通りそこで眠っている者の姿を確認したナナシとネムレスは別れて、それぞれに生命吸収(ライフドレイン)をかけ殺していく。


「あら? 気づいたみたい。来るわよ」

「え? ああ、なるほどね」


 ネムレスの忠告にナナシは少し考え納得したように頷くが問題ないと作業を続け、まずは十体の死体を確保することに成功したところで入り口の扉が開かれた。


「いるのは分かってるぞ!」

「誰だか知らないが隠れても無駄だ」

「……気を付けろ。まったく気配を感じない。隠密持ちだ」


 現れたのは三人の男。

 建物の広さというものを考えての三人であり、すでに侵入者がいることは砦全体にばれているのだろうことをナナシは察する。


「僕たちを探知できなくても誰かが殺されたことは探知できるってことだね」

「そしてそのスキル持ちが三人目かしらね」


 今、ナナシとネムレスはベッドの陰に隠れて小声で話し合っている。

 このまま隠密スキルだけで隠れていればばれてしまうだろう。

 隠密スキルは限りなく見つかり辛くしてくれるものの目の前にいる者の存在を隠すほどではないのだから。

 もっとも闇魔法の認識阻害を使えばこの状況からも気づかれず脱することは可能だった。


「ま、仕方ない。隠密縛りはやめようか」

「りょーかい」


 そして別に隠密スキルだけで行動する必要もないナナシたちは即座に認識阻害を行使する。


「そこかっ!」


 その瞬間ナナシたちが隠れていた場所に探知スキル持ちではない、最初に入ってきた男が突然斬りかかった。

 が、それは空を斬るだけに終わった。


「ちっ」

「そこにいたのか……見えんな」

「まったく見えない……これだけの高い精度だと相当のスキル……もしかして例の闇魔法使いか?」


 敵を逃がして苛々した様子で舌打ちをする男に別の男が話しかける。

 そんな彼らを無視して目の前の状況から闇魔法の認識阻害であることに気づき、そこからある可能性に辿りつく最初にナナシたちを探知した男。

 彼らから怒りこそ感じるが大きな動揺は見られない。

 そんな彼らにナナシたちは少なからず驚いていた。


「こっちは魔力感知かな。発動時の魔力を悟られたみたいだ……助かったよネムレス」

「どういたしまして……賊が私たちのことをある程度知ってるのはともかく頭の回転が良すぎじゃない? 賊でなくてもやっていけるほどに」

「知っているのに動じないってのもおかしいね」


 ナナシたちは本当に間一髪のところで攻撃を逃れていた。

 まさか認識阻害をかけたことで気づかれるとは思っていなかったので油断していたが、そこはネムレスが気配探知でその男の動きをいち早く察知してナナシを引っ張ってその場から逃げたのだ。

 気配探知は相手の場所を知るだけでなく動作を見極めるのにも役に立つものだった。

 一度逃れ認識を阻害している以上、聞かせようと思わなければ会話も漏れることがないため少し離れたところでナナシたちは会話しているのだ。

 例え攻撃を食らっても不老不死なのだから問題がないと言えばないのだが。


「これはますます道具に欲しいね。とりあえず魔力探知と間の男は僕がやるからネムレスは気配を探知してた男を任せた」

「任されたわ」


 普通の盗賊ではないその様子にますます欲しくなったナナシたちは同時に動く。

 もはやこちらを感知することはできない男たちの後ろに回り込むと、魔力感知の男と二人目の男に触れ生命吸収(ライフドレイン)を発動する。

 気配探知の男にもネムレスが同じように魔法を発動していた。


「しまっ……」

「うあっ……」

「おい! ザド! エンバ! くそ、やられたかっ! ……にしてもまったく気づけない……まずいな」

「……ん? 効かない?」

「それもだけど、いくらなんでもこいつ傍で仲間が死んでるのに動じなさすぎよ」


 魔力感知の男と気配探知の男はあっけなく崩れ落ちる。

 だが、今まで探知することもナナシたちの魔力に反応するでもなかった男はまるで効いてないかのようにしていて、事実全く効いていなかった。

 そして傍で仲間が死んでいるのに異常な冷静さを見せるその男にナナシたちは眉を顰めた。

 ナナシはとりあえず短剣を取り出して後頭部から脳に差し入れるように突き刺して殺し、死体を全て回収して少し思案する。


「普通に攻撃が通らないわけじゃないってことは魔法無効化とか? 貴重なスキル持ちばかりじゃないか」

「そうなると彼らが冷静すぎるのも誰かのスキルによるものかしらね」


 もはや明らかに普通の盗賊などではない様子に少し困惑するナナシたち。

 気配探知はともかく魔力感知も魔法無効化もそしておそらく男たちを冷静でいさせるようにしているスキルもどれも貴重なもので、それだけで国に重宝されるような者たちだ。

 そんなスキル持ちがただの盗賊の一員に三人もいるとは思えない。

 気配探知の男だって賊とは思えないほどに頭の回転が良かった。

 これだけ、貴重な人材が揃っているのであれば寝てる間に殺した十人もそれなりの能力を持っていたと考える方が自然である。


「これは騎士崩れでもなく、国の機関そのものだろうね。それもかなりの精鋭で……賊を装ってるけど暗部の部隊ってところかな?」

「何を目的に賊を装ってるのかとても気になるところだけど……どうするの?」

「予定に変更はないさ。でも外に逃げる奴がいないかだけ気にしておいて」

「分かったわ。今のところ外に逃げる人はいないようよ。皆この建物を見張ってるわ」


 その盗賊たちの能力からナナシは推測を立てた。

 目的の方は全く分からないが、ともかく普通の盗賊ではないことが分かった今どうするのかとネムレスはナナシに伺うが、ナナシの考えは変わらない。

 むしろ予想していた以上に使える道具の確保ができそうだと絶対に逃がさないつもりであった。


「じゃ、取りあえずこの建物から出ようか」

「扉開けて出たらさすがにその瞬間こちらの場所は分からずとも攻撃してくるんじゃないかしら?」

「それもそうだね。扉からはやめとこう」


 とにもかくにも出なければならないが、ネムレスがこれだけ手強い相手なのだから注意が必要だと指摘すればナナシもそれに賛同し、影移動によって外へと出た。

 別に正面から出て飽和攻撃により殺されても問題はないのだが、かといって避けれるのなら避けるべきなのである。


 そして先ほどの建物から少し離れた場所で警戒している人たちを見れば建物を見ているわけではなくそれなりに広い空間の中心で十人が円陣を組んで死角をなくしているようだった。

 また、ネムレスが気配探知によって確認したところ、残りの七人のうち六人は円陣を組んでいる一団の反対側、ナナシたちから見て左側にある建物の入り口付近から外を警戒しているようで、最後の一人はその建物の二階にいるようだった。

 建物は先ほどいたものよりも立派なもので、その位置から考えればおそらく二階にいる者がこの一団の長であると推測できる。


 だが、そんな様子を見たところでナナシたちは臆さない。

 そして二人は、とりあえずは広間の中心で円陣を組む十人を殺すことにした。

 どうせ相手に気づかれないだろうからとナナシたちは正面から近づいていく。

 そして広間にある程度出てきたところでナナシたちの左側、一団の長がいる部屋の辺りから何かがかなりの速度で飛んできた。

 それはナナシたちにとっての完全な死角からの攻撃であり、かつ気づかれることがないという油断からナナシとネムレス、それぞれの頭部を貫き、そのまま地面へと縫い付けた。

 意識外からの攻撃で貫かれた二人は声を出すこともできず、死んでしまうのだった。




 ナナシとネムレスを貫いたもの、それは投擲用の短槍であった。

 それを投げたのは建物の二階にいた男、マリク・ヘントルセンという名の男だった。


「所詮自らの力を過信した愚か者だったか。……まさかあんなガキが件の闇魔法使いだとは思わなかったが。なんにせよこれで王国に仇なすゴミを掃除できた。……素直に喜ぶにはいささか多くの部下を失ってしまったな……」


 マリクは砦に侵入した輩を殺すことができたことに安堵していた。

 だが、犠牲も少なくなく、十三人もの部下を失ったことに深い悲しみを感じるのだった。

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