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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と魔工技師
4/57

勘違い

 次の日、祐介は鏡に映る自分の姿を見て驚きを隠せないでいる。


「これは本当に俺なのか?」


 昨日の帰り道に莉奈と女神の3人で商店街に行ったときの出来事。

 女神の不用意なこんな発言から祐介の改造は始まった。

 

「祐介さんってちゃんとすれば格好いいと思うんですよね~~」


 そのことに同意した莉奈と女神によって祐介は美容院に連れて行かれることとなった。

 普段は床屋で済ませる祐介だったので、美容院へ行くこと事体が始めて。

 そんな彼は莉奈行きつけの美容院へと連行され、現在のような髪型に変更させられた。

 彼女達が店員にオーダーしたのはマッシュショートといわれるヘアースタイル。

 ふわっとしたボリュームと無造作な動きが出来るように仕立てられた髪形である。

 その後、祐介は莉奈達に進められ眼鏡屋に行き眼鏡からコンタクトレンズに変更した。

 髪を切りコンタクトに代えた祐介の姿に莉奈は見惚れていて、女神は満足そうにうなずいていたことは記憶に新しい。

 最初は2人のことを忌々しく思っていたが、今となっては2人に感謝せざる得ない。

 ピンポーンというチャイムとともに、祐介は鞄を持ち玄関を出る。

 玄関を出ると待ち構えていたのはあの憎たらしげな女神だった。

 今日も今日とてニコニコ笑っている女神が祐介を見つめている。

 

「どうしたんだよ? こんなに朝早くから」


「いえ、これからの作戦を話そうと思いまして」


「作戦?」


 嫌な予感がするが、祐介は女神のその言葉を黙って聞くしかない。


「そうです。5年たたないと莉奈さんの好意が分からないというこのへたれなくず虫のために私がプランを立ててあげました」


「待て、その作戦を立てる前にくず虫発言を訂正してもらおうか」


「まずは莉奈さんと同じ‥‥」


「おい、駄女神俺の話を聞け」


「『駄女神』とは何ですか? 私は『女神ちゃん』という可愛らしい愛称が‥‥」



 こうして祐介と女神の言い合いは遅刻ギリギリまで続けられることとなり、2人は登校をしながら作戦会議を行う羽目になる。

 そしてギリギリに教室につき、行き着くまもなく1時間目の授業が始まる。

 入学式の後ということで、本日は学校での委員会や係り決めを行う予定となっている。

 壇上の先生が黒板に所属できる委員会を書く中、祐介は隣の莉奈を見やる。

 隣の莉奈は朝から不機嫌な表情を隠そうともしない。

 何故こんなに莉奈が機嫌が悪いのかいまいち理解できていない祐介であった。

 

「何よ‥‥こっち見ないで」


 莉奈は朝からずっとこの調子である。

 朝女神と祐介が話した作戦では、莉奈と同じ委員会に入って少しでも親密になるという話であった。

 そうすることで学園で起こるイベントが発生しやすくなり、莉奈が攻略しやすくなるらしい。

 ちなみに祐介は『それは何の知識だ』と聞いた際、『ギャルゲーです』と胸を張って言う女神を見て頭痛を覚えた。

 そして本当に金髪で容姿がいいのにも関わらずギャルゲーが趣味の少女が女神かどうか問いただしたくなる衝動を押さえたことは記憶に新しい。

 

「ごめん‥‥ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」


「私は可愛い女の子をはべらして学校に来る人とは話したくありません」


「ぐぅ」


 彼女が怒っている理由がなんとなくわかった祐介だが返答に臆してしまう。

 とりあえず変な誤解を与えた女神には後で制裁を加えようと考えつつも、莉奈がどの委員会に入るか聞き出す作戦を続行する。

 

「それじゃあ、まずは学級委員から決めるから。自選他薦問わないから言ってみなさい」


「はい、先生」


 そういい、真っ先に手を上げたのは恵梨香である。

 ただ、これは確実に自薦ではないことが祐介には分かる。

 彼女の性格上、このような面倒くさい役職は人に押し付けてくる。

 

「黛さん、立候補?」


「いえ、私は莉奈‥‥いえ、九条さんが適任だと思います」


「わっ、私」


 その瞬間、クラスの全員が莉奈のことを見た。

 莉奈は緊張で顔を真っ赤にしながら俯いている。

 祐介は莉奈が気が強い割には恥ずかしがりやなことを転生前の出来事で知っているため、別段驚きはない。

 面倒見がいいためこういうことには非常に向いているのでむしろ賛成である。

 

「九条さん? 黛さんはそういっているけどどうする?」


「‥‥受けます」


「それじゃあ決定ね」


 こうして女子の委員は莉奈にあっさりと決まる。

 残りは男子の委員のみとなった。

 祐介としてはここは立候補するべく立場なのだが、一向にその立場を表明しない。

 

「先生、僕委員をやってもいいです」


「いや、俺こそが九条さんにふさわしい」


「いや、俺が‥‥」


 そういって複数の男子がさっきまで誰も手を上げなかった学級委員に立候補してきた。

 彼らの大方の目的は莉奈とお近づきになることである。

 莉奈は見てくれはいいので、こうして周りの男子が群がることが結構な頻度で訪れる。

 いつもは祐介や恵梨香達といるからあまりそのようなことはないが、こうした機会に近づこうとする人達が後を絶たない。

 祐介は女神から向けられる『お前も立候補しろ』的な視線をひしひしと感じるが手を上げる気配がない。

 彼は転生前の知識からこの後どのような展開になるかを知っていた。

 そのため、ここは逆に手を上げなくてもよい。

 

「もう、立候補が多いわね。しょうがないわね。九条さん、あなたが男子の委員を推薦で決めてくれない」


「え‥‥‥‥分かりました」


 先生は莉奈に全てをゆだねると彼女は落ち着いて返事をした。

 しかし、彼女の内心は驚いていることを祐介は察知している。

 今も祐介の方をチラチラと横目で見ているのでこの後の展開も彼は手に取るようにわかっている。

 

『じゃあ、祐介やってくれる』


『俺?』


『そう、お願いできない?』


 そうもじもじしながら莉奈が祐介の方に指を刺して、祐介を指名するのだ。

 転生前はこのような展開で学級委員が決められた。

 ただ、目立つことが苦手な祐介はこの申し出を拒否してしまい吹雪が委員長、祐介は給食委員になった。

 そのことを祐介は後悔している。

 だから今回こそはと祐介は自信満々である。

 次の瞬間、莉奈の手が上に上がり、誰かを指差そうとした。

 その瞬間、祐介の顔から笑みが漏れた。

 そしてその指の指す方向は‥‥。

 

「あっ、三枝君がいいのね。三枝君、委員長を引き受けてくれる?」


「わかりました」


「えっ」


 以外にもあっさり決まってしまった委員長の方を眺めた後、祐介は莉奈の方を呆然と見つめていた。

 





☆★☆★






「クスクスクス‥‥『莉奈は自分を指名してくれる』ですって。自意識過剰の思い上がりもここまで来ると滑稽ですね」


「こんな‥‥こんなはずでは‥‥」


 放課後に女神は祐介を呼び出し昨日話した廊下につれて来た。

 祐介の表情は先程と違って暗く、その原因は先程の委員決めである。

 結局あの後、呆然としていた祐介は女神とともには給食委員会に配属となった。

 莉奈と別の委員会になったことに祐介のショックは計り知れないほど膨大である。

 

「全く、無職童貞のニートはこれだから困りますね。人生はギャルゲーほどうまくいかないものですよ」


「うるさい。確かにあの時は無職だったが童貞は余計だ。俺にだって経験ぐらい‥‥」


「すいません、素人童貞でしたね。訂正します」


「‥‥‥‥」


 祐介は隣で勝ち誇る忌々しい女神をどのような目にあわせようか思案していた。

 

「だから立候補すればよかったんですよ。私の言う通りにしないから」


 祐介は恨めしげな視線を女神に送るだけである。

 最初は彼も悩んだが、立候補をすれば莉奈にがっついているように見えると考え、彼は彼女が推薦をしてくれることを待つことにした。


「その結果があれですもんね。どうするんですか? もう作戦はありませんよ」


「待て、登校中は作戦が山ほどあるように言ってなかったか?」


「そんなの委員が同じに決まったらに決まっているじゃないですか。おかげで想定していたイベントが全て水の泡ですよ」


 すがすがしいほどの笑顔で見る女神に対して、祐介は殺意が沸いた。

 

「このやくたたずの屑女神め。お前は何のために地上に降りてきたんだ?」


「はぁ? あなたこそ素人童貞のくせに勝手気ままな行動をするからこんなことになるんですよ」


「お前とはどっちが上か決着をつけた方がよさそうだな」


「上等です。必殺の女神ちゃんパワーをなめないで下さい」


 2人が睨み合っている所で祐介達の所へある人物が近づいてくる。

 それは祐介も見知った顔の男であった。


「吹雪‥‥」


「気づいたか‥‥祐介すまないが話がある。女神‥‥ちゃんはちょっと席をはずしてくれ」


 いまだに『女神ちゃん』と呼ぶことに抵抗があり、恥ずかしげに顔を赤らめる吹雪について行く。

 吹雪の後ろについていった祐介が階段を上るとそこは屋上だった。

 そして屋上のドアを開けるとそこには見覚えのある1人の黒髪美少女が中央付近にたたずんでいる。

 

「莉奈‥‥」


「祐介‥‥」


 祐介が屋上に足を踏み入れると背中のドアがばたんと閉じられてしまった。

 ドアノブをまわそうにも後ろから何か強い力で抑えられていて開く気配がない。

 

「吹雪、開けてくれ」


「2人とも少しそこで頭を冷やせ。頭が冷えたら開けてやる」


 吹雪にそう言われ、祐介は莉奈の方を振り返る。

 彼女はどことなく悲しそうな表情でこちらを見ていた。


「(こんな変な雰囲気の時にどんな声をかければいいんだよ)」


 先程からチラチラとこちらを見る莉奈はどことなく何かを言ってほしそうにしている。

 満を持して祐介が発した第一声は非常に情けないものになる。

 

「いい天気だな。太陽もあったかいしいい日和だ」


 祐介の突然の声に莉奈も驚いているようだ。

 そんな莉奈もやがて悲しい表情からどことなくぶすっとしたすねた表情へと変化する。

 

「そうね。もう春だもん」


「こういう時はお花見でもしたいもんだな。吹雪や則之、恵梨香も誘って」


「祐介は女神ちゃんは入れなくてもいいの?」


「何であいつを入れるんだ? あいつはうるさいだけだしいつものメンバーだけでいいだろう」


 女神の名を出すたびに莉奈の顔が悲しみの表情をうかべるのが祐介にはわかった。

 ただ、何で女神の名を出すとそんな風になるのかがいまだに分からない。

 

「祐介は女神ちゃんのことよく知ってるんだね」


「いいや、悪いがあいつのことは俺もよくは知らん。ただ、俺をからかって面白がっていることはわかるな」


 莉奈の方を向くと彼女は複雑な表情をうかべていた。

 それは自分の感情をどのように表していいかわからない、そんな風に受け取れた。

 

「その、祐介はやっぱり女神ちゃんみたいな子の方がいいのかな?」


「俺はあんなやつはいらんよ。どちらかというと莉奈みたいな‥‥」


 そこで祐介は自分が墓穴を掘ったことに気づいた。

 彼の方を見る莉奈の顔は耳まで真っ赤に染まっている。

 口に手を当てていることからも彼女の動揺する様が如実に分かった。

 

「すまん。どちらかというとって話だ。莉奈とあいつなら俺は断然莉奈の方がいいって話で‥‥」


 莉奈の方を見ると彼女はクスクスと笑っていた。

 その顔からは先程までの悲しみの表情は見られない。

 

「じゃあ、私と女神ちゃんどちらかを選ぶとしたら祐介は迷わず私を取ってくれるんだ」


「どちらかといえばだ。もし2人のどちらかを取るって話だからな」


 祐介はあまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になりどこかに隠れたい。

 見る人が見ればこれは告白と取られてもしょうがないので、どうしていいのか彼にはわからなくなっていた。

 祐介の顔を見る莉奈はクスクスと笑いながらも照れている祐介を楽しそうにみていた。

 

「じゃあ、祐介がその髪型にしたのは‥‥‥‥」


「それはお前が進めたからだろうが。それ以外に髪型を変えた理由はない」


「よかった。祐介はやっぱり祐介だね」


 莉奈はどこか安心した様子でホッと一息つく。


「それはどういうこと?」

 

「別に。それよりもそろそろ戻ろうよ」


「待て、非常に気になるから話を‥‥」


 その後祐介は右手を莉奈に引っ張られながら、屋上の扉へと近づいていく。

 ドアを開けて2人の顔を見る吹雪はどこか安心したように祐介達を迎えた。

 

 

 

☆★




「うまくいったようだな」


 吹雪は屋上のドア越しでの2人の会話を聞き安堵する。

 吹雪は莉奈が祐介に好意を抱いていることを幼い時から知っていた。

 それは吹雪だけではなく、則之や恵梨香達全員が知っていることであり、気づいていないのは当人同士だ。

 今日の委員決めでも莉奈は朝から不機嫌だったのと祐介を指名する気恥ずかしさがあって自分のことを指名したと吹雪は推測している。

 今日の莉奈の行動に対して彼は酷くあきれてしまう。

 そして自分が辞退しても莉奈が他の男を指名するだろうと思い、わざと推薦を承諾した。

 その後先生には委員長辞退の話と代わりの推薦として祐介に代わってもらうようにお願いをし、不機嫌な莉奈と落ち込んでいた祐介を屋上に呼び出した。

 それが世話の焼ける2人に対する、吹雪なりの誠意である。

 

「あら、吹雪さん。こんにちは」


「あぁ」


 短く返事をした吹雪は階下に現れた金髪の少女を見下ろしていた。

 

「祐介さんとの話し合いはもう終わったんですか?」


「残念ながらまだ終わっていない。このドアの向こうで話し合いの途中だ」


 目の前に現れたのは姫神ララ、中学で同じクラスになり現在祐介がもっとも親しくしている女性である。

 正直吹雪はこの少女のことを脅威に感じている。

 座っているだけでも分かる異常な量の魔力と上品なたたずまい。

 何より全てを見通すような笑顔が吹雪を一層不安にさせる。

 

「そうですか。是非とも祐介さんと莉奈さんには仲直りをしてもらいたいですね」


「何故莉奈の名前がそこで出てくるんだ?」


「それは単なる勘です。私の勘は結構当たるんですよ」


「そうか」


 目の前の女神は相変わらず微笑を絶やさないため、彼女が何を思っているのか吹雪はつかめなかった。

 やがて、目の前の少女は階段を1段1段ゆっくりと上ってくる。

 

「吹雪さんも2人には早くくっついてもらった方が気が楽なんではないですか?」


 目の前の少女の言葉に吹雪ははっとするが、すぐさま平静を装った。

 元々三枝家と九条家の間で縁談の話しは上がってたが、吹雪の一存で破談に終わっている。

 そしてこの話は莉奈以外の九条家親族と三枝家しか知らない情報である。

 

「それはどういう意味だ?」


「言葉通りの意味です。そうすれば吹雪さん達の負担も減るんじゃないかと思いまして」


「(この女は俺にかまをかけたのか?)」


 吹雪が見つめる視線の先にはいまだに笑顔な女神の姿がある。

 その顔は特にはこちらを勘繰っていなさそうであった。

 ドアがノックされた音と同時に吹雪は目の前の少女への詮索をやめ、屋上の扉を開いた。

ご覧いただきありがとうございます。


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