背水の陣
祐介は莉奈達と一緒にホテルの最上階へ上がると手元の携帯に目を通し、辺りを見回す。
3人が降り立った最上階の廊下には赤いじゅうたんが敷かれていて、周りの壁は清潔感を出すためか白に統一されている。
最上階にある部屋の数は途方もないが、玲奈から貰った入室記録のおかげでどこへ向かえばいいのかはすでに検討がついていた。
「祐介、早く行こう」
「そうです。早くしないと恵梨香さんが大変なことになります」
「わかってる。早く恵梨香達のいる部屋に‥‥‥‥」
「お客様、どうかしましたか?」
恵梨香のいる部屋に行こうと足を向けると、ホテルマンらしき服装の人物が祐介達の所へと歩み寄ってくる。
ホテルマンは祐介達のことをあからさまに疑っており、3人は険しい視線を向けられた。
「私達は‥‥」
「すいません。実は部屋の場所を忘れてしまって。このホテルって部屋の数が多くてどうしてもわからなくなるんですよね」
「あぁ、わかります。時々そういうお客様がいらっしゃいますから」
ホテルマンも祐介達に対して物腰の柔らかい対応をするが、いまだに祐介達のことを警戒している。
「お客様はお部屋の鍵をお持ちではないのですか?」
「あいにく持っていなくて、面目ありません」
「困りましたねぇ。何か手がかりになるようなものはありませんか?」
ホテルマンも能天気に話す祐介のことを困り顔で見る。
「実はこの写真の女の子がいる場所なんですが、見覚えありませんか?」
祐介は先程ひそかに撮った恵梨香の所属しているアイドルグループの写真をホテルマンの男に見せる。
ホテルマンの男に恵梨香がいる所を指差すと、ホテルマンは頬杖をついた。
「あぁ、この方は私が先程ご案内したのでよく知っておられます。そういえば貴方はあの方とどういう関係で?」
祐介達に対して厳しい視線を送るホテルマンに対して莉奈と女神はひるんでしまう。
どうするか考えていると祐介のわき腹がこつんこつんと叩かれ、叩いてきた莉奈のを向く。
莉奈は祐介の耳に顔を近づけ小声で話す。
「ちょっと、祐介」
「莉奈? どうしたの?」
「どうするのよ。ホテルマンの人、かなり怪しんでるわよ」
「大丈夫だから。俺に任せて」
祐介は心配そうな莉奈を尻目に、ホテルマンの方へと向き直る。
「どうされましたか?」
「あぁ、すいません。実は彼女が叔父さんのことを怖がっているみたいで」
「申し訳ありません。宿泊しているお客様のプライベートを守るのも我々の仕事なものでして」
「わかります。父にもそのことはきつく言われています」
「お父様ですか?」
祐介は自信満々にホテルマンの人の顔を見て言う。
いざという時のために祐介はポケットに入っているMTを静かに握りこんだ。
「そうなんです。実は今日のイベントでアイドルに会えると聞いたもので、父にお願いして連れて来てもらったんですよ」
「そうなんですか? それにしても年齢がお高いように見えますが?」
「何を言ってるんですか? これでも僕達3人はまだ中学1年生ですよ」
祐介が2人の背中を軽く叩くと2人はビクッと肩を震わせる。
今日のパーティーには年齢が割りと高めの人達が揃っていることを祐介は玲奈に渡された参加者名簿を見て把握していた。
そして数こそ少ないが自分達と同じ位の年齢の家族連れと思われる人達も確かに参加していた。
そこで祐介は咄嗟に自分は恵梨香を連れて行った男の家族を装うことにし、ホテルマンを欺けないかと考えた。
「この2人も私の友達なんですけど、アイドルに会いたいって言ったら2人共どうしても来たいっていっていたもので、父にお願いして無理矢理参加させてらったんです。それで会場に来たらアイドルと個人面談できると聞いたので父に頼んでこの子を指名するようお願いして部屋で待ってもらっているんですよ」
「それでその後はどうしたんですが?」
「僕は友達に自慢したかったからこの2人を探しに行って合流したまではよかったんですが‥‥‥‥」
「父親から聞いた部屋番号を忘れてしまい、困っていたということで合ってますか?」
「面目ありません。初めは部屋をしらみつぶしにノックしようと思ったんですが、ホテルマンの叔父さんが父のことを知っていてくれて助かります」
ホテルマンは祐介達の腕についているゴム製の腕輪を確認するとあきれたようにため息をつく。
ホテルマンには金持ちの馬鹿な坊ちゃんと思われただろうが、そのような印象を付けることが祐介の狙いでもある。
その作戦が成功したことをホテルマンの散漫な態度から見て取れた。
「わかりました。それではお部屋にご案内させていただきます」
「ありがとうございます」
元気よく返事をするとホテルマンの人は祐介達の前をゆっくりと歩き始めた。
ゆっくりと散漫な態度を取るホテルマンの姿に祐介は2人の方を横目で確認すると、2人は驚いていた。
「珍しく祐介さんの作戦がはまってますね。咄嗟に考えたとは思えません」
「珍しくは余計だ。俺の作戦はいつも完璧なんだから」
「2人共、どういうこと?」
女神は祐介が咄嗟に考え付いた作戦を汲み取ったが、莉奈はいまいちピンときていない。
祐介は莉奈の方を向いて小声で優しく状況を説明する。
「今、俺達はホテルマンに部屋を案内してもらってるんだよ」
「それぐらい私にだってわかるわよ」
莉奈は不満そうな顔で祐介を見る。
きれいであり、尚且つ可愛い表情の莉奈に対してドキッとしながらも毅然とした態度で祐介は莉奈に接する。
「それじゃあ質問、恵梨香がいる部屋の人が俺達のことを見てどう思う?」
「普通なら『誰?』 って怪しむよね」
「そうです。その怪しむ一瞬の隙をついて、強引に部屋の中に入るんです。そして恵梨香さんを救出します」
「だからMTの準備だけはしといて。何が起こるかわからないから」
祐介の説明が終わると莉奈もこわばった表情をする。
角を曲がり恵梨香がいる部屋の所へ差し掛かったとき、ホテルマンと一緒に廊下で黒尽くめの怪しい3人の人物を発見した。
「誰だ」
ホテルマンが叫び声を上げると同時に祐介の視界に黒尽くめの男が1人、ホテルマンへと飛び掛ってくるのがわかった。
その男はあっさりとホテルマンの鳩尾を拳で殴りつけ、ホテルマンを無力化してしまう。
後から曲がり角を出てきた莉奈と女神もホテルマンが床に崩れ落ちる様をはっきりと見ていた。
「2人共下がって」
祐介が莉奈と女神に指示すると同時にホテルマンを襲った黒尽くめの男は祐介に飛び掛ってくる。
黒尽くめの男が放ってくる拳をギリギリのところで裁きながら、祐介は1歩1歩後ろへと後退していった。
「(こいつの拳は早いし、それに重い)」
それがこの黒尽くめの男と対峙した祐介の感想である。
毎日九条家の道場で対峙している魔法で強化した莉奈の拳以上に、一撃一撃が重い。
莉奈の拳を見ているからこそ対応が出来ているが、反撃をする隙も敵は与えてくれない。
戦況も祐介が押されている一方で、いつ黒尽くめの男の一撃を浴びてもおかしくはない状況である。
「‥‥っつ。避けきれない」
「炎の壁」
莉奈の声が廊下中に響くと同時に、祐介と黒尽くめの男の間に炎の壁が出現し、黒尽くめの男が1歩下がった。
それと同時に莉奈が慌てて、祐介の横によりそい女神は祐介の1歩前に立つ。
「莉奈、女神、お前らは早く逃げろ」
「馬鹿。私達のことよりも自分のことを心配しなさいよ」
莉奈は祐介の横で心配そうにそうささやく。
「ダメだ。ここは危険だから、下がってて」
「そういって、この前廃墟でボロボロになってたのはどこの誰よ」
「そうです。私は体術は苦手ですが魔法を絡めればあんな奴らなんかに負けません」
そう言うと2人はMTを黒尽くめの男に向けながら、威嚇をする。
黒尽くめの男もひるみながらも懐から銃の形をしたものを取り出した。
「銃ですか!?」
「女神、違う。あれはMTだ」
そう言うと祐介も手元からMTを取り出し、迎撃の態勢と取る。
「莉奈、気をつけて。あいつら相当戦いなれている気がする」
「わかってるわよ。そもそも何で恵梨香の部屋の前にあんな怪しい奴らがいるのよ? 恵梨香はただのアイドルよ」
「そんなの知るか。とりあえずこのまま後ろに逃げて姉さん達に応援を‥‥‥‥ってふせろ」
祐介が大声を出した直後黒尽くめの男が魔法を放つ。
その弾道は祐介達の後ろの廊下を狙ったもので下の床に直径3mほどの穴が大きな穴がぽっかり空く。
その穴のせいで退路を塞がれ、祐介達は嫌がおうにも黒尽くめの男達と戦わないといけなくなった。




