黒幕達の思惑
今回はスノーサイドプロダクション側の話になります。
スノーサイドプロダクションの社長室。
窓際にある机と部屋の中央に2つの大きなソファーが置かれている簡素な部屋で、いつもと同じように業務連絡を行う2人の男の姿があった。
「社長、月末のパーティの件準備が整いました」
「ご苦労。いつもいつも君には迷惑ばかりかけて悪いと思ってるよ」
「いえ、これも事務所を存続させるためですので」
30代前半の若い男が無愛想な顔のまま頭を下げる。
若い男の方はびしっと決まる黒いスーツと坊主の髪から、その筋の人と間違われるほどのいかつい顔をしていた。
それを見て社長と呼ばれたもう1人の車椅子姿の年老いた男は、満足そうにスーツの男のことを見ていた。
「そんなに頭を下げないで顔を上げてくれないか」
「わかりました」
穏やかな口調で話す老人の前でスーツの男は顔を上げた。
彼の目の前では和やかな表情で老人がスーツの男のことを見上げている。
「それで会場の方はどうなっている?」
「はい。予定通りクリスタルパレスホテルのパーティーホールを全て貸しきりにしました。それとホテルの最上階から下2つ含めた計3つのフロアーを全て抑えてあります」
「おぉ、さすが仕事が早い。で、参加者へリストの手配は?」
「はい、完了しています。既に招待状を送った方から指名が来ている子もいますので、そういう子には話も既に通しています」
「素晴らしい。君が優秀で助かるよ」
そう言うと年老いた男はくしゃくしゃの笑みでスーツの男のことを称える。
スーツの男は年老いた老人の言葉を微動だにせず聞いていた。
「それにしても気が早いものだな。プロダクションの女の子と1対1で話がしたいだなんて」
「それでも例年よりは少ないぐらいです。普段ならこの段階で最上階のフロワーは全て満室になるはずですので」
「それもそうだ。これもお披露目するアイドルグループのせいだろうなぁ」
目の前の年老いた男はその場でほくそ笑む。
老人の言う通り、招待状を送ったスポンサーの中からは今回のパーティーでお披露目されるデビュー予定のグループの指名が相次いでいた。
そのことについて電話口で事情を説明するのが非常に面倒だったことをスーツの男は今でも覚えている。
「社長のおっしゃる通り、デビューするグループの子達は若くて可愛い子が多いので参加者は彼女達のことを狙っているそうです」
「そうかそうか。それは素晴らしい。こちらもあのグループの指名は当日のみと定めたかいがある」
今回行ったオーディションは社長先導で行った1大プロジェクトでもある。
そのためオーディションの時も歌唱力だけでなく見た目の方も力を入れた。
今回のパーティーも彼女達のお披露目のため、大きな場所を取りいつもの常連客だけでなく大口のスポンサーまで呼びかけたのである。
なのでこのパーティーはなんとしても成功させないといけない。
「彼女達にはそのことを話したのか?」
「いえ、なにぶん初めてのようですので慎重に物事を進めています。パーティー当日も彼女達が気に入った人を選んでもらうつもりです」
「それもそうだな。初めての営業ぐらい好きな人を選ばせて上げないと。まぁ、選ぶといっても限定されてると思うがそこはさじ加減といった所か」
老人は満面の笑みを浮かべスーツ姿の男の方を見た。
その醜悪な老人の笑みをスーツの男は汚らわしく思いながらも、表情に出すことはない。
「それに話といっても夜通し行われるはずなので、スポンサー獲得のためにも彼女達には優先的に最上階を使って貰う予定です」
「何しろ夜通しの会話だからな。景色がいい所で話すに限る」
老人の言うことに男は無表情でうなずく。
その表情はまるでロボットのようでもあった。
「まぁ、それで仕事が手に入れられるものなら安い話です」
「そうなるだろう」
「ただ、1つだけ気になることが」
そう言うとスーツの男はこの日初めて表情を崩し、曇った表情を老人に向ける。
「どうした? 何かあったのか?」
「はい。実はこういうものが届いていて‥‥‥‥」
そう言うとスーツの男はポケットから1枚の紙を取り出し、老人に渡す。
「この紙は?」
「西園寺グループからです。今朝西園寺グループの方から記念パーティーへの参加申し込みがありました」
「西園寺か。別に気にする必要はないだろう。むしろあそこは出版業界に強いからグラビアやモデルの仕事が舞い込んできていいことずくめではないか。どこに問題がある?」
老人はきつい視線をスーツの男に向ける。
その目はスーツの男は激しく叱責しているような目でもあった。
そんな物事を早合点する老人にあきれつつも、スーツの男は話を続ける。
「今回の件は西園寺会長が参加するのではなく、その令嬢が参加したいようです。令嬢は駆け出しといえど西園寺とは別の大手新聞社勤めらしいので警戒する方が宜しいかと思います」
「ふむ、そうか。それで西園寺のご令嬢にカタログの方は送ったのか?」
「いいえ、念のため送っていません」
「それでいい。どうせネタを掴むための潜入だろうが、あんな小娘1人に何かできる力などあるはずがない」
つまらなそうな表情で老人は話す。
このような煩わしいことも社長が判断を下すのではなく、自分に全て任せてくれればいいのにとスーツの男はいつも思っている。
「では、泳がせておいてもよろしいですか?」
「あぁ、それでいい。証拠がなければ新聞記者とはいえ何も出来まい。それにいざとなったらスキャンダルをもみ消すよう圧力をかければいい。今まで通りにな」
「わかりました」
男は老人のこのような所が好きではなかった。
計画性がなく場当たり的な対応で物事を何とかしようしてきて、危ない橋を何度も渡ってきたことを社長はわかっていない。
時には口止め料として、出版社に金を握らせるようなことをしてきたがスーツの男に言わせれば事前に対策を練っておけば特に問題にもならなかったものばかりである。
問題を未然に防ごうとする男にとって、問題が起こってから行動する社長の考えがいまだに好きになれない。
社長の対応を腹立たしく思いつつも男は老人に一礼し、背を向けて社長室を後にしようとする。
「そうだ、阿南君」
「はい、社長。何でしょうか?」
阿南と呼ばれたスーツ姿の男は社長室の扉にかけた手を止める。
「万が一、万が一だが何かあっては困るから、念のためにいつもより各階の警備は厳重にしておけ。それだけすれば何も起こらないだろう」
「かしこまりました」
珍しく懸命な判断をしたなと思いつつ、スーツ姿の男は今度こそ部屋から退室をする。
「全く、阿南君も心配性だ。あんなお邪魔虫1人いても何もできるわけないだろうに」
そう会長室でため息をつく老人の言葉は誰にも聞こえない。
1人残った老人は虚空の空を眺め、これからのことに思いをはせた。
ご覧いただきありがとうございます。
次回は祐介達側の視点に戻ります。
なるべく早く投稿できるようにしますので今しばらくお待ち下さい。




