当主と次期当主
「ほぅ、今度は芸能事務所の見学に行くのか」
「あぁ、そうだ」
サニーサイドアッププロダクションに行ってから数日後、吹雪は週末に恵梨香が所属する予定となっている芸能事務所の見学に行くため、父に許可を貰うため書斎にきていた。
吹雪のいる三枝家も莉奈の九条家程でもないが色々と忙しい。
そのため、週末時間を空けてもらえるように父に相談していた。
「あの黛の嬢ちゃんも色々と頑張っているんだな」
吹雪の父に今回の件について全て説明をすると、父は恵梨香の行動に関心している様子でもあった。
「それで来週末の稽古は休みたいんだが‥‥‥‥」
「あぁ、そう言う理由なら別に休んでも構わない。存分に見学して、おまえ自身の目で正常な事務所運営が出来ているか見定めてこい」
吹雪の父はそう言うと快活のある笑み吹雪を見る。
その笑みはどこか子供が笑うように幼く見え、かえって吹雪を不安にさせた。
「親父」
「何だ吹雪」
「1つだけ、聞きたいことがある」
「何だ、言って見ろ」
吹雪はどうしても自分の父親に聞きたいことがあった。
それは三枝家の会議の時から感じていたいいようもない不安でもある。
「どうしてこんなに俺の我侭を聞いてくれるんだ? 俺は三枝家の次期当主候補なのにこんなに自由でもいいのか?」
吹雪は生まれた時から三枝家に縛られていた。
長男として三枝家に生まれた人間は、どんなことがあっても三枝家の意向に従わざる得ない。
日笠の家の家督争いの事件も、則之の方に肩入れしたい気持ちを押し殺し吹雪は三枝家の代表として仲裁に行った経緯もある。
そんなに自分がこんなに好き勝手していていいものかと吹雪はずっと悩んでいた。
「恵梨香の件でもそうだ。俺は本来ならば謹慎しなければいけない立場のはずなのに見学の件もOKして、俺は親父が何を考えているのかわからない」
三枝家の次期当主候補は品行方正でいなければならなく、余計な行動をしてはいけない。
それなのに父は自分の独断行動を肯定する所か、自分に三枝家が所有する部隊まで貸してくれた。
幼少から厳しく吹雪に接してきた父が突然の針を転換した理由を吹雪は問う必要がった。
父はあくまで笑みを絶やさずに口を開く。
「もうお前も中学生だ。小学生じゃないんだから、自分で行動できるだろう。そう思ったから多少のことは多めに見るようにしただけだ」
吹雪の父は吹雪のことを真っ直ぐ見つめる。
吹雪を見る父の真摯な瞳は嘘偽りのないものに見えた。
「それと最近お前は妙に生き生きとしていたからな。昔なら生徒会選挙なんて三枝家の許可が出なきゃお前は出なかっただろ?」
「親父は何でそのことを知っているんだ?」
吹雪はまだ生徒会選挙の話は父にはしていない。
それなのに選挙の情報を知っているのはどう考えたっておかしいと思った。
「九条家の当主が話してくれたんだよ。この前九条家に行く用事があってその時にな」
1人豪快に笑う吹雪の父親に対して、莉奈にはあまり自分の話をしないようお願いしようと吹雪はこの時思った。
父は余程吹雪が立候補したのがおかしかったのか、笑い続けている。
「まぁ俺が今言った通り、どうやらお前は九条の嬢ちゃん達と一緒にいる方がいい様な気がするからな」
吹雪の父はそう言うと立ち上がり部屋を出ようとする。
「親父」
「とりあえず、少しの間自由に行動しても文句は言わないから。たまにはお前の好きなようにやってみろ」
吹雪の父はそう言うと書斎から出て行った。
残された吹雪の心の中では形容しがたいもやもやだけが残り、かえってそのことが吹雪を苦しめていた。




