2人の約束
「全く、君は一体何をしているの? 入学早々こんなに傷を作って」
祐介が保健室に入って早々、保険の先生はあきれたような表情で彼のことを見る。
現在祐介の顔には氷水の入った袋が当てられている。
これは頬や目は腫れているため、少しでも腫れを引かせるための処置であり一時的なものだ。
「本当は魔法を使えばこんな怪我はすぐよくなるんだけど、お灸をすえる意味でも君はしばらくそうしていなさい」
そういい残すと保険の先生は保健室を出て行った。
祐介はぼんやりした頭で先程の不良とのやり取りを思い出す。
莉奈達の前でいい所を見せようとして不良達の前にわざわざ出て行き返り討ちにあってしまった情けない姿。
祐介は自分の行動を非常に恥ずかしく思った。
吹雪が来なかったら自分はどうなっていたか考えるのも恐ろしい。
自分の無鉄砲な行動に祐介はあきれてしまった。
「全く、考えもなしに突撃するからこんなことになるんですよ」
「お前はいつの間にいたんだ?」
祐介が窓側を向くと窓によっかかりあきれた様子で祐介を見る女神がいた。
「さっきからいましたよ。それよりもあれから大変だったんですからね。莉奈さんはずっと泣いているし、あなたが返り討ちにあった不良さん達も吹雪さんに殴りかかったりして。則之さんが先生を呼んでくれなかったら今頃どうなっていたか‥‥」
「元はといえばお前のせいだからな。お前がチート能力なんてあるって言うからこんなことになったんだろうが」
女神は冷や汗を流しながら祐介から視線をはずした。
彼女が都合が悪くなるとこうして目線をはずし、あさっての方向を向く癖を祐介は把握していた。
伊達に女神と一緒にいたわけではない。
現に今彼女が口笛を吹いている所からもこの話題は彼女にとっては非常に都合が悪いということがわかる。
「おい、何とか言え」
「それよりも皆さん無事でよかったです。終わりよければ全てよしって言うじゃありませんか」
祐介はこれ以上拉致があかないと思い、女神を追及することはあきらめ別の話題を切り出すことに決めた。
元はといえばいきなり不良達に殴りかかった祐介も悪い。
彼女のいい加減な言動を追及するのをやめると共に、自分の行いを反省した。
「それよりもお前が言うチート能力はもう手に入らないってことでいいんだよな」
「はい、申し訳ないですけど‥‥」
そういうと女神は祐介の目の前で頭を下げた。
らしくないと思いつつもこうして頭を下げるということは女神としても結構な失態らしい。
「別に気にしてないよ。元々チート能力なんてあれば儲けものぐらいで考えていたから」
元々体が弱い祐介にとって拳の殴り合いは彼にとって不利であるため、そのような戦い方を好まない。
祐介の本業ははMTを使った魔法戦。
ただ、魔法も中の下ぐらいの実力しかないので、彼がその戦いに勝つためには頭と魔工師としての腕を駆使するしかない。
そのことは祐介の頭の中には既に入っていて、次に同じようなことが合った場合はそのような戦い方をする予定だ。
「俺は魔工師だ。魔工師は魔工師の戦い方をするようにするよ。今日みたいな無様な姿は2度と見せない」
「さすが言うことは一丁前。素人童貞様は一味違いますね」
「左遷された駄女神には言われたくないわ」
祐介と女神が皮肉を言い終えるのと同時に保健室の扉が開いた。
扉を開いたのは莉奈である。
莉奈は女神の姿を見て目を丸くしていた。
「祐介大丈‥‥‥‥って女神ちゃんがどうしてここに?」
「ちょっと祐介さんの様子を見ていただけですよ。それよりも私はもう教室に戻りますので後は莉奈さんに任せます」
そういい終わると女神はそそくさと保健室の外へと出て行く。
最後に祐介に「がんばってください」といい残し出て行く女神がやけに彼の印象に残っていた。
保健室に残されたのは莉奈と祐介の2人っきり。
そのシチュエーションに祐介の胸は破裂寸前である。
目の前の椅子に腰掛ける莉奈も緊張しているのかどこか頬に赤みが差していた。
「あの後大変だったんだからね。みんな呼び出されて先生達に事情を聞かれるは何やらで」
「それはあいつから聞いたよ」
いつもと同じ口調で話す莉奈に対して祐介は悲しく思いながらもどこかほっとしていた。
莉奈がそれから話したことは先程女神から聞いた話と似たような話である。
ただ、先生が来る前に吹雪に殴りかかった不良の1人が返り討ちにあい、救急車騒ぎになったことをこの時初めて知った。
普通なら吹雪は停学処分となるが、あの不良達の前科と莉奈達がことの経緯を先生達に詳細に話したことで吹雪への処分は口頭注意だけですむらしい。
あの不良達はどうやらこの学校でも色々やらかしているらしく、学校でも手にあまっている。
だからある意味吹雪の行いは彼らにとっていい薬になったと教師陣は語っていたらしい。
祐介はというと1週間の自宅謹慎になるかも知れないということを莉奈からこの時聞いた。
「あの野郎、さっきまでそんなこと一言も言ってなかったぞ」
「それはあんたに直接言うとショックを受けると思っていたからじゃないの?」
祐介の顔を見ながら莉奈は盛大なため息をついた。
よくよく彼女の顔を見ると目が真っ赤になっていて顔はどこかはれぼったい。
その顔からは涙を流したということが容易に読み取れる。
「それよりもあんたは大丈夫なの? あれだけやられて」
「何とかな。やっと腫れが引いてきたよ」
そういうと祐介は自分の頬を触った。
莉奈はその様子を神妙な表情で見守るだけである。
「あんたはどうしてあそこで私をかばったの?」
「かばってもないけどな」
苦笑いをうかべる祐介だが莉奈の表情は真剣だった。
それはごまかせる雰囲気ではない。
「ただ、なんとなくだよ。莉奈が手を捕まれているのをみたら、飛び出してた」
「飛び出してたって‥‥‥‥それであんたが怪我してたら元も子もないじゃない」
その瞬間莉奈の目元から涙が零れ落ちたのが祐介にはわかった。
「私が‥‥どれだけ心配してると思ってるの? 馬鹿じゃないの?」
「ごめん」
「謝って済めばいい問題じゃない」
莉奈の顔は涙のせいでぐしゃぐしゃだった。
祐介は莉奈の涙を見て幼少期に彼女を喧嘩でかばったことを思い出した。
その時も今回のように祐介が一方的にやられた所に則之や吹雪達が応援に駆けつけてきくれたことで何とかなった。
あの時と似たような状況に祐介はクスリと笑ってしまう。
しかしその笑いは莉奈に知られることはなかった。
「じゃあどうすればいい? 土下座までなら俺も出来るけど」
「土下座なんかいいわよ。あんたは毎日私のトレーニングに付き合いなさい。そうすればあんなに怪我することもなくなるから」
「わかった。毎日一緒にトレーニングする」
泣きじゃくる莉奈に優しく諭すように言うが莉奈の言葉が止まることはない。
「かかさずだから。あんたが朝来なかったら家まで行ってたたき起こすんだから」
「わかったから。絶対行くから」
それから莉奈は泣き止むまで何度も何度も祐介は莉奈の問いかけに肯定で返した。
☆★☆★
「よかったですね。莉奈さん」
保健室のドアで盗み聞きをしていた女神は満足げに頷いた。
元をたどればそれは部活動勧誘会の時までさかのぼる。
その時、女神達女子グループでは莉奈の悩みについて話し合われていた。
莉奈はこの時、女神や恵梨香に対して自分の悩みを正直に話していた。
『やっぱり吹雪の情報と同じだったか』
『同じって‥‥‥‥吹雪も知ってるの?』
『吹雪さんどころか則之さんや祐介さんもみんな知っていますよ。吹雪さんの家にもそのような打診が来たって。彼は莉奈さんのお気持ちを汲んで断られたらしいですけど』
『そうなんだ』
『で、その許婚って解消すること出来ないのか?」
『無理だと思う。その人魔法の才能もあって有能な人だから』
『そうですか‥‥‥‥ではそれよりも有能な人をがいればその人でもいいんですよね?』
『おぉ~~女神ちゃん冴えてる。それいいじゃん』
『でも、私はそれ以外の人でも結婚したくないよ』
『じゃあ祐介さんならどうですか?』
『何で今祐介が出てくるのよ』
『維持を張らなくてもいいじゃん。莉奈は祐介のことが好きなんだろ?』
『別に‥‥私は」
『維持を張っている場合じゃありません。好きなんですよね?』
『白状しろよ。あたし達にはまる分かりなんだからな』
『(コクッ)』
『よっしゃ、莉奈が認めたし、祐介と莉奈が結婚できる方法でも考えるか』
『結婚!?』
その後は驚く莉奈を尻目にあの不良達に絡まれるまで3人で議論を尽くした
その結果3人でだした結論が祐介を徹底的に鍛えて、許婚よりもいい男にする作戦である。
魔法の技能は確かに驚異的には覆すことは出来ないが、小さいうちから積み重ねていればある程度の技能は身につく。
それに莉奈の結婚は6年後の高校卒業時。
そこに恵梨香と女神は目をつけたのである。
魔法の技能に加え、徒手空拳や礼儀作法も身につければいくらなんでも莉奈の父も認めてくれると思い立案した作戦である。
「これでうまく進めば‥‥ふふっ、私の左遷もなくなりますね」
思わず女神は2人のこれからに期待をしてしまい静かにほくそ笑んだ。
ただこの時女神は想像していなかった。
祐介が超がつくほどの運動オンチで、人並み以上の運動能力をつけるのがどれほど大変だということを彼女が知るのはもう少し先であった。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただければうれしいです。




