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13話 冒険者は敵を狩る

少し残虐注意(後半)

 翌日、朝早くに目覚め、穴熊亭ではなく大通りに早朝から出されている屋台で朝食を食べたナナシとネムレスの二人は冒険者ギルドへと来ていた。

 何のためかと言えば、当然冒険者として依頼を受けるためである。

 便利だからと手に入れたギルドカードの効力をあげようとランクを上げようという狙いだ。

 とはいえ二人は不老不死であり、見た目は十二歳から成長しない。

 そんな体で高ランクにすれば私は怪しいですよと宣伝するようなものなのでDランクに留めるつもりである。

 Dランクにもなれば冒険者としてそこそこであり、子供でも腕のいい者であればなることも可能と言われる程度のもので、実際十二歳ぐらいの子供のパーティーがDランクで活動しているのは珍しいことでもない。

 子供のパーティでも珍しくないとはいえ、Dランクの冒険者ともなれば一定の信頼が得られる。

 その為比較的安全な旅路の護衛依頼などはDランクから受けることができるのである。


 ナナシたちがDランクになろうというのもこの護衛依頼の存在が大きい。

 ナナシたちは護衛依頼を受けたいのである。

 なぜ護衛依頼なのか。

 それは単に面白そうだからというのがナナシたちの考えである。

 それはもういろんな意味でナナシたちは護衛というものを楽しみにしている。


 もっとも正攻法でランクをあげずともナナシがギルドに潜入して弄ればDランク程度なら自由にランクアップできる。

 実際ナナシたちの実力はかなりのものであり、弄ってもそれが不正かどうかはさておき実力的には何の問題もない。

 だが、ナナシたちはそれをしようとは思っていなかった。

 既に不老不死であり時間はいくらでもある二人にとって道楽として地道にランクを上げるのも苦ではないのだった。




「そんなわけでググルドさん。なんかいい依頼紹介してよ。討伐系で」

「さあググルド、私たちに最高の依頼を用意しなさい」

「いきなり来てなんなんだお前たち……」


 冒険者ギルドへやってきたナナシたちは真っ直ぐ美人の受付のところではなく、その隣にいた三十そこそこの渋めなおっさんことググルドのもとへと向かい、依頼を求めた。

 昨日の今日で随分くだけた態度だが目の前の二人にはその態度を許してしまう微笑ましさがあり、ググルドも嫌そうな顔をしながら二人の態度については好ましいと思っていた。

 その為ググルドは思ってもない文句をブツブツと言いながら依頼を確認していく。


「んーそうだなあ……これとかどうだ」


 そうしてググルドがナナシに手渡した依頼表には西の森に住みついたゴブリンの討伐と書かれていた。


「ゴブリン?」

「ああ、数か月前に発生してたようで森で見かけることが増えてきているんだよ。増え続けられても困るから間引く必要がある」


 ゴブリンは緑色の肌の小人のような魔物である。

 ナナシの前世にあった創作では人を攫い孕ませて繁殖するような話も多かったがこの世界におけるゴブリンは餌として人を襲うことはあっても孕ませるために襲うことは無い。

 普通にゴブリン同士で孕ませて繁殖するのだ。

 だが、その繁殖速度は異常の一言であり、妊娠して一週間で産まれ、それから一週間で完全に成長し戦えるようになる。

 また、数が少ない時は洞窟を掘り、そこでこっそりと繁殖に勤しむため外で見かけるようになるのは十分に繁殖し終わった後の事である。

 その為この依頼もすでにゴブリンが十分な繁殖を終えてしまったために発生した依頼である。


「ゴブリンの巣は見つかったんですか?」

「いや、数を減らす依頼と平行して調査を進めているんだが未だ手がかりすらない状況だな。だからもし依頼中手がかりを持ってきてくれればその分報酬は弾むよ」

「まあ、未だ見つからないってことは巣は奥の方だろうし僕たちが関わることはなさそうですけどね」

「まあな。それでも一応言っておかんといけないからな。で、受けるのか?」

「うん、受けることにするよ」

「はいはい、依頼受領っと。ま、気を付けろよな」


 分かっていると返事を返し、ナナシとネムレスはギルドを出ていく。

 ナナシたちがギルドを出ていったのをみて隣にいた美人の受付がググルドに話しかけてきた。


「ずいぶんかわいらしい冒険者ですね。でもゴブリンとはいえ大丈夫なんですか? 特にまだ巣も見つかってないこの状況ですよ?」

「まあ大丈夫だろ。あいつらはロックウルフの群れを楽々としかも魔石の消耗もほとんどなしに狩る子達だからな」

「ロックウルフを? それはまた見かけによらず大した実力者ってわけですか」

「そういうことだ。ま、心配無用だろうよ」


 ググルドの目は確かであることを知っているその受付はその言葉に安心し、評価されているあの小さな二人の冒険者に感心していた。

 そして、結局ググルドとの会話がそれで終わってしまったことを残念に思うのだった。




「これで二十匹目か」

「確かに数が多いわね」


 ナナシたちはハイレムから西にある森へと来ていて森の中に入って十分ほどでゴブリンと遭遇してから狩りまくっていた。

 狩り始めてから約一時間。

 ネムレスが気配探知をするまでもなくちょっと歩けばゴブリンと出会い即座に狩ってを繰り返してすでに二十匹。

 さすがに多すぎるとナナシもネムレスも判断した。


「でもまあ僕たちの敵じゃないけどね」

「まあ、0がいくら集まったって0だもの」


 多いと言えども見かけに寄らず強力なスキルを保有するナナシとネムレスの敵ではなく、出会った傍から狩られ魔石をはぎ取られている。

 連戦ともなれば疲れがたまり動きがなまるものだが正常であり続けるという不老不死の存在である二人には疲労とも無縁であり、いくら戦えど二人の動きに乱れは一切ない。


「それにしてもやっぱり繁殖系の魔物だと魔石はちっさいね」

「そういうものだから仕方ないわね。これの大元のならもうちょっとマシなんでしょうけど」

「まあ魔物に興味はないけどね」


 先ほど倒した二十匹目のゴブリンから魔石を剥ぎ取りつつナナシはぼやく。

 それにネムレスが言葉を返すがナナシの反応はそっけない。


 この世界の魔物は、魔力溜まりから発生するだけのタイプ、発生してから交尾して繁殖するタイプ、後天的に魔力の影響で魔物化するタイプが混在している。

 ゴブリンはその繁殖するタイプの魔物の代表例であり、その繁殖規模が非常に大きい。

 獣型の魔物も比較的繁殖するが、それは低位の者に限る。

 高位の獣系は魔力溜まりから発生したのちに繁殖することはない。

 だがゴブリンの場合どれだけ高位の存在として発生しても交尾して大量に繁殖するのである。

 そしてその繁殖により増えた魔物はなぜか体内の魔石が小さくなる。

 世代を重ねれば重ねるだけ魔石は小さくなるので冒険者から見れば弱いが数が多くて面倒で魔石も小さく実入りが少ない微妙に嫌われる魔物だった。

 それに加えゴブリンは魔石以外に需要がないので実のところハイレムの街の問題となっているゴブリン駆除はあまり捗っていなかった。

 ググルドが勧めたのもそのあたりの問題があったからである。


 ナナシたちにとってはランクを上げるための道楽でしかないためその点については何の不満も無かった。


「――――――」

「ん?」


 小さな魔石を回収し、また別の場所へと歩き出そうとした時森の奥から何やら叫び声のような音を聞いたナナシはその音が聞こえたほうをじっと見つめる。


「どうやら冒険者のパーティみたいよ。五人がゴブリンの大群に囲まれて戦闘中……いえ四人になったわ」

「ふーん。じゃあここは先輩の冒険者を助けに行こうか」

「分かった、行きましょう。案内するわ」


 戦闘中でよほどピンチであるらしいことを聞いたナナシはすぐさま助けに行くことを決め、気配探知で場所を把握しているネムレスが先を行き案内していくことにした。

 助けに向かうナナシは子供のような純粋で満面な笑みを浮かべ、ネムレスも楽しみで仕方がないように目を輝かせていた。




「くそ……何体いやがるっ!」

「弱音を吐くな! 絶対に生きて帰るぞ!」

「「「おう!」」」


 そこでは無数のゴブリンを相手に四人の冒険者が必死になって戦っていた。

 どうやら冒険者はそれなりの実力者であるらしく背中合わせに四方を向いて各々が一人で正面のゴブリンをなぎ倒しているようだった。

 その中心には冒険者たちの仲間であろう青年が横たわっている。


「おい! ザムド! 大丈夫か!? くそっ気を失ってるのか!?」


 どうやら倒れている青年はザムドというらしくゴブリンと戦う冒険者たちはザムドが死んでおらず気を失っているだけだと思っているようだった。

 それを木の上から確認していた一人の少年がニヤリと笑っていた。


「今助けます!」

「誰だ! いや、誰でもいい! 助けてくれ!」


 突然冒険者たちの耳に入った声に思わず誰かと聞き返すが即座に状況と、その声が言ったことを理解して助けを乞う。

 すると突然冒険者たちもゴブリンもまとめて真っ黒の霧が覆い隠す。


「これは……っ!?」

「説明は後で。脱出します」


 突然の黒い霧に驚きの声をあげる男の背後、つまり冒険者が囲んでいた中心から少年の声が聞こえた。

 そして何かに潜るような感覚の後すぐに視界が開けた。

 男たちが辺りを見渡せば少し先に黒い霧のドームを確認できた。

 それを見て即座に先ほどまで自分たちがいた場所であると察した男たちは確かに実力のある冒険者であった。

 そして助けてくれた人物に礼を言おうとして冒険者の男たちは目を見開いて驚く。

 なぜならそこにいたのはまだまだ成人もして無いような少年と少女だったからだ。


「な……っ!? ……いや、感謝する。ここも危ないだろうから細かい礼は後にしてまずは離れよう。それでいいか?」


 驚いて声を漏らす男だったがすぐに気を取り直しその少年たちに礼を言い、離れようと提言する。

 少年もその言葉に頷き、倒れていた男を担いで森を少し早い程度に走って行った。

 その様子に男たちは助かったと感じながら少年の後を追った。


「ふう……ここまでくれば大丈夫だろう。ありがとう君たちのおかげで助かったよ」

「マジでありがとな」

「礼を言うぞ少年」

「ありがとう……あの俺たちを助けたあれって……」


 ようやくゴブリンたちから十分に離れた冒険者の男たちは大きく息を吐いて落ち着いた。

 助けられた四人がそれぞれ少年に助けられた礼を言ってそれを少年が受けていた。

 そして一人は助けられた時のことが気になるようだった。


「あれは闇魔法です。勝てない魔物から逃げる時とか便利なんですよ」

「そうか……いや、本当に助かった」


 闇魔法ということに少し思うところはあったが闇魔法が悪いのではないことを男たちは知っていたし、何より助けてくれた恩人に失礼なことをするような人間ではなかったため礼を重ねた。


「……うう……どうなったんだ……」

「ザブド!」


 と、そこで少年がここに着いた際地面に静かに降ろされていた冒険者の仲間であるザブドが小さく声を出す。

 それに気づいた男たちが死んでいなかったことに安堵し、すぐさま怪我の具合を確認するために近くに寄って行った。


「……おい! しっかりしろ! ザブ――ぐふっ」

「……は?」

「な……!?」


 いち早くザブドという男の体の調子を確かめようとした男の腹には長剣が刺さっていた。

 そしてその長剣を握っているのは――


「ザブ……ド……?」


 目が覚めたばかりの倒れていたザブドだった。 

 刺された男の腹からは血が溢れ出てその服を染めていく。

 口からも血を吐きながら男は信じられないように自分を刺した仲間の名前を呟く。

 しかし無常にもザブドはゆっくりと立ち上がったかと思うと男の肩に足を置いて無理やり長剣を引き抜いた。


 そんな光景を呆然と見ていた男たちだったがザブドが立ったと同時にハッとなり先ほど自分たちを助けてくれた少年を睨み付ける。


「てめぇ……ッ!」

「なんてことを!?」

「ふざけたことを!」


 ザブドの様子が普通ではないこと。

 そしてそれがザブドの意思ではない事を男たちは察したのである。

 すでにザブドは死んでいてその死霊術で操られていてそれを行っているのが先ほど闇魔法で助けたこの少年であることを理解したのだった。


「ははっ、いいよ……君らのその顔……最高だね」

「クスクス、自分たちの仲間に殺されるってどんな気持ちなのかしらねえ?」


 だが、その犯人である少年とその仲間の少女は笑っていた。

 本当に楽しそうに子供のような笑顔で。

 そこには一切の負の感情を感じられず、そのことに男たちは恐怖した。


「じゃあ面白いものも見れたしバイバイ」

「少しでも長生きできたんだから感謝してよね」

 

 その言葉と共にザムドの死体は男たちに斬りかかる。

 それに対処せざるを得えなくなった男たちの背後から少年と少女は襲い掛かった。

 痛みもなく肉体の限界を超えて襲い掛かるザムドの攻撃は苛烈を極め男たちは対処するだけで精いっぱいであり、その少年と少女の攻撃にまで対応することなど不可能だった。

 そうして間もなく冒険者の男たちは全て殺されてしまうのだった。





「にしても四十体分のゴブリンの魔石か……こりゃあ『グレイブ』の連中が調査から戻ったらすぐに討伐隊を組む必要があるかもしれねえな」

「結構な大事になってきましたね。それにしても四十体のゴブリンと出会ったっていうのも驚きですけどそれをあんな子供達が一日で倒してしまうんですからすごいですね」


 先ほどギルドに依頼を完了した少年少女の冒険者から聞いた情報を聞いてググルドは唸っていた。

 その言葉に美人の受付が相槌を打ちつつ、その情報と四十体分の魔石を持ってた少年少女について感嘆の言葉を漏らしていた。

 そんな会話がされるギルドは少し慌ただしいがそれでもまだ平和なものであった。




 そして、ゴブリンの調査依頼を受けていた「グレイブ」という名のCランクの冒険者パーティはついに戻ってくることは無かった。

 それを受け、事態は急を要すると判断したギルドは討伐隊を編成、大規模なゴブリン掃討作戦が後日実行され、何とかゴブリンが溢れかえるような事態は阻止されたがそれはまた別の話である。

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