不穏な影
数日後、九条莉奈は祐介達と別れると真っ直ぐに家へと向かった。
あれから莉奈は小学生の時以上に祐介と一緒にいる時間が増えていた。
その理由は吹雪が委員長を祐介に譲ったことにより、男子の委員長祐介に決定したことで先生の手伝いを2人ですることが多くなったからである。
一部男子からは反発が起きたが、吹雪がそれらを黙らせたため今の所特に問題は起きていない。
それからは学年会議のたびに祐介と一緒に会議室に向かい、先生の手伝いに呼ばれた時も彼と一緒にやっている。
そのため莉奈は前以上に祐介を意識するようになっていた。
特にノートやプリント類を持つ時、祐介が重いものを率先して持つので莉奈としてもその辺が祐介のポイントを上げている。
そして彼女は今日もうかれた気分で自分の家の門をくぐった。
「ただいま」
「お帰りなさい。莉奈、ちょっと話があるのでこちらにきなさい」
莉奈が玄関に入ると待ち構えていた母親に捕まり、そのまま応接室に入る。
応接室に入るとそこには父親ともう1人莉奈と同じくらいの年の青年がいた。
「帰ってきたか。まぁそこに座りなさい」
父に促され、父とは反対側のテーブルに座る。
この時莉奈は隣にいる少年を覗き見た。
髪は男性の割には長く、目が大きい。
それでいてどこか爽やかさをあわせた憎めない少年だった。
「ここにきてもらったのは他でもない。実は紹介したい人がいてな‥‥」
「初めまして。莉奈さん。僕は四条純一と申します」
そういい、隣の青年は莉奈に向かって微笑みかける。
いきなり声をかけてきた少年に対し莉奈は嫌悪感を覚えた。
「お父様、これはどういうことですか?」
父親に詰め寄る莉奈の表情は険しくなっていた。
膝に添えた手に握り拳が出来るほどに莉奈の怒りがかいま見える。
「それはだな‥‥」
「お義父様、その辺も莉奈さんに言ってしまっても宜しいんではないですか?」
「お義父様? 私のお父様はあなたのお義父様ではないはずですが? あなたはなぜそう呼んでいらっしゃるのですか?」
隣の青年が発した意味深な言葉を莉奈は見逃さなかった。
莉奈の父は隣の青年を一瞥して、やがてあきらめた表情をうかべ莉奈の質問におとなしく答える。
「実はな‥‥‥‥気が早いと思うが彼を君の婚約者にしようと思っている」
「こんっ‥‥!」
莉奈はあまりの驚きに言葉が出なかった。
九条家は莉奈と妹2人の3人姉妹なので、長女の莉奈が婿養子を取ることは決まっていたことである。
ただ、それは高校を卒業してから婿養子を取る話であったはずだ。
自分の父が約束をたがえ、そのような重要なことを勝手に決められたことに莉奈は憤りを感じた。
「その様な話は高校まで待つという約束ではないのですか?」
「この前の会議で婿を決めるのは早いほうがいいという結論が出てな。彼は君と同い年で、卓越した魔法制御の能力と才能を持っている。将来的にはきっと優秀な魔法師になっているから是非にとこちらからお願いしたんだ」
「ですが‥‥」
「莉奈、これは九条家の会議で決定したことだ。何、結婚するのは高校卒業だからまだ先になる。今はまだあまり意識しなくてもいい」
「はい」
父に諭される莉奈の表情は先程までとは打って変わり見る見るうちにしぼんでいった。
★☆★☆
「______莉奈、莉奈ったら」
「どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃないよ。今日は理科室で実験があるんだから実験用具を準備するように先生に言われていただろ?」
「そうね。早く行かないと」
そういい、教室を出る莉奈のことを祐介は心配そうに見つめる。
「これは怪しいですね」
「お前はいつの間にそこにいたんだ?」
祐介が後ろを振り向くと、いつの間にいたのか女の姿があった。
「私のことはいいんです。それよりも莉奈さん、今日はなんかおかしくないですか? 朝からずっと考え事をしているみたいでうわの空ですよ」
「そうなんだよ。どこか莉奈らしくない」
祐介もそのことには気づいていた。
莉奈が授業中も教科書を見つめながらため息をついていたり、こちらをチラチラ見ていることは祐介にもわかっている。
彼女が何かを抱えていることはわかるが、その原因が何なのかわからず祐介は困っていた。
「きっと無職素人童貞の甲斐性なしでワイルドさのかけらもない祐介さんに幻滅してしまったんじゃないですか?」
「待て、この前より罵倒が酷くなっているぞ」
困った表情をしているのにさりげなく自分を罵倒する女神に、一度本気で喧嘩をしなくてはならないとこの時祐介は思った。
「何か心辺りはないのですか?」
「そういわれてもわかるわけないだろう。でも、以前もこんなことがあった気がする」
祐介は確かこの時期に莉奈がこのように自分に対してよそよそしくなったのを思い出した。
あの時は祐介は何も感じなかったが、今こうして考えると莉奈の行動はどこかおかしい気がする。
「なるほど、わかりました」
「わかったのか?」
祐介の方を見て不適に笑う女神。
その姿は邪心にも見えなくはないがそのことを祐介は自分の胸に押しとどめる。
「ずばり、これは莉奈さんが祐介さんを誘っているんです。もう少し強引にガンガン押して、その勢いで押し倒してしまって2人は禁断の愛を‥‥‥‥ってやめてください。私の自慢の髪を引っ張らないで下さい」
適当なことをいう女神の髪を無言で何度か引っ張った後、祐介も理科室に向かう。
理科室の中に入ると莉奈が各班のテーブルに実験道具を置いていた。
「ごめん。ちょっと厄介な奴に引っかかってて」
「大丈夫だよ。そんなに時間かからなかったし」
そういうと莉奈ははにかんだ笑顔を浮かべるが、その笑顔はどことなくぎこちない。
そして2人で実験の準備を進めていき、準備は順調に進んでいった。
「そういえばさ‥‥‥‥莉奈は何かあったの?」
「何が?」
「いや、なんかいつもと様子が違うなって‥‥‥‥」
「そうかな?」
そういうと莉奈は実験器具を机に置くとそそくさと別の机へと持っていく。
「勘違いならいいけど‥‥‥‥何かあるなら相談しなよ。俺じゃなくても恵梨香や則之それに吹雪もいるから」
「うん」
力のない返事をする莉奈は最後の器具を机に置き終えた。
これで先生の頼まれごとは全て終了した。
「これで完了か」
「祐介はさ‥‥」
消え入りそうな莉奈の声に振り返るとその顔は辛そうだった。
まるで何かに耐えているように祐介は見えた。
「なんだ?」
「もしだよ‥‥もし自分の意思に反してさ、他人に全てのことを決められていたらどうする?」
「どうするって言われてもな‥‥」
祐介は莉奈の返答に窮してしまう。
ただ、その返答はとても重要なように感じた。
「俺は、それでみんなが幸せになるのならそれでいいと思うけど」
「みんなが幸せ‥‥」
「そう、結局自分が決断したことでみんなが幸せになるならそれでいいと思う」
これは祐介が転生前から自分に言い聞かせていたことである。
自分の決断で全員が幸せになるならそれに越したことはない。
そのワードを莉奈が聞くとにこっと笑った。
ただ彼女が見せる笑顔は祐介を不安にさせるのに十分であった。
「そうだよね。ごめんね、突然変なこと聞いて。」
見た目はいつもの莉奈である。
だが、どこか彼女に違和感を感じるが祐介はその違和感が何なのか分からない。
莉奈が自分の側から離れていってしまう、そんな焦燥感が祐介を襲っていた。
「あっ、チャイム鳴ったからみんな来るよ。祐介も早く座ろう」
「あぁ」
短く返事をする祐介はその違和感の正体がつかめないまま、5時間目の授業を迎えた。
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